第36話 鼓舞と討伐隊
その後、両親も呼ばれ明日の討伐について説明を受ける。
二人は絶句していたが、当然断れる訳もなく「息子の安全だけは、どうかお願いします」とトリーヤ様に懇願していた。
僕たちは校舎を後にし、体育館にいたアルとコロと共に、重い足取りで帰路につく。帰る際、話を聞いたアルは憤慨していた。
「何だよ! そのアグリ何とかって聖獣をゴドリックが捕まえてたのか!? やっぱりとんでもない奴だな!」
「それよりも、その聖獣の能力をコロが持ってることの方が問題だよ。もしコロが聖獣を食べちゃったなんて思われたら……」
「確かに……それは内緒にした方がいいな」
「それに魔獣との戦いに付いて来てくれって言われてるけど、怖くて仕方ないよ。どうしたらいいと思う、アル?」
「う~~~ん」
さすがにアルでも答えは出ないようだ。公爵にも匹敵する権力を持つトリーヤ様の頼みを、「怖いから嫌です」なんて言える訳ない。
僕たちの後ろを歩く両親も、どんよりした顔をしている。
「それについては、明日パメラに相談しようぜ」
そんな話をしながら、僕たちは学院を後にした。
◇◇◇
学院長室の窓から、ルウトたちを見下ろすスノウの姿があった。
「どう思う、トリーヤ。俄かには信じられん話だが、本当かのう」
紅茶を一口飲み、ティーカップを受け皿に戻したトリーヤが、柔和な表情でスノウの疑問に答える。
「まだ隠していることはあるでしょう、ただ言っていた事に嘘は無かったと思います。唯一アグリロートスの名を聞いた時の反応が気になりますが……」
「元から知っていたと?」
「恐らく」
「ふむ……それにしても、あの動物はアグリロートスの力を引き継ぐ“聖獣”なのかのう?」
「正直分かりませんね。何より聖獣に見えない、何か別の生き物のような……」
「別とは?」
「いえ、私の憶測です。気にしないで下さい」
「何にせよ、ワシらには時間がない。街の州兵も動員して、明日の戦いに臨まなければなるまい」
「州議会は納得しますか? ただでさえ魔獣が襲って来た後です。州兵を討伐に裂けば、街の守備は薄くなるでしょう」
「それはワシが何とかする」
「この街の未来は明日の戦いで決まりますね。私も覚悟しなければ」
◇◇◇
翌日――
厳戒態勢の中、街は静まり返っている。学院を始め、行政や街の商店など全てが休みとなった。
人々は再び訪れるかもしれない魔獣の襲撃に備えている。
街の東端、そこには魔獣討伐のための兵力が集結していた。
聖十字騎士団からは、先の戦いで戦闘不能になった約五百名を除く、計四千五百名が居並ぶ。更に、州兵から千名の増員があり、総勢五千五百名の討伐隊が出発の時を待っている。
壮観な隊の中には、かつて国軍において“銀麗の知将”と呼ばれたスノウと、同じく国軍にいた生物学担当のアモンズがいた。
スノウに関しては高齢ということもあり、反対する者も多くいたが、それを押し切って討伐隊に参加することを決めたのだ。
「先生、オラ怖ぐで仕方ねえげ」
「心配いらん、お主ほどの実力があれば生き残るのは難しくないじゃろう。お主より怖がっておるルウトを助けてやってくれ」
「んだ、分がっだよ。先生」
トリーヤが騎士団の前に立つ。騎馬に乗る騎士を、槍を持つ兵を、杖を携える魔導士を、トリーヤは一通り見回すと、辺りに響き渡る声で激励する。
「聖十字騎士団よ、そして州から集まった勇敢な兵よ。これから向かうのは危険極まりない、ガリアの森の最奥だ。本来なら行きたくはない場所だが、この街を、君たちの家族や友人を守るためには行かねばならぬ!」
隊列に緊張が走る。同時に震えだす者も出てくる。だが、それは恐怖からくるものではなく、武者震いのように兵士たちの士気を上げるものだった。
トリーヤの言葉が彼らを奮い立たせている。鞘から剣を抜き、兵士たちの前で高々と空に掲げた。
「君たちの命を私に預けてくれ! 共に魔獣を打倒そうぞ!!」
「「「おおおーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」
トリーヤの鼓舞による歓声が上がる中、兵団の隅にいたルウトは所在なく、その場に佇んでいた。
ルウトが抱きかかえているコロも、周りの雰囲気に当てられて硬直している。
午前中にアルと一緒にパメラに相談に行ったが、いい解決策を考えることが出来ず結局、魔獣討伐に来ざる得なかった。
本心では来たくなかったルウトだが、ここまで来ると覚悟を決めるしかない。
◇◇◇
僕たちは騎士団と共にガリアの森に入っていった。トリーヤ様の白馬に一緒に乗せてもらい、トリーヤ様のすぐ前に騎乗している。
緊張感が半端ない。
「ルウト君、馬に酔ったりしてない? 気分が悪くなったら言ってね」
「は、はい、分かりました」
トリーヤ様の馬は、集団の中央にいて位置的には最も安全みたいだ。取り合えず戦闘にさえならなければいいけど、そんなうまくいくかな……。
僕は昨夜、いくつか確認したことがある。
一つは聖獣アグリロートスの能力だ。以前は詳細情報を見てもハテナマークで内容が見えなかったけど、昨日はハッキリと情報が開示されていた。
[アグリロートス]
世界に七体いる大聖獣の一体。ガリアの森に住み、光と大地の力を操り闇の魔獣を抑えこんでいる。
【聖なる光 Sランク】
魔獣の力を弱体化させる光。特に闇の魔獣に対して効果がある。
僕がアグリロートスのことを知ったから情報が開示されたのかな? よく分からなかったが、それはまだいい。
問題は別のことだ。何故かコロは“ガーゴイル”の能力を獲得していた。
魔石には近づけないようにしていたのに、いつ食べたんだろう? 僕が問い詰めると、コロはプイッと顔を逸らし、口笛を吹くマネをしていた。
どこで覚えたんだ?(限りなくアルが怪しいが)
しょうがないと思い、ガーゴイルの能力をチェックしてみる。
[ガーゴイル]
【飛E】【速E】
能力としては鬼クワガタと同じか……ただ、こちらは闇属性の魔獣。場合によっては使い処があるかもしれない。
昨夜のことを思い出していると、トリーヤ様が声を掛けてきた。
「ルウト君、コロに光を使ってもらうタイミングなんだが……」
「は、はい!」
「私が指示を出すまでは絶対に使わないでくれ、頼むよ」
「分かりました」
僕たちは馬に揺られながら、森の奥へ奥へと入って行った。




