最終話 少年と神獣
暗黒竜ペイヴァルアスプの討伐が成功し、トリーヤたち騎士団は怪我人の治療を行っていた。
「スノウ先生、法術士の治療を受けて下さい。先生とアモンズさんは、酷い怪我をしているはずです」
治療を受けずに帰ろうとするスノウに、トリーヤが苦言を言う。
「フォフォフォ、ワシらはよい。回復魔法はもっと重症の者に優先して使いなさい」
「しかし……」
「まあ、傷が酷いのも確かじゃ。ワシらは街の病院に行くから、一足先に戻らせてもらうわい、行くぞアモンズ!」
「はい、分がったよ先生」
二人は恐竜型の魔獣に乗り、ドシンッ、ドシンッと街へと帰って行った。
「やれやれ、スノウ先生らしいが……」
スノウを見送ったトリーヤは、今回最大の功労者であるルウトとコロの元へと向かう。そこには見知らぬ少年と少女がいた。
「ルウト君、その子たちは?」
「あっ、トリーヤ様。友達のアルとパメラです。心配して来てくれたんです」
トリーヤは訝しがる。ここはガリアの森の奥、子供が二人で来れるような場所ではない。どうやって来たんだろうと。
「トリーヤ様、体は大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だよ。優秀な法術士がいるからね、魔法で良くなったよ。コロも診てもらうといい」
トリーヤはルウトの腕の中にいる、疲れた様子のコロに目をやった。
「今回の討伐の成功は、君とコロのおかげだ。改めてお礼を言うよ」
「い、いえ」
子供たちは顔を見合わせて喜んでいる。何にせよ無事に終わって良かったとトリーヤは胸を撫でおろす。
そんな折、騎士団から報告があがる。ペイヴァルアスプの魔石が落ちていると。
◇◇◇
トリーヤ様は、騎士団の人が持って来た魔石を手に取って、観察している。
「ペイヴァルアスプの魔石か……これは私が預かろう。魔石は教会の本部に提出する決まりがあるからね」
それは拳大もある大きな魔石だった。
やっぱり強力な魔獣の魔石ともなると、大きさも違うんだな。そんなことを考えていると、魔石を見たコロが騒ぎ出した。
「プーッ、プゥプー!」
「コラッ、静かにして!」
「ん? どうかしたのかな」
トリーヤ様が不思議そうな顔で、声を掛けてくる。
「い、いえ。魔石を見たんで単に食べたがってるだけだと思います。コロは食いしん坊なんで……」
「え? コロは魔石を食べるのかい?」
「あ、はい。何でも食べちゃうんですよ、ちゃんとご飯はあげてるんですけど」
僕の言葉にトリーヤ様は驚いた様子だった。確かに石まで食べると聞けば、誰だって驚くよね。
「そうか……だったらこの魔石はコロにあげよう。あの魔獣を倒せたのはコロのおかげだからね」
「え!? いいんですか?」
「トリーヤ様、それは……」
トリーヤ様の言葉に、側にいたライカさんも驚いている様子だ。
「でも魔石は教会に持って帰る決まりなんじゃ……」
「ああ、私にも自分で決められる裁量権があるからね。それぐらいで怒られたりはしないよ。むしろ活躍してくれたコロに恩返し出来ない方が、神からのお叱りを受けそうだ。だから遠慮なく受け取ってほしい」
「そうですか……では遠慮なく」
僕は魔石を受け取ると、コロにあげようと口元まで持っていく。コロは「プー」と鳴いて、大喜びで魔石をパクリと食べた。
喜びを表すように、その場を駆けまわっている。コロには大変な思いをいっぱいさせたからな……喜んでくれて僕も嬉しかった。
◇◇◇
「トリーヤ様、宜しかったのですか?」
「かまわないよ。それに魔石を食べる獣がどういう意味を持つのか、君も知っているだろう」
「ハイ、聖典にその記述があることは存じております」
トリーヤは、自分が信じる聖十字教の聖典の一節を思い出していた。そこには世界の終わりと救済について記述がある。
《世界が滅びに進み、人々が絶望に沈む時、一体の獣が現れる。その獣は悪しき魔獣と、命尽きし聖獣の“石”をその身に取り込み、荒ぶる世界を平穏へと導くだろう。その獣こそ――》
「……神獣」
「トリーヤ様、どうされますか?」
「教皇様に報告せねばなりませんね。準備ができ次第、出立します」
◇◇◇
黒い竜を倒した翌日、僕は家の庭でコロを遊ばせていた。
「相変わらず、コロは元気だね~」
「ププーッ!」
コロは楽しそうに、庭を走り回っている。そんなコロを見ていた時、ふと、昨日トリーヤさんに貰った“魔石”のことを思い出す。
「そうだ、何か新しい能力が使えるようになってるかも」
僕はそう思ってガラスの板を出現させる。するとコロの画像の下に、新しい文字があった。それは見たことのない文字の並びだ。
「何だろう……【黒焔輝】?」
今までと違って三文字な上、AやBのようなランクの表記も無い。
よく分からないので、ガラスの板の別タグを開き【黒焔輝】の詳細情報を見ようとした。だけど――
「アレ? 出てこないな」
【黒焔輝】の文字をタップして、説明文を読もうとしたが???の文字が羅列されているだけで、詳細は一切分からなかった。
「まあ、使ってみれば分かるか……」
僕は【黒焔輝】の文字をコロの画像の右横に移動する。走っていたコロはピタッと立ち止まると、体の周りでパチパチと黒い稲妻が走ったように見えた。
口を開け、大きく息を吸い込んだコロは黒い球体を吐き出す。
それはコロの体よりも一回り小さい球体だが、もの凄い速度で遥か遠くにある山へ向かって飛んで行く。
――剣鋭山。
切り立った山頂が剣のように見えることからその名がつき、登山する人はいないが神聖な山として人々から信仰の対象になっていた。
その剣鋭山が、木っ端微塵に爆散する。
激しい光が辺りを覆い、紅蓮の炎が山を包む。舞い上がった粉塵や煙が、巨大なキノコ雲となって空に広がってゆく。
遅れてやって来た爆音と暴風に飛ばされそうになったあと、僕とコロは呆然として、その場に立ち尽くした。
ようやくハッとしてガラスの板を確認すると【黒焔輝】の文字は薄い灰色になっており、もう使えないみたいだ。一日に一回だけ使えるってことなのか……。
もう一度詳細タグを確認すると、今度は情報が開示されていた。
【黒竜焔滅輝砲】
都市一つを壊滅させると言われたペイヴァルアスプの能力。その炎に焼き尽くせぬ物は無く、生物が放つ攻撃の中で最も強力かつ危険とされる。
「うわああ~~……」
僕は小刻みに震えるコロを抱き上げ、クリクリの瞳を真剣に見つめる。
「いい、この能力は二度と使わないからね!」
「プゥッ!」
コロも激しく頷き同意する。
山が一つ無くなったことは街で大騒ぎになったけど、僕とコロは今回の出来事を記憶の彼方にしまい込むことにした。
知らんぷり決定である。
◇◇◇
一ヶ月後――
ベルナルド王国首都、ヴァナヘイムに大司教トリーヤ・バルドウの姿があった。
聖十字教会のパトリシア教皇に視察の報告をした後、ベルナルド国王にも事の顛末を伝えるため、謁見を申し出ていた。
「トリーヤよ、ガリアの森にいた伝説の魔獣を倒したと聞いたぞ。大儀であった」
「ハッ、ありがとうございます」
王城、ブレイザーにて王への目通りが許されたトリーヤが、王の前で膝まづいている。対してベルナルド王は、そわそわとした様子で身を乗り出していた。
「そなたの武勇伝を直接聞きたくてな。首を長くして待っておったぞ」
「いえ、私など……今回は一部の権力者が聖獣を捕らえるなど、神に仇為す愚行を犯したことが原因です。首謀者であるゴドッリク・クレーバーは捕らえて連行してきました」
「うむ、それについては余の治世の落ち度だ。申し訳なく思う、管轄するサンタモンテ公爵には厳重に注意しておくことにする」
「感謝いたします。ですが、変化が起こっているのはバリスクだけではありません。世界各地で起こっていること、引き続き調査いたします」
「よろしく頼む……まあ、硬い話はこれくらいにして、魔獣を倒した時のことを教えてくれ、余はその手の話に目がないのだ」
子供のように目をキラキラさせて話を聞きたがるベルナルド王に、苦笑しながらもトリーヤは口を開く。
「では少しだけ……私が出会った“神の獣”と少年の話を――」
レムリア歴724年、未曾有の災害や、魔獣の被害が世界に広がっていた。人々は先の見えない未来に、徐々に希望を失ってゆく。
そんな混沌の時代に、一部である噂が流れ始める。“神が遣わした獣”とそれを操る“従魔師”の話だ。
彼らは遍く魔獣を打倒し、国や地域に平和をもたらしていった。
やがて“神獣”と“最強の従魔師”の名は大陸全土に轟き、人々の希望になってゆくのだが――
それはまた、別の物語。
神獣キメラの育成日記 ~おわり~
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
以前、小説家になろうで書いていた小説が完結した時、あまりに投稿が大変だったため、もう書くことは無いかもしれないと思っていました。
しかし、しばらく休んでいると、また書きたい衝動に駆られてしまい、今回の執筆に至ります。
これは、このサイトの、あるいは小説という媒体が持つ魅力かもしれません。
読んで頂いた方に、少しでも面白いと思ってもらえればいいのですが……一人で書いているだけでは判断できないため、評価や感想など頂けると嬉しいです。
また、この小説を読んで応援して下さった皆様に、改めてお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。




