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Genocide G  作者: 高瀬凪
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【#2】人間には②




ガント達が談笑していた約2時間後。

ある程度の時間が経ったにも関わらず、班はまだ人間の建物の中を彷徨っていた。班の「実習生」の中から、次第に疑問や文句が漏れ出るようになっていた。もちろん、班の大人に聞こえないように、小さな声で。

「いつ着くんだ?」

「分からない……でももうそろそろじゃない?」

「これ、飛んじゃだめなのか?」

そういった愚痴が大人達の元にも届いたのだろう。次の瞬間、物凄い怒号が飛んできた。

「文句を言うんじゃない! 諸君が目指す食料調達班の者達は、皆このような、いやこれよりさらに過酷な条件下で、諸君の食べる食物の確保に尽力しているのだ! そのような者になりたいのなら、甘えるな!」

鋭い声が隊列の頭上を突き抜け、最後尾まで一直線に刺さった。それで、ある者はしぶしぶ、また別の者は少し怯えたような表情で、黙り込んでしまった。しかしガントはそのどちらにも属さなかった。

やはり、普段から命がけで集落のみんなのために食料を集めている班の人は違う、とガントは感じた。声の重みというか、肝の座り方というか、そういったところがまるっきり違っていた。おそらく今も、彼らの目線は目標に向かってまっすぐ伸びているに違いない。今日明日の、集落の生命線を保つための。

「よく聞け、諸君! 今までは遮蔽物に隠れながら移動していたが、これより先に遮蔽物はない! よって、これより飛翔を開始する! 私に……」

ガントが感心していた、その時だった。

バン、という音と共に、物凄い衝撃が地面を伝わってきた。放射状に広がったそれは、ジグ、ガント、ルリにも伝わり、彼らの身体を一瞬宙に浮かび上がらせた。次の瞬間には、しりもちをつく者が大半となっていた。

そしてさらに数秒して、いきなり前方からけたたましい叫びが聞こえてきた。

「キャアアアアアア!!」

今度はその音がガントの耳を直撃し、慌てて身体を起こすきっかけを作った。

何が、起きた?

体勢を立て直したガントは、前方を凝視した。……見えない。

「ジグ! ルリ!」

ガントは前後の2人の名前を口にした。それで、まだしりもちをついていた2人が寝ているところをつっつかれたように跳ね上がった。

「大丈夫!?」

「うん……」

「ああ……何だ? これは、一体……」

「とりあえず、前の様子を見てくる!」

ガントは2人にそう言って、駆けだした。しかしその腕に何かがまとわりついた。

「俺も行く」

ジグだった。いつもの余裕ぶった様子からは考えられない、緊迫した顔だった。彼の視線が、そのままガントの瞳に突き刺さっていた。

「OK。行こう」

2人は何が起こったのか分かっていない予備班の研修生達の間を縫うようにすり抜け、叫び声の発生源である前方へと走り始めた。

隊列の乱れが尋常でないほどにまで広がっている。本来ならどんな時でも隊列を崩してはならない、となっていたはずなのに。やはり他の研修生にとって、訓練は訓練なのであり、それが実践で役に立つと考えた上での訓練をしていなかったということなのだろうか。

「チ。あいつら何やって……」

そこで、ジグの言葉は途切れた。いや、失われた。同時にガントの思考も、止まった。動かすことができなくなった。

2時間前に、実習生達を激励した大人達が。

ついさっき、実習生達を叱責した大人達が。

5人ともバラバラになって、血だまりを作っていたのだから。

赤い水たまりは2人の方向にも流れていて、2人の目の前にいる数人の女子(もちろん全員怯えて震えるだけだった)にまで達していた。さっきこの惨状が見えなかったガントの目にも、今は飛び散った内蔵か何かに至るまで、見えた。見えた。見えてしまった。

ガントの視界が透明になった。かと思えば赤くなった。青くなった。黒くなった。

ようやく目の前の女子達の叫びが戻ってきた。しかしガントにとってそれは注目のいくところではなかった。人間でいうなら、スーパーマーケットの店内BGMの感覚といったところか。無論、適切な表現というには程遠いが。

それよりも、ガントの注目は別のところに行っていた。今の食料調達予備班は、人間の作ったであろう壁と壁の間(ガント達は知らないが、正確には、壁と、廊下の端に置かれたウォータークーラー)にいた。その終点付近にガントは立ち、大人達の遺体はすき間の終着点より向こうにあったのだが、そのすき間を覗き込むように、大きな大きな目が、こちらを覗き込んでいたのだ。

人間だ────一目で分かった。ガントはそれを一度も見たことがなかったが、その大きさと絶望感が語っていた。

「……ふざけやがって……」

隣で声が漏れた。ジグのものだった。見ると、彼は背中の木の棒───爪楊枝に手をかけていた。

「ジグ!」

「心配すんな。俺がみーんな、守ってやる」

ガントは止めようとした。無茶だと思った。しかし伸ばした手の先に、彼はもういなかった。

稲妻のようなスピードで飛び立ち、人間にみるみる近づいていった。一方で人間はというと、ひるんだのか、馬鹿でかい声を出し、急速に後退した。

あれ? これ───いける?

「やめてください!」

誰かが叫んだが、それとは逆に、ガントは心の中に、わずかながら希望の芽がふきだしているのがわかった。ジグは訓練では最も良い成績を収めていたのだ。もしかしたら人間にも勝てるかもしれない。何より、あの余裕に溢れたジグが負ける光景が見えなかった。

ガントはすき間から身を乗り出し、その光景を見守ることにした。ジグの姿が小さくなっていくにつれ、その芽は大きくなり、葉を茂らせ、実を結び───


───人間に会ったら終わりなんじゃ。


───絶対に、勝てん。


枯れた。


「え」

またしても何が起こったかわからない状況に陥った。目の前のことが信じられなかった。信じなくて良い根拠が無いから、何も感じないでいる。

人間が大きな白い筒(正確には紙束)を振り上げたかと思うと、あっという間に、叩き落とした。ジグを。いとも簡単に、軽々しく。

そして落とされた後の彼は、数秒間痙攣していたかと思うと、動きも収まり、痙攣もしなくなっていた。何もしなくなっていた。

ガントの身体が震え出す。収まったジグの痙攣に反比例するように、どんどん激しさを増していく。立っていられなくなるほどに、激しく。激しく。


あれ?


なんで、こんなに、震えているんだろう?


小さい頃からの夢に、確実に足を進めていたはずなのに。


なにもかもが、ぼくの思い通りだったはずなのに。


なんで?


なんでこんなことに、なったんだ?

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