1:その名はハー君
舞空エコルの血が繋がらない双子の弟:礼まおちん
が今も住むマンションの、駐輪場にいた猫の話です。
その思い出をまおちんの視点で小説化してみました。
ささやかな奇跡がいくつも繰り返されて、その猫は
これ以上ないくらい完璧な天寿を全うしたそうです。
最初からネタバレで恐縮ですが、このお話の結末は、
ハッピーエンドのグランドフィナーレを迎えること
になっています。それだけはお約束します。だから、
読んでいて、どんなに辛くて厳しい展開になっても、
どなた様も挫けず、頑張って最後まで読んでたもれ。
にゃあ。
気がついたら十年以上前の話である。
マンションの駐輪場に茶白の野良猫が出没し始めた。
ガッシリした体型で目つきが鋭く、人が近づいても
逃げ出さないが、撫でようと手を伸ばすとシャーと
威嚇して、容赦なく猫パンチをお見舞いしてくる。
仕方ないので安全距離を保ちつつ、とりあえず挨拶
だけは欠かさなかった。
「おはようございます。行ってきます」
「シャーッ!!」
「こんばんは。ただいま帰宅しました」
「シャーッ!!」
いつまでたっても懐かないが、顔馴染みにはなった。
しかしやはり、ちょっとでも近づくとシャーと凄む。
個人的に、シャー君(仮)と名付けた。
うちのマンションの家賃は、銀行振り込みではなく
直接大家さんに手渡すルールなので、最上階の大家
さんの部屋に家賃を払いに行ったときに、シャー君
の話を振ってみた。
「最近、駐輪場にワイルドな猫がいますよね。シャ……」
「ああ、ハー君でしょ? すぐハーって威嚇する」
私は店子で、このマンションは大家さん所有なので、
当然こういう場合は、大家さんの命名が優先される。
大家さんには本当にいろいろとお世話になっている
ので、大家さんがハー君と呼ぶならハー君で異論は
ない。だってよく聞いたらハーって言ってるし(本当?)
こうして駐輪場に君臨する茶白は、紆余曲折を経て
(←経ていない)正式にハー君という名前になった。
「こんばんは。これから君の名前はハー君だよ」
「ハーッ!!」
よかった。喜んでいる。




