第41話 黒竜と援軍
僕たちが駆けつけると、そこは巨大な黒い竜が惨状の中に立っていた。
多くの人々が倒れ、起き上がろうとしない。どうしたらこんな事に……。討伐隊に襲い掛かっていた魔獣たちは姿が見えない。
黒い竜を恐れて逃げて行ったんだ。そう考えていた時、トリーヤ様がこちらに向かって叫び声を上げる。
「ルウト君! 頼む!!」
「は、はい!」
僕はガラスの板を出し、ガーゴイルとマンティコアの能力を解除した。今から使う“聖なる光”との相性が絶対に悪いと思ったからだ。
コロの姿が元に戻ったのを確認してから、アグリロートスの能力【聖S】【樹B】を画像の右上に移動させる。
コロが「ウゥ~」と唸り声を上げると、徐々に体が変化していく。
足や首が少し伸び、雄鹿のような角が生えてきた。毛並みは緑へと変わり、体の一部が木の樹皮のように見える。
これがアグリロートスの特徴……鹿の“聖獣”って事なのかな?
コロの体は淡い輝きを放つ。その光を見た闇の竜は、一瞬たじろぎ後ろに下がっていった。やっぱりコロの光は、あの竜にも通じるんだ!
それを見たトリーヤ様は、騎士の人たちと闇の竜に向かって突撃する。後方からは魔導士や法術士が援護していた。
コロが抑え込んでいる間に倒してしまえば、こちらの勝ちだ。僕は楽観的にそう考えた。だけど――
竜は巨体に似合わない速度で体を捻り、大蛇のように長い尻尾を振って騎士団を薙ぎ払ってしまう。
吹き飛ばされた人の中にはトリーヤ様もいた。
竜は後ろにいた人たちに向かって、大気を切り裂くような咆哮を放つ。それは衝撃波となって騎士団に襲い掛かった。
人間がまるで木の葉のように飛んで行く。その場に立っている者はもういない。
「どうして!? コロの光なら、闇の竜も抑え込めるんじゃないんですか? 学院長!」
僕は助けを求めるように、隣にいた学院長に尋ねた。
「いや……効いてはおる。見てみい、黒炎を吐くことで知られる魔獣じゃが、コロが光り出してからは炎を使っておらぬ」
確かに、辺りは黒い炎の残り火が至る所にあるけど、竜は新たに炎で攻撃しようとはしていない。
「じゃが、黒き竜ペイヴァルアスプの力が強すぎて、完全に動きを抑え込むことは出来とらんのじゃ!」
「そんな……」
光の力を使っても、こんなに強いなんて……でも!
「コロ! “樹”の力でアイツを押さえ込んで!」
「プーー!!」
アグリロートスの能力は一つじゃない。【樹B】の能力を持つコロは、前足でドンッと大地を叩く。
すると竜の下の地面から、多種多様な植物が芽吹き始める。どんどん成長していき、竜の足や腕、翼や尻尾に絡み付く。
植物は太い木の幹や、丈夫な蔓となって竜の動きを封じていった。
竜は不快そうな声を上げ、植物を引き千切ろうと藻掻いている。
「やった! これなら……」
「よくやった。後はワシに任せい!」
学院長が飛び出し、それに釣られるようにライカさんも馬を走らせる。
「アモンズ! いつまで寝ておる!!」
恐竜のような魔獣と共に倒れていたアモンズ先生は、学院長に呼ばれてビクッと目覚めて体を起こす。
「あれ、オラどうすたんだ?」
周りをキョロキョロと見渡していたが、戦いの真っ最中だったと気づき、慌てて恐竜のような魔獣を叩き起こす。
「トリーヤ様!」
ライカさんに呼ばれたトリーヤ様も、ヨロヨロと立ち上がる。良かった無事だったんだ……法術士の人が慌てて回復魔法を掛ける。
あとは、あの竜さえ倒すことが出来れば……。
闇の竜に向かって、学院長、ライカさん、恐竜の魔獣に乗ったアモンズ先生や騎士団の人たちが一斉に総攻撃をかけた。
竜はコロが押さえ込んでて動けない。これできっと倒せる。
そう思っていたのに――
竜はコロが生み出した植物を引き千切り、自由になった尻尾を使い、ライカさんやアモンズ先生を薙ぎ払う。
雷の魔法で攻撃しながら近づく学院長には、黒龍は口を開き衝撃波を生み出す咆哮を放つ。
風の障壁で防ごうとした学院長は、その衝撃に耐えきれず、後ろに吹っ飛ばされてしまった。
「学院長!!」
僕が学院長に近づこうとした時、コロが「プーッ!!」と鳴いて怒りを表し、竜に向かって突進していく。
「コロ!!」
光る体のまま体当たりしようとするが、竜は腕でコロを打ち払った。
何十メートルも飛ばされて、地面に叩きつけられたコロは、ぐったりしたまま動かなくなる。体全体から出ていた光も徐々に弱まっていく。
みんな倒れている……。僕はあまりの光景に言葉を失う。
――あの竜には誰も勝てない。
◇◇◇
「きっと、あそこだわ!」
ワイバーンに乗って、上空から俯瞰していたパメラが指をさす。ガリアの森の一角に、木が薙ぎ倒され、広範囲に開けた場所があった。
火災が起こっているようで、至る所から煙が上がっている。
「ど、どうすんだ?」
高い所が苦手で、未だにワイバーンの背中にしがみ付いているアルが、恐る恐る聞いてみる。
「行くに決まってるでしょう!」
「やっぱり……」
アルの心配を他所に、ワイバーンは急降下して地上へ向かって行く。
「うわあぁぁぁぁああっ!!」
そんな二人の視界に入ってきたのは、巨大な黒い竜だ。
「あれがそうね」
「な、なあ、ニジは今、ワイバーンなんだから、炎のブレスでアイツを焼き払えないのかな?」
「確かに、いい考えだわ! ニジ、炎で黒い竜を攻撃して!」
ワイバーンは口をガバッと開き、黒い竜へ近づいていく。だが、竜の真上を通過し再び上昇する。
「……えっ!? ちょっと、何で攻撃しないの?」
「どうしたんだよ、ニジ!?」
二人は、もしかして――と思いあたる。
「ひょっとしてニジ、炎のブレスが出せないの?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……いやっ、これは出ないってことだろう!」
「動物の能力を全部コピー出来る訳じゃないのね……。取り合えず、どこかに降りましょう」
ワイバーンは滑空して、黒い竜から少し離れた所に降りようとした。だが黒竜はワイバーンの姿を捉える。
空に向かって衝撃波を伴う咆哮を放つ。
強力なエネルギーに気づいたニジは咄嗟に体を傾け、何とか直撃を免れるが、激しく動揺したためポンッと変身が解けてしまう。
「きゃああああ!?」
「うわああああ!!」
急に足場を失ったアルとパメラは、為す術なく木々の合間へと落ちていく。
「……いててて」
枝と葉がクッションになり、木の幹に引っかかったアルは何とか助かった。辺りを見回すと、ニジとパメラも茂みに落ちて無事なようだ。
木から飛び下り、黒い竜の方を見るとルウトが立ち尽くしているのに気づく。
「ルウト!」




