異種族-1
ルシフェルが建物の外へ出ると、そこにはアレクシオスが待っていた。ここから先はアレクシオスが常に監視につく。
「失礼」
そう言ってアレクシオスが探知魔法を使い、ルシフェルを確認していく。ルシフェルがそんなアレクシオスを見つめる。
(黒魔法は戻ったが、だからと言って直ぐに逃げたところでな……)
逃げたところで当てもない。ルシフェルの同族ですら彼のことを覚えていないのだ。かと言って隠れてコソコソするなど、彼の性分には合わない。
今のところ監視は外れていないが、別に不当な扱いを受けているわけでもない。いっそのこと理不尽にでも扱われれば、怒りに任せて行動する気にもなるが、そんな感じにもならない。
冷静で合理的なルシフェルは、何も考えずに分の悪い賭けをするつもりはない。そんな賭けに出るのは、彼のプライドが許さない。
(もう暫く様子を見るか……)
そんなことを考えていたルシフェルに、探知を終えたアレクシオスが声をかける。
「私について来て下さい」
そう言って、アレクシオスが歩き始めた。ルシフェルもその後ろを無言でついて行く。
アレクシオスは野営地を出ると、森の奥へと向かい始めた。他の白魔法使いはいない。
アレクシオスについて歩きながら、ルシフェルが声をかける。
「おい、アレクス。いくつか聞きたいことがある」
ルシフェルは名前を覚える気が無さそうだが、アレクシオスは気にする素振りは無い。歩く速度を緩めてルシフェルの横に並び答える。
「なんでしょうか?私にお答えできることでしたらお答えしますが」
ルシフェルが歩きながら尋ねる。
「魔神がランク4になったのは最近という話だったな。一体何を生贄にしたんだ?」
アレクシオスが一瞬だけ口を一文字に結び、答える。
「恐らくは、闇ギルドの関係者全てです。帝国の関係者だけでなく、王国の主要人物も全て亡くなりました」
ルシフェルの目端がピクリと動いた。彼は50年前に盟友であったアクストリウスから、王国と闇ギルドの関係を薄っすらと聞かされている。アクストリウスは当時の王国の筆頭黒魔法使いだったからだ。
「なるほど、魔神がお前らの代わりに王国も、闇ギルドも、潰してくれたというわけか」
ルシフェルの軽口に、アレクシオスは表情を変えずに返す。
「ええ。そういう形になりますね。そういった事があったため、主だった黒魔法使いは皆居なくなりました。今生きている高ランクの黒魔法使いは、貴方と魔神しかいないのかもしれません」
黒魔法使いは生贄を必要とするため、おおむねが闇ギルドか王国に属していた。在野にいる数少ない黒魔法使いを除けば、そのほとんどが魔神の生贄になったとみていいだろう。
魔神の凄まじさを聞いて、ルシフェルが疑問を持った。
「魔神の目的は何なんだ?ドラゴンを支配して何を企んでいる?」
アレクシオスが思い出すような顔をした後で、軽くため息をついて答える。
「分かりません。確証がありません」
ルシフェルが面倒そうな顔をして言う。
「確証は無くていい。お前が思っていることを言え」
アレクシオスが少しだけ寂しそうな顔をしながら答える。
「この世に絶望しているのではないでしょうか。自分も皆にも、何もかもに……」
二人は暫くの間、森の中を歩き続けた。歩き続けた先に、開けた草原が広がっている。その先に人影が見える。
ただの人影ではない。とてつもなく大きな、丘のような大きな人影。巨人族で間違いない。
ルシフェルの警戒感が上がっていく。隠せない殺気を露にするルシフェルを、アレクシオスが片手を上げて押しとどめながら言う。
「待ってください。今ここでは、まだ敵ではない」
大きな人影がのっそりと歩き始めた。ゆっくりとした動作にも関わらず、遠くに見えた人影が一瞬で二人の近くまで到達する。
二人の近くまで来た人影が、腰を下ろして胡坐をかいた。そして腰をかがめると、黒毛と白髪の混じって灰色になった髭と髪に包まれた、年老いて深い皺の入った顔を二人に近づける。
巨大な顔についている大きな灰色の瞳がアレクシオスを捉えると、その下にある口が笑うように開いた。
「久しいな、アレクシオス。お前は相変わらず小さいな!」
大きな口から大きな声が飛び出し、大きな唾が飛んできた。アレクシオスは微笑を浮かべながら答える。
「久しぶりだね、バルガロス。君は相変わらず大きいね」
大きさのまるで異なる二人が、久しくあった友人のように会話する。ルシフェルはそんな光景を無言で見つめていた。




