なに・・・・・・これ?
それから四宮のレーンでの握手を終えて、チェキ撮影へとはいった。
俺はこの日、一つの――個人的にはかなり大きな――目標を掲げていた。
それは、今日こそ四宮とツーショットでチェキを撮る、ということ。
これまでは、恥ずかしくてそれが一度もできないままでいたけれど、今日こそは絶対にツーショットチェキをと、ムダに意気込み、同時に緊張していた。
遂に順番が回ってきて、運営スタッフ――あえてここは〝お姉さん〟と言っておこう――から訊ねられる。
「だれと撮る?」
「し、四宮さんで・・・・・・」
やっと言えた。
これまでずっと越えられなかった難関を、やっと一つクリアできた。
これでやっと念願の四宮とのツーショットが撮れる、そんなことを考えていると、指名された彼女が意外そうな顔をして訊ねてきた。
「私でいいの? 今日で倫佳、最後だよ?」
こちとら勇気出して言ったのに、なんでそんな言い方するんだよ、なんて思ってしまう。
「いいのいいの。俺が撮りたい人と撮るんだから・・・・・・。それに、券はもう一枚あるし」
我ながら余計なことを言ってしまった。
半ば勢いに任せて更にとんでもないことを言ってしまう。
「撮りたくないんなら別にいいけど・・・・・・」
いいわけがない。
そんなことは自分が一番理解している。
彼女と撮らなければ、今回の勇気が全て水の泡になってしまう。
「撮るよ。撮りますよ~」
四宮が笑顔で言った。
かなり危なかった。
危機的状況を切り抜けられたことに胸を撫で下ろす。
これでもし、拒否でもされてしまったならまたヘコんで帰るハメになってしまうところだった。
それから、どんなポーズで撮るかという話になり、最初だから無難にピースで、という結論に至り、カメラの方を向いて立つ。
シャッターが下ろされる直前、俺の肘に一歩前に進み出たらしい四宮の肩がぶつかり、ドンという微かな音が耳に届いた。
このとき俺は事件が起きていることに全くもって気がついてなどおらず、それに気づいたのは、カメラから出てきたチェキを目にしたときだった。
今、俺の手の中にあるチェキに写っている左肘は彼女の胸の高さにある。
つまり、あの瞬間にぶつかってしまったのは肩ではなく、胸だったらしい。
冷静に考えればわかることなのかもしれないけれど、彼女は元々俺より身長が高く、更に踵の高い靴を履いているわけだから俺の肘に肩が当たるなんてことはまずもって考えられないことで、彼女が少しかがんでしまっているために肘と胸の高さがぴったりだった。
チェキ一枚を手にしたままで呆然としている俺に彼女が声をかけてきた。
「どうしたの~? ボーッとしちゃって・・・・・・」
「べ、別になんでもない! なんもないよ・・・・・・?」
咄嗟に大慌てで誤魔化してしまう。
言えるはずがなかった。
とてもじゃないけれど、胸が当たったなんて言ったら半殺しもいいところだ。
ましてや、ない胸が当たってしまったなんてことはもっと言えない。そんなラッキーな事故で一生分の運を今日、使い切ってしまったのかもしれない。
そしてイベントの最後に俺は五人組を代表して倫佳に二十五本の向日葵の花束を渡した。
それによって俺はその後暫くは、向日葵の花束の人、と呼ばれるようになってしまった。
*
そして迎えた月曜日。
昼休みになり、四宮の席の周囲に鷲田と真木たち四人が集まって五談笑をしている。
真木たち四人はイメチェンして以降――四宮と鷲田と共に――クラスメイトのほぼ全員の視線を集めるようになっていた。
よくよく考えてみるとこのシックスショットはとても凄い絵面だと思う。
一方は妬まれ、もう一方は妬み、かたや目の敵にしていた女たちが今は仲良く机を囲んで笑い合っているのだから。
単純に六人の容姿が視線を集めるに値するだけでなく、それぞれの以前の関係を知っているからこそ、それだけ話題にもなり、且つ視線を集める結果になっていると言えた。
けれど、当の本人たちは最早そんなことなどお構いなしといったところらしい。
俺自身が今の現状に至るきっかけを作ったとは言え、女ってものの心持ちは到底理解できそうもない。
と、そこで真木がガチャガチャと数枚のいたく見覚えのある――俺たちのバンドが過去にリリースした――CDアルバムを三枚ばかり机に並べ始めた。
幸いそれらは俺が声変わりする前に収録した音源を、中学一年のときにDO5の前身の――『我らオッパイ愛好会』という訳のわからない名前で、三ヶ月で改名することになった――としてリリースしたものだったため、彼女らが余計なことを言わなければ、たぶん歌い手が俺であることには気付かれないはずだ。
それにしても〝我らオッパイ愛好会〟なんて思春期真っ只中の頭で悪ふざけの一環として考えたバンドの名で三ヶ月も活動していた――おまけにそれぞれに貧乳派、下乳派、美乳派、巨乳派、ロケット派、なんてものまであった――なんて今考えると身の毛がよだつ。
それこそ、悲し懐かし、俺たちの黒歴史の記念すべき一つ目だった。
「ねえ・・・・・・。これって、なに?」
四宮がそれはそれは怪訝そうな声で真木に訊ねる。
――そりゃ、そんな反応にもなるわな・・・・・・。
「名前はかなりふざけてるけど、結構いい曲多いんだよ?」
「そうじゃなくて、三枚目のボーナストラックの曲・・・・・・」
個人的に四宮にそれだけは聴いてほしくないというクソみたいな曲。
あろうことか、鷲田がその曲名を声に出して結構なボリュームで読み上げる。
「なになに? ・・・・・・〝ウ○コの詩〟? なに・・・・・・これ?」
鷲田がこの曲の存在を知らなかったのは意外だったけれど、お願いだから学校でそれだけは聴かないでくれ。
って言うか、タイトルは読み上げないでほしかった。
おかげで生徒のほとんどが彼女たちを見ている。
あろうことか、ここで更に泰知がとんでもない横槍をいれた。
「みんなで聴いてみようよ! 俺、その曲知らないからすげえ気になる! ね? 蒼ちゃん?」
――こっちに話をふるな!
「いや・・・・・・。その曲は、聴かない方がいいと思うぞ?」
俺が困りながらそう言うと、四宮が言う。
「このグループ知ってるの?」
そこでまた泰知が割り込んでくる。
「知ってるもなにも、蒼ちゃん・・・・・・」
「ファンだから! すっげえファンだったから! 一応、知ってる・・・・・・」
泰知がまた余計なことを言ってしまう前に喰い気味に叫んでしまった。
四宮はなにかを考えるようにして黙り込んだかと思いきや、残酷な一言を口走った。
「・・・・・・じゃあ、聴いてみようかな」
――なんでそうなんの? 人生・・・・・・終わった。
勢い余って言ってしまったとはいえ、こんな曲を歌っているのが自分自身で、しかもこれから流されてしまうであろう曲は唯一、ちょっとした遊び心で作ったふざけた楽曲。
そんなものを前に凄いファンだとまで言ってしまった。
万一、俺が歌っていることが四宮に知られることがなかったとしても、そんなふざけた曲を歌っているグループの熱烈なファンだと思われてしまうわけだからドン引きされてしまうことは、ほぼ間違いない。
俺はこの先きっと『ウ○コの詩のオッパイファン』としてクラス中の笑いものになってしまうことだろう。
なぜか、そんな展開に作曲者であるはずの良太たちは揃って爆笑している。
親友の絶望的な大ピンチに爆笑できてしまう心持ちが理解できない。
「じゃ、決まりね?」
言うが早いか泰知がそのCDを手にとって教室に置かれているCDデッキにセットして、最悪な曲をかけたことで、ガチャガチャとした明るいサウンドのイントロが流れ、地獄へのカウントダウンが始まってしまった。
声変わりする前の自分自身の――女顔負けの――かなり高い声が遂に一音目を発する。
♪~ 君はなんにも気づかずに 陽気に鼻唄歌ってる
君はなんにも知らないで スキップしながら進んでる
君は明るく元気良く 大腸菌を撒き散らす
さっき踏んだよ? その靴で 地雷をお一つ踏んづけた
ウ○コ! ウ○コ! ウ○コ! ウ・○・コ――――!
犬が! 産んだ! ウ○コ! 踏んだ―――――!
今日から君はウ○コ姫 これからあだ名はウ○コ姫
陰ではこっそりウ○コ姫 表ではっきりお姫様
ウ○コは今でも着いたまま 笑顔の姫様 ウ○コ様
ウ○コは広がる どこまでも 気付いてないから 延々と
ウ○コはすっかり乾いてる そのとき気付いたウ○コ姫
気付いて摘んで言い放つ 「なんでか粘土が付いてる」と
ウ○コを摘んで笑ってる 「粘土のとってもいい匂い♡」 ♪~




