お前ら・・・・・・だれよ?
運命の土曜日。
俺は集合場所となっているカラオケボックス〝サウンドパーク〟へと向かった。
百合花の要望により、ウィッグなしで白いティーシャツの上に薄手のグレーのパーカーを羽織り、黒のジーンズ。
黒いブーツと紫の腰巻スカート(?)という出で立ち。
紛れもなくこの前のライブのときに限りなく近い格好。
念のためメガネも持参している。
俺が待ち合わせ場所に着いてからほどなくして、良太たち四人、鷲田、安浦の順で今回の面子の過半数が顔を揃えた。
「「おぉぉおぉぉおぉぉ―――――――――――――――――っ!!」」
と、到着するなり息の合ったコンビネーションで絶叫する安浦姉弟。
「やっぱこっちのがいいと思うわー。もう、五人共ウィッグなんか外して学校来りゃあいいのにー。なんでいつもわざわざ地味なカッコしてんの?」
安浦に直球な質問を浴びせられるが、その理由は曰く言い難い。
明確な理由があるかと問われればそういうわけではないのだが、早い話が怖いのだ、周囲の反応が。
「絶対にそれだけはムリだ!」
俺はキッパリと断言した。
続いて安浦が意味不明なことを口走る。
「そのカッコなら絶対にもっとモテモテだろうにねえ」
「それだけはないわ!」
と、俺は速攻で否定した。
それに対してなぜかニヤつきながら安浦が肩を竦めて言う。
「まあ、無理にとは言わないけどさ。・・・・・・あ、そう言えば、残りの四人は少し遅れるらしいから先行っとこうよ」
俺たちは安浦の提案に従ってカラオケボックスへと移動した。
部屋に入ると早速人数ぶんのドリンクの注文を終え、百合花がノリノリで歌を歌い始めた。
さすがはシンガーコースに所属しているだけあって、かなりの歌唱力だ。
続いて泰知にマイクが渡った。
ロック調のサウンドが流れ始める。
正直言って、意外。
普段のおとぼけキャラからは全く想像もできない選曲と歌唱力に度肝を抜かれてしまった。
ノンストップで鷲田、佑斗、良太、一騎、誠ノ介の順にマイクがリレーされ、俺の順番が回ってきた。
超ハイレベルな歌唱力の連中の後に歌うのはかなりのプレッシャーだった。
なんとか大きく音を外すこともなく歌い終えることができ、上手いと言ってももらえた。
本気でプロを目指している人間がいる中で歌うことは正直言ってかなり緊張した。
歌い終えたとき、室内の明かりが点けられた。
俺は眩しさを堪えながらも辺りを見渡してみた。
そして開始当初より人数が増えていることに気づく。
おまけになぜかは知らないが、一人はしゃくりあげながら号泣している。
その女はしゃくりあげながらもよくわからないことを呟いた。
「ヤバい・・・・・・。あのときの・・・・・・。本物だ・・・・・・」
どうやら俺が歌っている間に、泰知が遅れると言っていた四人組らしき面子が合流していたらしい。
けれど今この場所にいる合流組の四人が、だということを信じられず、思わず口走ってしまう。
「お前ら・・・・・・だれよ?」
俺がそう言った理由は、嫌味なんかではなく目の前の四人の雰囲気が普段と違いすぎて、純粋にだれだかわからず、あのギャル四人衆だと信じられなかったからだ。
「同じクラスのくせにとぼけるわけ?」
言葉とは裏腹に口調にいつもの刺々しい威勢のよさが感じられない。
――この声って・・・・・・まさか、ウ○コ女!?
いつもはケバケバのゴリゴリなギャルメイクで完全武装しているくせに今日はほとんどすっぴんなのではないかと思うほどに薄い。
おそらくファンデーションを軽く塗って眉をかいているだけ。
はっきり言って、まるっきり別人だ。
「お前・・・・・・まさか・・・・・・。あれ? あのさ・・・・・・」
俺がそこまで言いかけたところで怪訝そうに眉を潜めながら訊いてくるウ○コ女(?)。
気のせいか、顔に少しばかり赤みが差しているようにも見える。
「な・・・・・・なによ?」
「お前らって名前、なんていうんだったっけ?」
四人は揃って俺の言葉に口を開けて本の数秒間、固まってしまった。
やがて我に返ったらしくリーダー格の女が戦慄きながら口を開いた。
「あんた・・・・・・それ、マジで言ってんの・・・・・・?」
「ああ、知らん・・・・・・。良太、こいつらの名前知ってる?」
良太は苦笑しながら言う。
「悪い・・・・・・俺も知らんわ」
俺と良太だけではなくほかの三人も四人の名前を把握していないことが発覚した。
「じゃ、じゃあ・・・・・・あんたたちはウチらのことなんだと思ってたのよ?」
「性格ブス集団」
「性悪女の集まり」
「運悪く同じクラスになってしまったクラスメイト」
「どうしようもなくくだらない連中」
「どうでもいいブス軍団」
俺、良太、誠ノ介、佑斗、一騎の順に葉に衣着せぬ正直な印象を述べていった。
一切手加減のない言葉を浴びせられた四人は泣き出す寸前の状態に陥ってしまい、険悪な空気をどうにかしようとしたのか、百合花が言った。
「そこまで言っちゃかわいそうだよ・・・・・・」
「「「「せ・・・・・・先輩・・・・・・」」」」
四人は涙を浮かべながらすがるような視線を彼女に向けている。
「たとえこの娘たちが運悪く同じクラスになってしまったどうでもいい性格ブスな、救いようのないクソビッチだったとしても、今日は関係ないでしょ? みんなで楽しもうね~」
「「「「「「「「「「「えっ・・・・・・?」」」」」」」」」」」
と、その場にいた百合花以外の全員の声が見事にシンクロする。
さすがに言い過ぎたかもしれない、と思ったのも束の間のことだった。
次の瞬間、あろうことか、四人を庇ったはずの百合花が爽やかな顔で超ド級の爆弾を投下してしまったのだから。
――あんた、トドメ刺したよね? だれもそこまでひどいことは言ってませんけど?
見事に掌を返された四人組は顔を蒼白くして涙を流しながら引きつった笑顔を浮かべる。
おそらく前代未聞の複雑怪奇な感情に支配されたがゆえのことだろう。
そこで鷲田と泰知の二人が、恐ろしく気まずい雰囲気を打開しようと立ち上がった。
「おい、姉貴! せっかくの仲直りの機会だってのに余計なこと言ってんじゃねえよ!」
「そ・・・・・・そうだよ! 過去には色々あったかもしれないけどさ、今日で全部水に流して、みんなで楽しもうよ?」
鷲田も泰知も尋常ではなく焦っている様子だ。
無理もない。
この状況で焦らない方がどうかしていると思う。
現に、きっかけを作ってしまったはずの俺たちでさえ若干の焦りと、言いようのない緊張感で支配されていた。
なにごともなさげに清ました笑顔を浮かべているのは百合花ただ一人だけ。
そうだ。
俺はこいつらの口から直接四宮に謝らせることが目標だったはずなのに、こんなところで他愛ない口喧嘩なんてしている場合じゃない。
「そんなことよりさ、お互いにっつーか、蒼ちゃんたちがこの娘らのことよく知らねえんならこの機会に改めて自己紹介でもしようよ」
四人組は少々釈然としない様子だったが、渋々頷いた。
泰知の提案によって総勢十二人による自己紹介が順に行われることになった。
「そんじゃあ、まずは俺からね? クラスは一年A組、ヘアメイクコース所属の。悲しいことにこの空気読めなさ抜群の女の弟で、安浦泰知って言います。趣味は読書で、今ハマってる本は〝ダメダメな俺が死ぬほどモテモテなんて人生捨てたもんじゃないけど、ぶっちゃけちょっと疲れる〟っていうタイトルのライトノベルです! って言っても、もう知ってる人ばっかだと思うけど、この本はこないだ蒼ちゃんから借りて読み始めたばっかなんだけどね。あ、それから彼女はいません。絶賛大募集中! ってことでみんなよろしく」
泰知は隣に座っている姉に一度どつかれながらも自分のプロフィールを述べていった。
「じゃあ、次は私だね? 私は二年C組でシンガーコース所属。悲惨なことにこのクソ生意気な男の姉になります。安浦百合花です。この五人が中学時代に組んでたバンドのファンです。ちなみにDO5のことを知ったのは中二の冬です。それがきっかけで私も歌手になりたいと思うようになってシンガーコースを選びました。それから私は蒼ちゃんのことを推してます! 敵は多いけど負ける気はしません! あと、空気は読めないわけじゃありません。意図的に読まないだけなんで、そこんとこよろしくよろしく~」
――あんた、笑顔全開で次から次へとすごいこと言ってんだけど、気付いてる?
しかも百合花は自己紹介の最中ずっと、なぜか敵意むき出しだと言わんばかりの形相で鷲田とウ○コ女の方ばかりをジロジロと見続けていた。
それから俺たち五人と鷲田の自己紹介が終わり、残すは四人組だけとなったところでウ○コ女がマイクを持って立ち上がった。
「真木琴音です。一年A組のモデルコース所属、夢は読モになること。・・・・・・ごめんなさい」
そう言ってウ○コ女改め、真木琴音は深く腰を折った。
残りの三人の名前が亀山弥生と鶴田皐月、棚林心彩だということ、四人揃ってモデルコース所属者で、モデルを目指して真城高専に入学したらしいことがわかった。