第42話 進化と真価
大声で叫ぶアルだが、ルウトは気づいてない。
パメラとニジはアルの元へと駆け寄り、ルウトが居ることに気づく。
「すぐに行かないと!」
アルが駆け出そうとした時、パメラが止めた。
「待って、アレを見て!」
アルが見ると、ルウトは走り出し何か光る物の側でしゃがみ込んでいる。距離が遠いのでハッキリとは見えないが、アルは確信した。
「きっとコロだ! コロもアイツにやられたんじゃないか!?」
「竜が動き出してる!」
黒い竜はルウトの方を向いている。異常な程の魔力が収束していくのをパメラは感じていた。
「このままじゃ……ルウトとコロが!」
パメラが悲壮な声を上げている時、ニジがピョンピョンと飛び跳ねていることに、アルが気づく。
「お前なら何とか出来るって言ってんのか!?」
ニジは頷くような仕草を見せ、プルプルと体を震わせる。
「アル!」
「分かったよ! お前に全部賭けるよ。頼んだぞ!!」
アルはニジを右手で掴み、ボールのようにコロの方へと投げ飛ばした。
「行けーーー!!」
◇◇◇
僕はコロの元へ駆け寄り様子を見る。
「コロ……大丈夫?」
弱々しい息遣いだが、コロは力を振り絞って立ち上がろうとした。心配したけど、コロの目にはまだ力が宿ってる。
他に倒れていたトリーヤ様やライカさん、学院長やアモンズ先生、騎士団の人たちまでボロボロになりながら立ち上がる。
みんなバリスタの街を、そこに住む人々を守るために必死なんだ。
僕もみんなの助けになりたい。何かしたい、そう思うけど出来ることは無かった。ただ指を咥えて見ているだけなんて――
僕が絶望していると、遠くからアルの声が聞こえた気がした。
振り向くと、ニジが空から降ってくる。
「え!?」
僕は慌ててニジを両手でキャッチする。ニジは腕の中でプルプルと揺れていた。
「どうして、ニジがこんな所に?」
見ると離れた場所にアルとパメラがいた。何かを叫びながら、こちらに走ってくる。どうしてアルとパメラがいるんだ!?
ニジを連れてきた理由もまったく分からない。僕が困惑していると――
「プーーーッ!」
コロが鳴声を上げながら、黒い竜に突進して行く。
「コロ!」
僕が叫ぶと腕の中にいたニジが、ピョンっと跳ねて地面に着地した。そのままピョンピョンと飛び跳ねながら、コロを追いかけて行く。
「ダメだ! コロ、ニジ、危ないよ!!」
黒い竜は光りながら向かって来るコロに狙いを定め、容赦なく口を開いた。コロは怯むことなく大地を駆ける。
このままじゃ、コロもニジも死んでしまう。
僕がそう思っていると、ポンッと跳ねたニジがコロの背中にチョコンッと飛び乗った。その瞬間、コロとニジは激しい光に包まれる。
――パメラは言っていた。コロは体の質量も変化していると、だけどコロは極端に大きくなることは出来ない。せいぜい二回りほど体格が変わるだけだ。
でも、ニジは違う。自分より巨大なスライムを何体も取り込み、自由自在な質量変化を行うことが出来る。
コロは光りながら、どんどん大きくなっていき、足と首が長く伸び、十メートル以上の体高へと変わっていく。
ニジがどうしてガラスの板から現れたのか、僕は分かっていなかった。
コロをゴドリック邸から救出するために役に立つから……その程度にしか思っていなかったんだ。でも、ニジが生まれたことには明確な理由があった。
あの姿こそが――
「アグリロートス!!」
トリーヤ様が、驚いたように叫んだ。
◇◇◇
間違いない、あれは十年前、私がガリアの森で見た大聖獣アグリロートスだ。コロが変化したのか?
私は困惑していた。さっきまで魔獣の姿だったコロは、光を放つ鹿の姿になり、今はアグリロートスそのものの姿になっている。
コロが左足でドシンッと大地を踏みつけると、ペイヴァルアスプの周りから植物が芽吹き始めた。
伸び出した木の幹や蔦は、竜の体を拘束してゆく。
しかしダメだ。さっきも同じように植物で奴の動きを封じようとしたが、うまくいかなかった。私がそう思っていると――
「グォオオオオオオオーーー!!」
ペイヴァルアスプの苦しむ叫び声が周囲に轟く。見ると植物の一つ一つが、淡く輝いていた。
光る植物に触れた部分が煙を上げている。
さっきまでは無かった能力だ。いや、これが本来のアグリロートスの力か……植物が“聖なる光”を纏い、闇の力を抑えている。
あれなら振りほどけない。
巨大な雄鹿になったコロは、ペイヴァルアスプに向かって突進してゆく。頭からぶつかると、衝撃で大気が震えた。
黒竜の体に、光り輝く雄鹿の角が食い込んでいく。
ペイヴァルアスプは悲鳴のような唸り声を上げ、光に触れた体は焼け爛れているようだ。
その場から動けないため顔をコロに向け、耳を劈く咆哮で反撃する。間近で衝撃を受けたコロだが、ビクともしていない。
「ウォオオオーーーーン!」
雄々しい声と共に地面をドシンッと踏むと、先の尖った太い木がペイヴァルアスプの体に深々と突き刺さる。
「グオオオオオッ!!」
体に刺さる木にも“聖なる光”が流れているため、黒い竜は苦しみ悶だえていた。雄鹿は再び突進する。
聖なる光を宿す角は、前回以上にペイヴァルアスプの体にめり込む。
竜は全身から煙を上げ、フラつき始めた。圧倒的な強さ……やはりペイヴァルアスプにとって、アグリロートスは天敵なんだ。
息も絶え絶えになる魔獣。次の一撃で決着がつく。
◇◇◇
「すごい……」
僕が変身したコロとニジの戦いを見て、唖然としていると。
「ルウト!」
「大丈夫!?」
走って来たアルとパメラが声を掛けてきた。
「うん、僕は大丈夫。二人はどうして来たの?」
「ニジが連れてけって言ったんだ」
「ニジが!?」
「ちょっと、あれがコロなの!?」
パメラは巨大な雄鹿を見て、驚きの声を上げる。
「ニジのおかげみたい……。コロは動物の一部の能力しか使えないけど、ニジの質量・形状変化があれば全ての能力が使えるんだと思う」
「すげーな、ニジにそんな力があったのか!」
アルが感心しているが、僕もニジの力には驚いた。その間にもコロは黒竜を圧倒し、追い詰めている。
あれなら絶対勝てる。みんながそう思った時――
ポンッと音がして巨大な雄鹿が消える。「え?」僕が呆気に取られていると、コロとニジが上から落ちてきた。
「コロ! ニジ!」
地面に落ちた二匹はぐったりして動かない。まさか……エネルギー切れ!? あともうちょっとなのに……。
黒竜を縛っていた植物は光を失い、力なく地面に落ちていく。拘束が解けた竜は、大きな雄叫びを上げた。
もう、どうすることも出来ない……僕は俯き、諦めかける。
「充分だ、助かったよコロ!」
顔を上げると、馬に乗って疾走するトリーヤ様の姿があった。
「法術士、聖なる光を! 魔導士、炎の魔法で援護せよ!!」
ライカさんの号令で騎士団の人たちが動き、走り抜けるトリーヤ様の剣が輝きだす。魔導士の放った炎は次々に着弾し、竜は苦しむような声を上げる。
竜の間近まで迫ったトリーヤ様は馬の鞍に立ち、そのまま跳躍した。
「うおおおおおおお!!」
光り輝く剣を、竜の胸元に突き刺す。
瞬間―― 辺りに広がったのは、目も眩むほどの閃光と、黒竜の断末魔の絶叫。黒い煙が竜巻のように渦巻き、天に向かって伸びてゆく。
衝撃で吹き飛ばされたトリーヤ様は、宙を舞って落ちてきた。激しく地面に体を打ち付け、そのまま動かなくなる。
「トリーヤ様!」
「トリーヤ!!」
ライカさんと学院長が駆けつける。
心配そうにしているが、どうやら無事のようだ。黒い竜巻が収まると、空は晴れ渡り、さっきまで薄暗かったガリアの森に光がさす。
「終わったんだ……」




