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神獣キメラの育成日記 ~転生時のお願いを、神様が誤解しているようです~  作者: ARATA


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第38話 深部と上位種

 「トリーヤ様、ご無事ですか?」


 「ああ、大丈夫だ。それより態勢を立て直せ、このままでは隊が崩壊する」



 トリーヤは絶望的な現状に思慮を巡らせる。想定はしていたが、それ以上に魔獣の攻勢が強い。この状況を打破するには、コロの“聖なる光”が必要だ。


 だが、数分しかもたないという力を今、使う訳にはいかない。


 目的の魔獣が現れるまでは、何としても戦力を保つ必要があるが、その前に隊が壊滅しては意味がない。


 トリーヤは馬に(またが)り、騎士団の先頭に立って駆け出した。向かってくるダイアウルフの群れを迎え撃つため、風魔法の詠唱を始める。



 「風よ、我が敵を打ち払え!」



 無数の風の刃が狼たちを切り裂いて、数を減らしていく。更に前に立ちはだかった血舐め熊を見て、トリーヤは剣に魔力を込める。


 

 「炎よ、我が剣に宿りて眼前の敵を滅せよ!」


 

 剣は光り輝き、メラメラと炎を灯す。馬は走る速度を上げ、駆け抜けざまに振り抜いたトリーヤの剣は、一刀のもとに血舐め熊を切り伏せた。


 燃え上がる熊を置き去りにして、トリーヤと騎士団は疾走する。周囲の魔獣を次々と駆逐し、態勢を立て直していく。


 剣術においては騎士団最強と言われるライカに匹敵し、魔法においてはスノウ・フォレストに認められる英才。それが聖十字教会で武を学び、騎士団からも厚い信頼を置かれる大司教、トリーヤ・バルドウである。


 しかし、そんなトリーヤでも次第に消耗していき、(わず)かな隙を見せた瞬間、ガーゴイルが襲い掛かかって来た。



 「トリーヤ様!」



 ライカの叫び声で気づいたトリーヤだが、一瞬反応が遅れた。魔獣の爪が目前に迫り、傷を負うことを覚悟で剣を構えると――



 「純然たる神の怒りよ、天地をつなぐ光となれ!」



 (いかずち)が魔獣の上に降り注ぐ、ガーゴイルは地に落ち、巨大なムカデは煙を上げながら下降し地上に激突した。


 落ちたムカデの(かたわ)らで、スノウ・フォレストは杖を構える。



 「スノウ先生!」


 「フォフォフォ、油断は禁物じゃよ」



 暴れ回っている血舐め熊が後ろを振り返ると、そこには恐竜のような魔獣がいた。鳴き声を上げる間もなく、噛みつかれた血舐め熊は一瞬で絶命する。


 

 「先生、こっちは任せでぐれ。熊や猪だばに比べれば、コイツの方強ぇはんでな」


 「任せたぞ、アモンズ」



 アモンズが連れて来た三体の恐竜型魔獣は、ダイアウルフを踏み潰し、誰も止められなかった巨大猪を正面からぶつかり薙ぎ倒す。



 「ライカ! 今の内に戦線を立て直すぞ」


 「ハッ!」



 壊滅しかけた討伐隊はギリギリの所で踏み(とど)まった。



 ◇◇◇



 学院長とアモンズ先生が来てから、状況が変わっていく。



 「氷瀑よ、我が敵を捕らえよ」



 三匹のダイアウルフが氷の柱に閉じ込められた。更に学院長は空気中の水分を集めると、それを弾丸のように飛ばしていく。


 縦横無尽に飛んでいたガーゴイルは弾丸を受け落下。


 上空から襲ってきた巨大ムカデには、炎の柱を出現させる。目の前に現れた火柱を避けることが出来ず、その中にムカデは突っ込み全身を焼き尽くされた。


 一体、何種類の魔法が使えるんだろうと感心する。


 パメラも凄いと思っていたけど、魔導士としての格が違いすぎる。僕とコロは呆然(ぼうぜん)と学院長の戦いを眺めていた。



 「ルウトよ、ワシの後ろにおれ。離れるでないぞ」


 「は、はい!」



 僕とコロは学院長の後ろで辺りを警戒する。学院長ほどの力があれば安全かもしれないけど、僕たちも自分の身は自分で守らないと――



 「行くよ、コロ」


 「プゥーッ」



 僕はガラスの板を出現させ、コロの画像にある能力を移動させようとした。トリーヤ様と約束したから“光の力”は使えない。


 だったらキング・ヘラクレスモード(アル命名)だ。


 この形態なら魔獣にも対抗できるはず、そう思った時、前方で大きな声が聞こえた。炎が舞い上がり、騎士たちは絶叫と共に逃げ惑う。



 「あれは……!?」



 トリーヤ様とライカさんの目の前。その魔獣は瘴気(しょうき)を放ちながら、ゆっくりと近づいてくる。


 ドス黒い身体、獰猛な牙、サソリのような尻尾を持ち、口からは灼熱の炎を吐き出す。その魔獣は授業で習ったことがあった。


 ガリアの森の奥にいる、特に危険な魔獣の一体。


 ――マンティコア。


 見たらすぐ逃げろと言われている魔獣が、僕の目と鼻の先にいる。しかも、それだけではなかった。


 薄暗い森の奥から、灰色の大きな狼が姿を現す。それはダイアウルフの上位種。


 

 「フェンリル!?」



 更には数体の大きな蜥蜴(とかげ)が、のっそのっそとこちらに向かってきた。強力な炎を放つことで知られる、火蜥蜴の上位種――



 「炎殻大蜥蜴(サラマンダー)!!」



 教科書でしか見たことがない、闇の魔獣が次から次に現れる。僕は絶望的な気持ちになった。強い魔獣であることもそうだが、炎を使うものが多すぎる。


 昆虫能力の“合成”は火に弱い。相性が最悪だ。



 「先生、この子だちは火さ強ぇ。サラマンダーはオラが相手するだ!」


 「うむ、頼んだぞアモンズ。フェンリルはワシが何とかする。トリーヤ、ライカ! マンティコアは任せてよいか?」


 「ええ、スノウ先生、任せて下さい!」



 トリーヤ様とライカさんは剣を握りしめ、眼前で口から煙を吐くマンティコアと向かい合う。



 「法術士! 前へ」



 ライカの号令で、後方待機していた白い修道服の集団が杖を構えた。杖の先に付いた丸い水晶が輝きだす。


 光はトリーヤの持つ剣に集まり、周囲にいる魔獣たちが(ひる)みだす。



 「あれは……聖なる光?」



 マンティコアが吐き出す炎を、トリーヤ様が剣で打ち払う。ライカさんは剣を抜いて、魔獣に斬り込んでいく。


 あの二人が力を合わせれば、マンティコアにも勝てるんじゃ……。


 学院長もフェンリルに相手に一歩も引けを取らない。もの凄い速さで駆け回る魔獣。近づけば風の魔法で吹き飛ばし、離れた所で雷撃を撃ち出す。


 直撃はしないが、少しづつ魔獣の体力を削っていく。


 アモンズ先生も、炎を物ともせずサラマンダーを蹴散らしていった。これなら大丈夫かもしれない。


 そう思った時、コロが「プゥー!!」と叫んで、僕を突き飛ばした。何が起きたか分からず、僕は後ろに倒れる。


 次の瞬間、ダイアウルフの牙が目の前を通過する。



 「えっ!?」



 気がつくと、周りをダイアウルフに囲まれていた。



 「ルウト!」



 学院長が叫ぶが、フェンリルに足止めされて助けには来れない。僕は咄嗟(とっさ)にガラスの板を出し、画面にある能力を移動させた。



 「コロ!!」


 「プウッ!」



 ダイアウルフが一斉に襲い掛かって来る。四方から飛びつき、逃げ場はない。狂暴な狼は牙を剥き、獲物に群がった。


 だけど、僕は無事だ。


 コロの前足にしがみ付き、空中に浮かんでいた。コロは大きな翼を広げ、全身黒い毛に覆われている。


 ――ガーゴイルの能力【飛E】【速E】を移動させていた。


 ちょっとだけ伸びた牙が、闇属性の魔獣の特徴を表している。



 「プーーー!」



 火属性にも弱くないガーゴイルの能力があって良かった。コロは地上にいる魔獣たちが届かない、木の上まで運んでくれる。


 それを見た学院長が「やりおるのぅ」と感心している。向かって来るフェンリルに特大の雷を落とすと、とうとう力尽きその場に倒れた。


 サラマンダーも、アモンズ先生が全滅させる。


 猛威を振るうマンティコア――


 強力な炎を吐き、騎士団の鎧や盾を溶かしてゆく。猛毒の尻尾は鋼鉄のように固く、振り回せば屈強な男たちが軽々と薙ぎ払った。


 だが、トリーヤ様、ライカさん、そして騎士団の精鋭二十名以上が協力し合い、少しづつ追い詰めていく。


 魔導士の水撃、法術士の聖なる光、弓兵による射撃で弱らせ、最後はトリーヤ様がマンティコアの首筋に、剣を突き立てる。


 聖なる光を宿した剣が深々と刺さり、断末魔の叫び声を上げた魔獣は黒い煙となって消えていく。


 その場には、大きくて黒い“魔石”だけが残された。


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