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5話 飛び級します!

若干の説明回です。


 魔術の練習を始めてから3ヶ月が経った。


 ちなみにこの世界では、1ヶ月35日の、10ヶ月で1年とされているらしい。

 一応、1ヶ月は7日毎に区切られているけど、『日曜日は基本休み』なんていう認識はない。

 単純に日数を数えたりするのに都合がいいため、区切ってあるんだとか。


 初日こそひたすら水玉(ウォーターボール)氷玉(アイスボール)を作り続けるだけの地味な反復練習だったけど、次の日にはカーラに


「次は水壁(ウォーターウォール)の練習しよっか! それができたら、氷壁(アイスウォール)土壁(クレイウォール)火壁(ファイアウォール)も!!」


 なんて言われた。

 それからというものの、複数の魔術を魔力切れを起こすギリギリまで使い続ける毎日を送っている。


 水壁はともかく、氷、土、火壁なんてものは明らかに家の中でやっちゃっていいもんじゃなくない? とは思ったけど、カーラの監督のもと、庭で練習をすることになったんだ。

 リビングからも庭は見えるしな。


 ずっと同じ作業の繰り返しよりかは楽しいから、いいんだけどさ。


 なんでも、カーラが言うには、俺の体内魔力量は尋常じゃないらしい。

 具体的には、この王国の宮廷魔術師筆頭をも上回るポテンシャルを秘めている可能性もあるのだとか。




 ……具体的に言われても、イマイチ想像できないんだけども。

 でも、アルフの部屋にあった本に書いてあったっけ……


 『マーヴィック史記』だったかな?

 本の記載によると俺が生まれたこの国、マーヴィック王国は非常に魔法技術が発展しており、建国当初より世界一の魔術大国として栄えてきたらしい。

 この国が建国される前から魔術自体は存在していたみたいだけど、建国間もない頃から知識を集積させた研究を続けることにより、今の魔術体系が生まれるに至ったのだとか。


 当時は神に与えられし力と言われていたその力が、研究を進めるにつれて魔力を持ち、かつある程度の知能があれば誰でも使えるようになることが判明し、王国内では空前の魔術ブームが起きたのだという。


 広めた人は、よく考えてると思う。

 馬鹿王だったら、研究成果を独占してその力で国民を支配、なんて馬鹿なことをやらかしそうなもんだけど。


 国民が力を持つというのは、国の上に立つ者にとって非常に恐ろしいことだ。

 前世でも国民が逆らわないように逆らわないように弾圧した結果、破滅する指導者なんて珍しいもんじゃなかったしな。

 逆に言えば、力を持った国民を味方に付ければ当然、国は安泰ってことだ。

 よっぽど求心力のあるいい王様だったんだろう。


 その後爆発的な魔術ブームは他国にまで及び、マーヴィック王国の先進的な魔術体系は公に魔術師と呼ばれる存在を生み出し、そのレベルを大きく向上させた。


 当時は日常生活に、狩猟に、あらゆる場面で魔術を扱う職業が溢れた。

 その頃から、その中でも魔術を扱う者にとって憧れの的となったのが、宮廷魔術師だったらしい。

 あらゆる魔術を高いレベルで扱い、有事の際には、国防の礎として宮廷魔術師団を率いて戦う。

 当然、対価として厚い待遇が確約され、国民からの尊敬を一身に受けることになる。

 魔術を志す者みんなが目指す、魔術界の最高峰、って感じか。


 この世界において魔力を持つ人、というのはそう珍しくもない。

 割合にして全人口のおよそ5割近くの人は大なり小なり魔力を持ち、生活の中で魔術が使われることは、別段不思議なことではないらしい。


 前にも考えたけど、魔力を持つか持たないかは、やはり遺伝によるところが大きい。

 親から子供に魔力が遺伝することがほとんど。

 けど、稀に持たない者が生まれたり、逆に持たない親から持つ子が生まれることもあるらしい。


 他のケースだと、生まれたときには魔力を持たなかった子供が成長と共に魔力を持ったりすることもなくはない。

 が、それは非常にレアなケースであって通常は起こり得ないことなのだとか。


 宮廷魔術師団に招かれる基準に、身分による制限が無いというのも魅力の一つだろう。

 才能のある貴族はもちろん、平民の冒険者なんかからも魔術の能力に優れ、人格に問題がなく、国からの招待を受けることさえできれば入れる。


 この国には奴隷階級が存在するらしい。

 奴隷の存在は公に認められており、借金やら犯罪歴やらでにっちもさっちも行かなくなった者たちが奴隷になるんだとか。

 

 前世では奴隷制度なんてもんはとうの昔に廃止されたもんだと思ってた。

 ……けどまあ、世界が変われば人の認識も変わる。

 思うところはあるけど、そういうもんなんだろう。


 ちなみに、魔力を持たないということが奴隷とされる原因になったり、差別があったりはしないらしい。

 日常生活レベルでは便利だけど、それによって生活が出来る程のレベルのー者となるとグッと数が減るんだ。


 宮廷魔術師ってやつは、例えそんな奴隷階級からでも一発逆転がありうる。

 理不尽に奴隷階級に突き落とされた者にとって、それはそれは魅力的なものだろう。

 なんせ、魔力は食って寝れば、いくらでも回復するんだから。

 それこそ、アピールする機会があればの話だけどな。


 とにかく、魔術を扱う者、皆が憧れる夢の職業というのが、国民の中での宮廷魔術師の立ち位置のようだった。

 その筆頭ともなると、それはもうとてつもなくすごいのだろう。


 その最上級の魔術師になれるだけのポテンシャルが、自分の子供にはあるのかもしれないんだ。興奮してしまっても仕方ないか。

 俺だって自分の子供にそんな才能があれば、思わず教育パパになってしまうかもしれない。

 

 別にやりたくないわけじゃないしな。

 そもそもやると決めたことだ。才能があると言われて嬉しくないわけがない。


 しかし、実際に宮廷魔術師になりたいかって言われると微妙なとこではある。

 国民の期待を一身に背負ってとか、そんな大それたことを自分がしているのは想像できないしなぁ……


 なんて考え込んでいると、家の中から声がかかる。


「シーラ? そろそろ疲れちゃったか?」


 今日はアルフが家にいる日だった。

 冒険者である彼は、家を空けるときは10日やそこらで済まないことも多いけど、その分休みも長い。

 今は一仕事終えた後の休暇中だった。


「んーん、まだだいじょうぶだけど……ね、おとーさん」

「うん? なんだ?」

「わたしがきゅーていまじゅつし? になったら、おとーさんはうれしい?」

「……うーん……どうかな。別に、宮廷魔術師になることだけが魔術師の道じゃないし、シーラが好きなお仕事ができれば、それが一番だと思うぞ。俺も魔術はそこそこ得意だったけど、宮廷に抱えられて仕事をしようとは思わなかったしな」


 意外と、アルフはその辺寛容な考えを持っているらしい。

 俺としても才能があるからといって、やりたくもないことを子供に押し付けるのは愚行だと思う。

 それでも、その道を歩んでほしいと多少は考えてしまうとは思うけど……

 ま、いい親に恵まれたってことかな。


 実際にそんな大層なもんが自分にあるかも分からないしな。

 就活なんてまだまだ先のことだろうし、気長に考えることにしよう。



 そういえば、さっきアルフが冒険者を仕事にしているとか言ってたけど、カーラもまた冒険者だったらしい。

 アルフは剣士として、カーラは魔術師として。


 なんでも、国内でも一目二目置かれる程のパーティーに所属していたらしく、カーラとアルフはそのパーティーで出会い、恋に落ちたのだと、アルフから聞いた。

 二人ともパーティーに所属していた頃には何度か、宮廷魔術師団や宮廷騎士団への勧誘もあったらしい。


 精神的に自分と同年代の男が結婚して子供を作るまでの惚気なんて、聞いてて気持ちいいもんじゃなかったけどな。

 ……というか、うちの両親って、もしかして有名人?


 結婚した上に妊娠も判明したカーラはパーティーを脱退。

 生活があるためアルフはパーティーに残ったけど、元々そこまで詰め込んだスケジュールで仕事をするパーティーではなかったらしく、そのままの仕事をしていると言っていた。

 

 稼ぎもいいみたいだしな。

 今まで共に活動してきた仲間と袂を分かつのも気が引けたので、宮廷騎士団への勧誘は今まで断り続けているのだとか。


 いざ他国との戦争なんてことになれば宮廷に仕える奴ってのは戦わないといけないんだろうし、他に稼ぐ手段があるんなら入るかどうかは個人の自由だろう。

 上級公務員と一流企業の社員どっちになるか、みたいなもんかな。

 ちょっと違う気もするけど。


「6歳からは学校に通ってもらうつもりだから、そこで色々考えてみるといいさ。シーラはまだ4歳だし、そんなこと考えなくてもいいんだぞ」


 ふむ、学校ね。

 もう既に10年以上学校に通ってる身としては面倒だと思わなくもないけど……それはそれだ。

 こっちにはこっちの歴史やら算術、一般常識があるだろうし、魔術についての授業も当然あるだろう。

 それを学んでおく価値は十二分にある。期待しとこう。




「ま、周りは中等生だからみんな年上になるとは思うが……この調子だったら、入学までに初級魔術はある程度使えそうだしな。大丈夫だろ!!」


「――いや、なんで?」


 思わず言ってしまった。


 今、さらっと小学生すっ飛ばして中学生になるみたいなこと言ったよね?

 さっきの話の流れだと


「シーラは、無理に宮廷魔術師なんて目指さなくていいから普通の学校生活を送って、先のことは気にしなくていいんだぞー」


 ってことじゃないの?

 俺が空気読めてないだけなの?


 なんて思うけど、目の前の父上はきょとんとしている。

 何を当たり前のことを、といった顔だ。


「え? いやほら、シーラは一通り字も読めるし、言葉も話せるだろ? ずっと本を読んでるみたいだから、勉強も好きみたいだし……わざわざ初等学園から通わなくてもいいだろ。初等部で勉強することつったら、文字の読み書き、あとは初級算術と初級魔術ぐらいだからな。あ、初等、中等ってのはだな――」


 と話が続く。


 なんでも、この世界の学校には初等、中等、高等学園があるらしい。

 それぞれ一般的には6~9歳、9~12歳、12~15歳が通うものとされているのだとか。


 しかし実際には入学試験をパスし、授業料を納めることのできる者なら誰でも入学することができる。

 そのため、稀にどう見ても子供には見えない年齢の人が初等学園に通ってたりもするらしい。

 もっとも年上の年齢の人はちらほら見られるものの、6歳にして中等部に通う子供なんてものは滅多に見られないのだとか。

 

 そりゃそうだ。

 算数を理解していない小学生がいきなり数学を理解できるわけがないしな。

 

 どうやら、あまりにも早くから言葉やら文字やらを覚えてしまったせいか、学校に通うスケジュールが3年程前倒しされることになってしまったようだ。

 所謂飛び級か。


 確かに覚えてしまっていることを繰り返し勉強するなんて面白くもなんともないし、理には適ってはいるんだけど……。

 飛び級。なんかクラスメイトに苛められたりしそうな響きのする言葉だな。

 ちょっと不安だ。


「えっと……まわりのこ、みんなとしうえなんだよね? いじめられたり、しないかな?」

「イジメ? ……シーラを苛める奴なんていたら、次の日には学校に来られなくしてやるさ、安心しろ!」


 なるほどなるほど。


 そういえば、アルフは親バカだったな。

 とんでもないモンスターペアレントに為りうる素質を持った、親 (バカ)3乗を絵に描いたような男だ。


 寝ていたら「シーラは可愛いなぁ……」と擦り寄ってくるし、何かにつけてやたら褒めてくれるもんだからなにやら危険な性癖でも持っているのかと思いきや、純粋な愛情からこうなってしまったようだった。


 にしても――男に擦り寄られてるってのに、そういう時って特になんとも思わないもんなんだよね。

 親だからか? 


 ……もしかしたらイケメンにはそれを感じさせない技術があるのかもしれない。

 生まれてこの方イケメンになった試しがないから、分からないけども。


 まあ、イジメが云々で学校行けなくなるような歳でもないし。

 なんとかなるかな。


 シーラの身体になってからは妙に物覚えがいいように感じる。

 まだ小さいからかもしれないけど、色んなことがすんなり頭に入ってくる。

 それに、魔術だって色々使える。

 つっかかられることはあるかもしれないけど、一方的に苛められるようなことにはならない、と思う。


「……うん、わかった。でも、がっこーのこに、あんまりひどいこと、しないでね?」


 学校に行くことには決めた。

 が、目の前の男がそういった事態が起きた際何をやらかすか分からない。

 きっちり、釘は刺しておかないとな。




―――――――




 その後、「あ~~~~~~、シーラはなんて優しいんだぁ!! 入学試験まで、頑張ろうなぁ!!!」なんて叫びながら暑苦しい筋肉ダルマに抱きしめられたけど、やはり不思議と嫌な気持ちはしなかった。


 こ、こどものからだってすげー!

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