第39話 絶望と新たなる力
トリーヤ様やライカさん、それに騎士団の人たちは全員ボロボロになっていた。
ただ、強敵を倒した達成感のようなものが兵士の間にあったことは間違いない。仲間内で称えたり、労う声が聞こえてきた。
まだまだ、至る所で魔獣との交戦は続いているが、最大の山場は過ぎたと多くの人が思っている。かく言う僕もその一人だ。
木の幹の上でホッと息をついていた。だけど本当の地獄は、この後やって来る。
◇◇◇
「何だあれは……トリーヤ様!」
「ええ、やはりガリアの森を甘く見ていたようですね」
ライカは絶望的な表情を浮かべ、トリーヤも顔を強張らせる。その場にいた兵士たち全員も、ライカやトリーヤと同じ気持ちになっていた。
森の奥からヒタヒタとやって来たのは、五体のフェンリル。
それはスノウが倒した個体より、更に大きいものだった。アモンズの前には、ワラワラと十体以上のサラマンダーが現れ、口から炎を漏らしている。
「数多すぎるだ。さすがにマズいよ先生!」
「確かに……ちと、キツイのう」
トリーヤとライカの視線の先、小高い岩場の上には口から瘴気を吐き出し眼下を睨む、三体の黒い狂犬ヘルハウンドがいた。
マンティコア程ではないにしろ、恐ろしい強さを持つ魔獣……。三体など対処できるはずがない。各か所では更なる魔獣の攻勢が続いている。
トリーヤは考えていた。まともな指揮官なら、ここは撤退だ。
今、コロに“聖なる光”を使ってもらえば、犠牲を最小限にしてガリアの森から逃げ出すことは出来るだろう。
だが、ここで逃げればバリスクの街、延いてはこの地方全体が森に飲まれてしまい、人の住めない場所になってしまう。
それは国の一部を失うのと同じことだ。
闇の黒竜を討つには、今、この時しかない。それは指揮を預かるトリーヤが一番分かっていた。故に悩んだ。
だが、魔獣は待ってはくれない。
ヘルハウンドは岩場から飛び降りて襲い掛かって来た。騎士団は盾を構え防御態勢を取るが、それを嘲笑うかのように突破する。
三体のヘルハウンドは毒の瘴気を吐き出し、騎士団を蹂躙してゆく。
スノウが相手をしていたフェンリルも、縦横無尽に大地を蹴って向かって来た。無数に落ちる稲妻も躱しスノウに迫るが、風の障壁に阻まれる。
サラマンダーの一斉の火炎放射を受け、さすがにアモンズの魔獣も後退した。
絶望的な状況である上、トリーヤは森の奥から違う魔獣が出てくるのを見ることになる。それは二足歩行の狼、ワーウルフ。
数十体が乱戦に突入して来る。ヘルハウンドと共に“深淵の谷”にいると言われる魔獣だけに、その強さは群を抜いていた。
撤退以外の選択肢が無くなり、トリーヤは追い詰められる。
◇◇◇
僕が木の上にいると、三体のガーゴイルが襲ってきた。コロは僕とガーゴイルの間に入り、必死に戦って僕を守ってくれている。
下を見回すと、討伐隊の人たちは魔獣に押され苦戦していた。
このままじゃコロも、みんなも全員殺されちゃう。だけど、コロの能力“聖なる光”はトリーヤ様との約束で使うことが出来ない。
僕が勝手に使ったら、今までのみんなの苦労や犠牲が無駄になってしまう。
かと言って、僕に出来ることは限られている。僕はガラスの板を出し、【火F】の能力をコロに付加した。
コロはガーゴイルに向かって火を吐き出すが、それほど強くない火力のため、あまり効果がないみたいだ。
「どうすれば……」
その時、トリーヤ様がマンティコアを倒した事を思い出す。魔獣を倒したんだから、“魔石”が落ちているはずだ。
マンティコアほど強い魔獣の能力なら、コロの戦力を大幅に上げることが出来るかもしれない。僕はそう思って、木から下りることにした。
下は討伐隊と魔獣の混戦になっていて、とても危険だ。
だけど何もしないで、木の上で震えている訳にはいかない。僕は覚悟を決め、木から慎重に下りる。
魔獣のいる場所を避けるように、マンティコアが倒れた所に向かう。幸い、新たに現れたヘルハウンドとトリーヤ様たちは少し離れた所で戦っていた。
今の内だ、と思い。駆け足で近づくと予想通り魔石が落ちている。
僕が魔石を手に取ろうとした瞬間、後ろからコロの叫び声が聞こえた。振り返ると、一体のガーゴイルが僕に向かって飛んでくる。
僕は魔石だけは守ろうと、ガーゴイルに背中を向けて地面に覆いかぶさった。そんな僕の肩を、魔獣は爪で切りつける。
「ううっ!」
僕は痛みを必死に我慢した。「ルウト!」と遠くで学院長の声が聞こえた気がしたけど、フェンリル五体を相手にしているのに助けに来れるはずがない。
「プゥ―ーーーッ!!」
コロが怒りに満ちた目でガーゴイルに突進した。コロに弾き飛ばされたガーゴイルは木にぶつかって気を失う。
「コロ……ありがとう」
「プー」
コロが僕の傍らに寄り添い。「ゴメンね」と言っているように感じた。そんなコロに、僕は手の中にあった魔石を見せる。
「プッ!?」
「コロ、これを使ってみんなを助けて……」
「プー、プー!」
コロは一瞬「無理しすぎだよ!」と怒っているように見えたけど、後は任せてと言わんばかりに魔石をパクリと食べた。
「行くよ、コロ!」
「プーーーッ!!」
僕はズキズキと痛む肩口を押さえガラスの板を出現させる。見ると画像にはマンティコアの能力が表示されていた。
「能力は……【火D】【力D】【毒E】の三つか……」
三つの能力があるのは初めてだ。それだけマンティコアが強い魔獣ってことなんだろうけど……僕は能力を画面の右上へ移動させる。
コロは唸り出し、体がメキメキと音を立て変化しいく。
一回りほど大きくなり、牙は伸び、尻尾はサソリのような形となった。黒い毛並みと、火炎を漏らす口元がマンティコアを彷彿とさせる。
ガーゴイルと合わせて【飛E】【速E】【火D】【力D】【毒E】の五つの能力がある獣。まさに闇魔獣形態だ。だけど――
「何だか……すごくかわいい!」
怖い魔獣の能力を使っているはずなのに、全然怖さが無い。丸っこくてモフモフで、やっぱりコロはコロだ。
「コロ、みんなを助けてくれる?」
「プーーッ!!」
コロは飛び上がり、上空から向かってくるガーゴイルを迎え撃つ。一体はコロが死角から伸ばしたサソリの尻尾に刺されて失神し、もう一体には炎を吐く。
今までとは違う灼熱の炎は、ガーゴイルの体に纏わりつき燃やしていった。
絶叫しながら地面に落ち、のた打ち回る魔獣。黒い煙となって消えていく。あっと言う間に二体のガーゴイルを倒してしまう。
コロは他に猛威を振るっている魔獣を倒すため、翼を広げ飛び立った。




