4話 俺、才能あるって
「えー……っとぉ」
目まぐるしく変化する状況に戸惑ってしまう。
そもそも、魔術らしきものを使ってしまったことは、やっちゃいけないことだったりしないんだろうか。
(幼い頃から使ってると魔力に異常が起こるだとか……年齢制限があったりとか、その辺怖くない?)
魔力なんてものが本当に存在するのかも分からない。
教本にあることを読み上げて火が出たのは結果であり、実際に起こるまでのメカニズムに前世で言うところの『魔力』が関わってるとは限らないしな。
「えーと、ね、ま、まじゅつってなーに? おかーさん」
とりあえずそう返す。あまりにも、知らないことが多すぎるのだ。
情報を得ないことには始まらないだろう。
「ああ、そうね……まず魔術の説明からね。私ったら興奮しちゃって!」
何やら興奮してらっしゃるようだ。
今のやり取りのどこに興奮するシーンがあったんだろうか。
とんと検討が付かないけども。
そして、そこからカーラの魔術についての講義が始まった……長々と。
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「うへぇぇ……もう夜かぁ」
ずいぶん長い間話を聞いていたみたいだ。
おかげで魔術に関してはエキスパートレベル……ではないだろうけど、基礎的な部分は理解することができた。
カーラからは「魔術教本の説明書きの部分、読んでおけば分かりやすいと思うよ! あ、もちろん、詠唱の部分は声に出して読まないようにね!!」とのこと。
(……読むな読むなって言われたら普通、読んじゃうんじゃね? 子供ってやつは)
どうやらうちの母さんは少し、抜けているらしい。
ともあれカーラの話によると、やはりこの世界の魔術というものは、魔力なるものの干渉によって起こされるものと考えられているそうだ。
しかし、ただ呪文を詠唱すれば効果が発現するというわけではないらしい。
教本の冒頭部分の説明書きにはこう書いてある。
『魔術を使用、具現化するには、基本的に魔力を練り上げる、イメージ、詠唱、の3手順を踏む必要がある』
……うん、なるほど。
確かにあの時は目の前に火の玉が浮かび上がる、そんなイメージをしてた。
魔力を練り上げるというのは、イマイチ方法が分からないけど……案外、気合を入れることが重要だったりするのかもしれない。
あの時は割と本気で炎出すつもりだったし。
ちなみに、魔力は体内だけではなく体外にも存在しているらしく、効果の発動はその両方の干渉によって起こるのだそうだ。
魔術の才能があるものは体外の魔力への伝導率が元々高く、効果が増幅されやすいとのことだった。
……それにしても――
「――俺、魔術の才能、あるんだ……」
あの時、壁が燃えたときに発現した火玉。
あれは明らかに『人魂』といった規模のものじゃなく、巨大な炎の塊、といった感じだった。
そのことについてはカーラに聞いてみた。
「基本的に、身体の中の魔力がいっぱいあると、魔術の効果は大きくなるの。普通はこんな火事になるような、火玉ができることってないんだよ」
そういうことらしかった。
興奮していたと言っていたが、あれは、自分の娘の才能の大きさに気づいて驚いていた、ってことか。
魔術の勉強をするというのは、意識的に火玉の火力を抑えるとか、水玉の水量を落とすとか、そういった「大は小を兼ねる」を実践するためのコントロール練習が必要だから、今のうちからそのトレーニングをしようと思ったそうだ。
カーラもそうして威力をコントロールすることで、日常生活に魔術を組み入れているのだという。
普通はコントロールする必要無いんなら、カーラもそれなりに魔術の才能があるってことだ。
……てことは、魔術的な才能は遺伝するものなのかもしれない。
魔術を使用すること自体に問題はないらしかった。
幼い頃から才能のある子に魔術を使わせた方が伸びしろが大きいらしく、魔術の上手さは将来的にステータスになるということもあり、むしろ、できるだけ幼い頃からの魔術使用が奨励されているらしい。
通常、文字を覚えてかつ、イメージが上手くなるのは早くとも6~7歳かららしいけども。
言われてみれば、そりゃそうか。道理で騒がれるわけだ。
「……どうしよ、ワクワクしてきた」
いや、するよな、そりゃ。
先程自分が何も無い所から生み出した、炎の塊と水の塊を思い浮かべ、思わずニヤけてしまう。
小さな子供の頃から夢見てた、魔法が存在する世界。
成長するにつれて形は変わったけど、不可思議な力に触れてみたいという思いは常に抱えてたと思う。
それが、急に現実になったんだ。
自分にはその才能があるというのだから、興奮しない方がおかしい。
女の子になるなんてオプションはいらなかったけどな。
寂しくなるし。
今は亡き相棒に思いを馳せ、ちょっとおセンチな気分。
まあ、この国の人は総じて西洋風の顔立ちのようだし、両親は美形ときたもんだ。
この世界の基準は分からないけど……そこそこ可愛い女の子になれるとしたら、それはそれで楽しそうだと思えなくもない、うん。
「……よし。せっかく、才能があるって、言われたんだし。練習しなきゃもったいないよね!」
どうせなら5歳ぐらいに記憶戻してくれよ! なんて思わないこともなかったけど。
俺を生まれ変わらせた神様なんてものがいるなら、大層面白がってるだろうけど!!
……いや、言ってても仕方ないな。
考えてみれば、これはチャンスなんだ。
恥ずかしい思いをした代わりと言っちゃなんだけど、他の子が勉強を始める前から言葉を覚え、文字を覚え、魔術を覚えられる。
ついでに才能も持ち合わせてる、はず。
感謝こそすれ文句を言う権利はないだろう。
神様、ありがとうございます。
生まれ変わったつもりで頑張らせていただきますんで、暖かい目で見守ってください。
なんてね。
近頃努力が続いた記憶はとんと無いし、三日坊主を象徴する人間だった自覚はあるけど。
せっかく親が喜んでくれてるんだ。やるだけやってやろうじゃんか。
ともあれ、俺は魔術の習得に励むことを決めたのだった。
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魔術を頑張ると決めたとはいえ、まだ4歳の身体だ。
あまり遠出をして大きな規模の魔術を使うなんてことはせず、ひたすら火玉、水玉といった初歩の魔術をコントロールするところから始めることになった。
基本的にカーラが家にいるとはいえ、彼女は彼女でやることが多い。
洗濯、掃除、食事といった家事全般だけではなく、何やら編み物を編んだりといったこともしてるみたいだ。
聞いてみると、俺が産まれてからは在宅で働ける仕事として編み物を編んで、売っているのだとか。
そんなことしなくても生活に余裕はありそうに見えるけど……本人の趣味でもあるらしい。
そういや、アルフはどんな仕事してるんだろうか。
今度聞いてみるか。
とまあ、そんな事情もあってしばらくは威力のコントロールを中心に反復練習を繰り返すことになっていた。
火系の魔術に関しては、壁を焦がした苦い経験のこともあったし、何より一人で使うには危険だったから、外で練習できるようになってからということになった。
となると必然的に普段やる練習は、風呂場で水玉を出して小さくしたり、大きくしたり、といったものになる。
「えー、と……まず、気合、入れて。そんで、水の玉……ソフトボールぐらいを、イメージして…………」
初級水属性魔術である水玉を行使するべく、モヤモヤとそんなことを考える。
あの時は目の前の惨事をなんとかしようと必死だったからか、イマイチ覚えてないけど、魔力を練り上げるという作業は魔術が使える者にとっては、そう難しいものではないらしい。
「こう、お腹のあたりにクッと力を入れる感じ! う○ちするときみたいなっ!」とはカーラの弁だった。
……もうちょい他の例えがありそうなもんだけど。
まぁ、分かりやすかったからいいか。
(余計なこと考えたな。……お腹に力入れて、ソフトボールぐらいの水の玉……)
「……清き水よ! 眼前に現れ形を成せ、水玉!」
ポンッという音と共に目の前に水が浮かび上がり、フヨフヨと宙を漂っている。
サイズは、バスケットボール大ぐらいのモノになったけども。
なんでも、魔力ってもんは割と何にでも変化するらしく、火、土、水、氷、どれも魔術が形となって現れるものなんだとか。
詠唱も形を成せ、とかって言ってるしそれはそうか。
……金やらダイヤモンドやらを出せる魔術があれば一攫千金できるんじゃね?
なんて思ったりしたけど、魔術で作った貴金属なんかは鑑定魔術で即バレすると教本に書いてあった。
ていうか、生み出すことができる術式自体が禁術として扱われているらしく、世の中に出回ってないのだとか。
そりゃそうだよなぁ。
……思考を元に戻す。
あの時は威力なんてお構いなしにぶっ放したけど、実際意識してコントロールをしようと思っても、中々難しいものがあった。
調整のコツはイメージをより鮮明にすることとカーラは言っていたけど、それが出来るか、出来ないかには個人差があるらしい。
どうやら俺はどっちかっていうと、後者寄りのようだった。
「ボールのサイズって考えれば、大きさはイメージできてると思うんだけど……他の系統もちょっと、やってみるかな?」
そこからは風呂場であることも考慮して、氷玉と水玉のサイズ調整をひたすら練習する。
一々、魔力を練る→サイズをイメージする手順をゆったり踏んでたんじゃ時間もかかる。
反復練習して、発動までの時間を縮めたほうがよさそうだ。
……魔力切れを起こすと身体に倦怠感、眠気が出てくるらしいし。
少し疲れを感じ始めたぐらいのとこで、今日は終わりにするかな。
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「……ん~」
途中おやつを食べ、ときたまやってくるカーラにアドバイスを受けつつ、ひたすら水玉、氷玉を作り続けること数時間。
倦怠感のようなものはまだ、感じられなかった。
「そろそろ、飽きてきたな……中々、サイズ調整はうまくいかないけど」
言いつつ、その後続けて20個程作ったところで疲れがきた。
合計では300個、ってとこか。
(思ったより長かったなぁ……風呂何回分だ、これ)
カーラからは、「疲れてきたらベッド行って、おやすみしてねー」と言われていたもんだから、ささやかな達成感と共にベッドに向かおうと思い、風呂場を出る。
「……あれ? シーラ、まだおやすみしてなかったの?」
と、そこでカーラと鉢合わせた。
「あ、おトイレ行ってたのかな? ちゃんと間に合った?」
なんて聞いてくるけど、流石にもうお漏らしするような歳じゃない。
魔力切れを起こすと眠気がくるとは聞いていたものの――正直これは、かなりキツい。ここは早目に会話を打ち切ってベッドで寝たかった。
「んーん、いままでずっと、れんしゅーしてたよ……」
「――え? い、今までずっと? それって、何個ぐらい作ったか、覚えてる?」
「んーと……300コ、ぐらい? ねむたいから、おふとんいくね……」
何やらカーラが固まっていたけど気にしない。
今はとにかく眠いし、早く寝たい。
その一心でその場で倒れ込みそうなのを堪えながら、俺はベッドに向かった。




