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14「ログキャビン完成」

「もーリリは鏡ばかり見てないで、ララたちの面倒少しは見てあげてよ」


「姉さんはうるさいですね。朝の身支度はきちんとしないとクマキチさまに愛想を尽かされますよ」


「ふぎっ」


 ルルティナがおかしな声を上げて固まった。ぎぎぎと妙な動きで首を回すと、慌てたように髪や衣服をわたわたと触り出す。


 手鏡と小さめの姿見を手に入れてからというもの、リリティナはおしゃれに余念がない。


 基本、ルルティナたちはお嬢なので狩猟などはからっきしなのだが、裁縫や料理は上手なのだ。


 花嫁修業の基礎はできているのだろう。この世界では吊るしのような服はなく、ほとんどがオーダーメイドらしい。


 もちろん、森の外に出れないことを知っていてヨーゼフに布地の購入も依頼したのだが、それ以来リリティナはお裁縫マスィーンと化し、新たな服を作るのに余念がない。


 すれ切れたボロボロの服は雑巾やハンドタオル、フェイスタオルと変化を遂げて、小奇麗でさっぱりとした色合いのものに移行していった。


 元々が極めつけの美少女たちなのだ。配色の乏しい布地よりも、ちょっと華美に思える服装に着替えるだけでグッとレベルが一段も二段も上のものになった。


「ね。クマキチさま。リリには、これとこれ。どっちが似合うと思いますか?」


「え、あー、うー」


 リリティナは裁断した目にも清々しい若草色とえんじ色の布地をかざして意見を聞いて来る。


 ぶっちゃけ、シロクマであり前世もそれほど女性にもてなかった俺にそのような高等判断ができるはずもない。


 よって大平首相のような答弁で時間を稼ぐしかないのだ。


「ちょっとリリティナ。あなたね。あまりクマキチさまのお手をわずらわせるんじゃありませんっ」


「別にわずらわせてなんかいないわ。ね、クマキチさま。クマキチさまもおそばに侍る女にはいつも美しく着飾っていたほうがよろしいでしょう」


「あ、あー、あなたねっ」


 まあまあ。姉妹で喧嘩するんじゃありませんよ、君たち。


 俺はのっそりとその場を去ると、外できゃいきゃいと騒ぐ三つ子たちを目で追った。


 おや? ふと気づくと、甘辛いようないい匂いがする。


 そろそろ昼どきだろうか。アルティナが鍋をぐつぐつさせて猪の肉を煮ていた。


 なんだか美味しそうだね。


「……ジャム煮。作ってみた」


 ただ焼いたりゆでたりするだけではなく、ジャム煮とは……やるな。


 この料理、それほど調理方法は難しくない。


 ぶつ切りにした猪肉のロースを鍋にぶち込み、スライスした玉ねぎ、ニンジンを入れ、ジャムと塩と魚醤をぶち込んだだけである。


 魚醤は捕らえた川魚をよく洗って内臓を出し、塩漬けにしておけば底のほうに自然と溜まってできるのだ。ニョクマムやナンプラー、しょっつると同じだね。


 ちなみにわざわざ作ったわけではなく、売っていたのをヨーゼフに買ってきてもらっただけだが、これが案外にイケるのだ。


 全員でなかよく昼食をとったのち、再び家作りの作業にとっかかる。


 ノッチを入れた丸太を四方に配し、組んでゆく。

 この際、下部に使用する丸太は火で表面が黒くなるまで炙っておく。こうして炭化させておかないとダメになってしまうのだ。


 入り口の部分は切っておく。斜めに傾斜ができるよう組んでいくのだが、今回冬の訪れを考慮して床の中央部は囲炉裏が組めるよう真四角に切っておいたのだ。


 今回は、屋根を作りやすい片流れタイプのものにした。



 上に行くに従って丸太の長さを短くしておき、最後にノッチを入れたものをかぶせてゆく。


 こうすることによって四角な箱へと斜めな屋根をつけたそれなりに見栄えのするログキャビンが完成した。


「すごいです。これ、私たちの家ですか……?」


 ルルティナたちは仮組みができたログキャビンを見て茫然としていた。


 えへん、と発案者にしては頭に思い描いていたものがそれなりにカタチになるとうれしいものだ。


「今日からここで寝ればいいよ。洞窟の中だと、寒さがキツイ季節だもんな」


「やたー」

「おうちだー」

「ラナ、きょうからここでねゆのー」


 三つ子たちが転がるようにして家の中に飛び込んでゆく。ここまでよろこんでもらうと男冥利に尽きるぜ。


「すごい……新築の、木の香りだ……あ、あれ。あれ?」


 丸太を半割りにしたお世辞にもなめらかとはいえない床を撫でていたリリティナが涙を目に浮かべた。


 ルルティナも感極まって、俺の腕をギュッと握り燃えるように熱い視線を送っている。


 無理もないだろう。十五、六の娘が両親を失い、それまで不自由のなかった生活を失い畜生同然に野山に伏し、不自由に歯を食いしばって耐えて来たのだ。


 まだまだ文化的な生活とはいえないまでも、少しだけはマシになった。


 そう思える仕事が手伝えたんじゃないかなと、俺は思って柄にもなく目頭が熱くなった。


「クマキチさま。なんと、お礼をいっていいのか私には……父母を失った私たちは天下の孤児でした。その日に食べるものすら窮していた私たちを、あなたは身体だけではなく心まで満たし、お救いくださった。感謝……感謝しか、申しようがございません」


 ルルティナたちは俺に向かって拝跪すると押し黙った。三つ子たちも無駄口ひとつ利かず頭を下げている。


 強い感情は言葉を使わずとも充分に通じるものだ。俺はすごく照れ臭くなって頭をガリガリと掻いた。


「ほら、もうそのくらいでいいから。さ。まだ、作業は終わってないよ。みんな、手伝ってくれるかな? ここはルルティナたちの家なんだからさ」


「違う」


 口数の少ないアルティナがハッキリとした口調でいい切った。


「アルティナ?」


 ルルティナが驚いた声を出し顔を上げた。


「……私たちだけのものじゃない。ここは、クマキチさまと私たちのおうち」


 あかん。

 涙腺が決壊してしまうじゃんか、こんなの――。


「とにかくまだおうちは完成してないんで。みんなも作業を手伝ってくれるかなー」


 はーい、とよいお返事。


 まずこの丸太のままでは雨漏りするので屋根をふかなければならない。


 が、この作業、超重量級の俺では上に登って行うことができないので、手先の器用なアルティナさんに託すこととした。


「まかせて」


 木の皮を厚めに剥いでおいたものがいよいよ役に立つときがきたのだ。


 微妙にずらして重ねて釘を打つ。とんてんかんと森の中に軽やかなトンカチの音が響くのだ。


「で、君たちにやってもらいたいのは、外壁工事だ。

 ほら、この丸太組の隙間。特に屋根の真下は穴があってすーすーするし、虫が入ってくると困るだろ。なので、粘土を使って埋めてもらいたいと思います」


 こういう細かな作業は多人数でやったほうが早い。


 森にふんだんにある粘土を練って、左官よろしく丸太と丸太の隙間に塗り込んでいく。


 これはちっちゃな子たちには好評だった。ルルティナとリリティナも「んしょんしょ」と額に汗して作業に邁進している。ま、乾けば固くなるし。自然の知恵ってやつだな。


 夕方頃にはひととおり目途をつけて切り上げた。入り口には板を切り出した引き戸をつけておいたよ!


 いや、自分でやるとなるとなにもかも大変だわ。細い溝掘るのも難しかったし。先人の知恵には参ります。


「わ。すごい。とってもあったかく感じます」


 ルルティナがランタンを灯しながら感動の声を漏らす。


 囲炉裏の枠には柿の木を使用してみました。囲炉裏自体作り方は難しくない。底部には土砂を詰んで、接する四方には延焼や灰漏れを防ぐ粘土を盛っておく。


 そんで、上に灰を敷き詰めれば完成である。天井には木と縄で作った自在カギをつけておいたので、ここに鍋を引っかけ煮炊きができるっていう寸法さ。


「おねーちゃん。もうこれでさむくないねっ」

「ん。よかったね、ラロ」


 リリティナがにっこりするラロの頭を撫でながらやさしく答えた。


 囲炉裏の火は家族のきずなを確かにする。ヨーゼフに新しい毛布をどっさり買いつけてあったので、敷き藁やササの上で寝ていた頃とは雲泥の差だった。


「クマキチさま。今日はお野菜たっぷりのキノコ鍋ですよ」


 ルルティナがそばにいて、なにくれとなく世話を焼いてくれるので不自由はない。


 俺は椀に盛られたキノコ汁をがばがばっと掻き込んだ。リリティナがぱちぱちっと拍手してくれる。ちょっとした若すぎるキャバクラみたいだ。


「ここ、かぜひゅーひゅーしないんだねぇー」


 ラナがそういって毛布にくるまりきゃっきゃっと声を上げた。


 ベイビーたちよ。おじさん、頑張った甲斐があるってもんだぜ。


 その日は、久方ぶりに熟睡できたような気がした。

 まったく住居というものは重要なものだと再認識させられた。






 うっとりとした表情で寝こけているルルティナを眺めているうちに夜が明けた。


 体温高めの俺は水色に変わってゆく空から降るツンとした朝の空気が肌に心地よい。


 起き抜けに囲炉裏の火を足しておいたので、彼女たちはもうちょいとろとろとした眠りをむさぼっていられるだろう。


 ほぼ習慣となった罠のかかり具合を見に縄張りを巡回する。今朝はぴょぴょっと小鳥のような鳴き声のリスが八匹ほどとれた。テンやイタチも取れたが肉が臭いので離してやる。


 リスは雑食であるイタチなどと違って木の実しか食べないので肉が上品な味である。


 タヌキも脂が乗って美味いというが、俺は積極的に捕食する気持ちになれない。


 なぜならタヌキはものすごく臭いのだ。


 日本でも昔から知られているほどで、まず好んで食べる人間はいない。


 近年は猖獗したダニなどにやられ、皮膚などがものすごいことになっているので、食うはずもないと聞いた。そうでなくても、わざわざ取ろうとは思わないが。


 俺はリスを骨ごとすり潰して肉団子にして鍋にした。


 ルルティナたちは生まれつきが胃がいいのか、毎食肉料理でも文句を絶対いわない。


 これに焼き立てのパンがつく。適当に作った石窯でも結構美味しく作れるものだと感心してしまう。


 リリティナはパンが作れるようになってからは、朝は絶対に肉を食わなくなった。


 紅茶を飲んで、優雅なひとときだ。リリティナはやはりみなとちがったなにかを感じてしまう高貴さが漂っている。俺は断然ルルティナ推しなのだが――。



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