センター試験
センター試験の当日は、この季節で一番寒い日だった。
まどかは身体が冷えないように厚着をして玄関を出た。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
母親の芳子が、笑顔で見送ってくれた。
不安そうな表情は無く、だんだんと逞しくなっていく娘を頼もしげに見つめる様子に、まどかもいくらか心を落ち着かせることができた。
やるべきことは、やってきたと思う。
誠がたてた勉強の目標も達成し、センター試験の模擬も何度か体験した。
「毎日と同じ生活サイクルを崩さないこと。新しい勉強には手を付けず、今までの復習だけにして、自分はできると信じてあげて下さい」
昨夜、誠はそうアドバイスしてくれた。
初詣の時に誠が買ってくれたお守りを、ポケットでそっと握りしめて、まどかは試験会場へ向かった。
大学の教室を使った試験会場は、緊張感に包まれていた。
最後の復習をしている人もいれば、鉛筆などの準備をして心を落ち着かせている人もいる。
「すべて正解しなくていいんです。できない問題があっても、心配しないで下さい。 自分にあるもので合格できます。 点数は、今までやってきたことをあまり裏切りません」
深呼吸をして、誠の言葉をひとつずつ思い出す。
「周りの人達を見渡して下さい。敵ではなく、誰もが緊張している仲間です。ただ目の前のことに集中して、楽しむ心を忘れずに」
はい、師匠。
まどかは心の中でうなずいた。
試験監督が教室に入ってくる。
それを合図に、会場全体が静まりかえる。
注意事項の説明の後、テスト用紙が前から配られ、まどかの前にも白い紙が置かれた。
いよいよ、始まる。
「始めて下さい」
運命の試験が始まりを告げた。
センター試験は2日に分けて行われる。
科目数も多いが、公平に実力を試すためか問題の数も多い。
この2日間は、ぎっちりと問題詰めだ。
何度も模擬試験を受けてきたが、やはり本番とは違う。
集中できたがゆえに、最後の試験が終わりを告げると、まどかはぐったりと疲れてしまった。
「終わった……」
解答が回収されると、しばらくまどかは座ったまま呆然としてしまった。
手応えはあった。
誠が言うとおり、勉強してきた範囲を大きく超えることはなかった。
問い方は違っていても、自分の頭の中にある知識のどれかで対応することができた。
そう信じて解答したし、間違っていないと思う。
「よしっ」
少し元気が出てきた。
まどかは帰る準備を整えると、みんなに遅れて教室を後にした。
外に出たところで、誠に電話をかけた。
誠は数コールの後に出てくれた。
「師匠。終わりました」
「どうでした?」
「まずまずできたと思います」
「良かった。今日はゆっくり休んで下さい。お疲れ様」
「有り難うございます。感謝の気持ちでいっぱいです」
「合格したら、ふたりでお祝いをしましょうね」
「嬉しい! 楽しみにしていますよ!」
「僕もです。それじゃあ、明日。学校で」
「はい」
まどかは携帯を閉じると、足早に帰宅の途についた。
翌日、学校で緊張しながら答え合わせをした。
新聞で発表されたものをもとに、自分で書いたはずの解答を合わせていく。
正解が1つ1つ積み重なるごとに、少しずつ笑みがこぼれる。
間違えたところは、誠が解説を加えてくれる。
それをまた、ノートに書きこんでおく。
まだ次の本試験が待っている。
すべての採点が終わると、ふーっと思わず大きなため息をついた。
点数を数えてみると、合格ラインはわからないが、かなり高得点がとれていたことが解る。
「よく頑張りましたね。これなら大丈夫です」
誠がまどかの頭を優しく撫でてくれた。
「本当ですか? 嬉しい!」
まどかは心から嬉しい気持ちが湧き上がり、自然と笑みがこぼれる。
誠も嬉しそうに微笑んでくれた。
「次は本試験ですね」
「はい。緊張します」
「大丈夫です。もうその力はあります」
「本当ですか?」
「僕を信じて下さい」
誠の言葉が心のなかにストンと落ちて、じわっと安心感が広がる。
あともう少し。
もう1ヶ月もない。
まどかは誠の手をぎゅっと握りしめた。




