7:ハー君お口にトラブル
暑くなって寒くなって、年が明けて、また春が来た。
ハー君は朝な夕な、マンション入口ポスト下の給餌
スペースでご飯を食べたり、暗渠に潜り込んで非情
のマウスハントを楽しんでいた。ひと狩り行った後
はいつも、それはもうセンシティブなビジュアルに
なっていたが、時間が経つと体の汚れは落ちていた。
ところが、いつしか気がついたらそれが、なかなか
綺麗に戻らず、汚れたままの状態になってきていた。
これなんかまだ綺麗な方だったりなんかして (汗)
原因はすぐに分かった。ハー君は、舌を出したまま、
半開きの口から涎の糸を垂らしていたのだ。虫歯か
歯周病か、野良猫にありがちな口内炎か、それとも
その全部か。いずれにせよ、お口にトラブルが発生
していた。近づくと口臭はきついし、痛みのせいで
舌を使って毛繕いができないので体も汚れたままだ。
見た目もどこか縮んで、微妙に痩せてきていた。
口周りの病気は大きな疾患につながる可能性もある。
早急に病院に連れて行って治療を受けさせたかった
が、相手は手を伸ばしただけでハーと凄んで人間を
近づけない頑固者だ。逃げ足は速いし頭もいいので
捕獲機ではまず捉えられない。さてどうしたものか
と、大家さんもKさんも私もマンションの他の住民
も頭を悩ませていた。食欲は旺盛だったので、ご飯
は口に負担のかからない柔らかいものに切り替えた。
どうしてもいろいろとすぐ汚れてしまうので、食器
や水の器も必ず毎日洗って、可能な限り環境を清潔
に保った。食べ散らかした餌も、まだときどき奉納?
される生命活動を停止した鼠さん(南無阿弥陀仏…)
も、見つけたら即可及的速やかに片づけていた。
夏が過ぎて気温が下がってくると、大家さんは給餌
スペースの横に毛布を敷いた段ボール箱を設置した。
ハー君の性格や行動力からも、一時保護して病院に
連れていくのは難しいが、せめて風と冷気を遮った
場所で、ゆっくり休めるようにとの思いやりだった。
ハー君もその箱は気に入ったようだった。
秋が深まり、ハー君が箱の中で過ごす夜がだんだん
と増えていった。さらに寒くなってくると、ハー君
はマンション住民の誰かが差し入れてくれた古着の
カーディガン(古着でなかったらごめんなさい)に
包まっていた。UFOキャッチャーの戦利品らしい
小さなクッションが、箱に入っていることもあった。
やがて秋が過ぎて、本格的に冬が来ると、大家さん
は段ボール箱の中に湯たんぽを投入した。朝も夜も、
ご飯を補充するタイミングでお湯を入れ替えるので、
箱の中は一日中、ぬくぬくのぽかぽかになっていた。
夜に帰宅すると、箱の中で、湯たんぽに乗っかって、
毛布やカーディガンに包まったハー君が、きょとん
とした顔で、舌を出したまま、こちらを眺めている
ことがよくあった。今いるこの場所が、温かくて、
柔らかくて、とても居心地がいいのが、ハー君には
ちょっと不思議だったのかもしれない。
ぬくくて、ええ塩梅です♪




