新たな事業
翌日。
ARC本社。
大会議室。
役員全員が席についていた。
西園寺。
九条。
白石。
橘。
佐伯。
高橋。
創業から一年。
初めて全役員が揃って行う経営会議だった。
悠は全員を見渡し、小さく頷く。
「今日は。」
「ARCの次の事業について話します。」
会議室の空気が引き締まる。
悠はプロジェクターを操作した。
画面に映し出されたのは、一枚のグラフ。
**インターネット利用者数。**
そして。
**ADSL契約数。**
どちらも右肩上がりだった。
「これまでは。」
「ホームページと言えば。」
「会社。」
「お店。」
「企業が持つもの。」
「それが当たり前だった。」
全員が頷く。
悠は画面を切り替える。
「でも。」
「時代が変わります。」
「ブロードバンドの普及で。」
「これからは。」
「個人のインターネット利用者が爆発的に増えていきます。」
橘が資料を見ながら頷いた。
「数字を見ても、その傾向は明らかですね。」
悠は続ける。
「つまり。」
「個人ホームページも。」
「これから一気に増えていく。」
西園寺が手を挙げた。
「社長。」
「確かに増えるとは思います。」
「でも。」
「会社のホームページだって。」
「更新しているところは少ないですよ。」
「個人も同じじゃありませんか?」
悠は笑った。
「その通り。」
「そこが問題なんだ。」
画面が切り替わる。
---
**ホームページ**
作る → 更新が面倒 → 放置
---
「会社は最初だけ頑張って作る。」
「でも。」
「半年。」
「一年。」
「更新されなくなる。」
九条が静かに頷く。
「HTML。」
「更新するたびに。」
「専門知識が必要になる。」
「普通の人には難しい。」
「そう。」
悠は九条を見る。
「だから。」
「個人ホームページも。」
「同じ未来になる。」
「最初は作る。」
「でも。」
「更新が面倒。」
「だから放置される。」
会議室が静かになった。
全員が納得している。
悠は一歩前へ出る。
「だから。」
「ARCは。」
「その一歩先を作る。」
役員たちの視線が集まる。
「専門知識はいらない。」
「日記を書くように。」
「写真を貼るように。」
「誰でも。」
「簡単に。」
「自分だけのホームページを更新できる。」
「そんなサービスを作る。」
白石が小さく呟く。
「誰でも……。」
「更新できるホームページ……。」
九条も考え込む。
「技術的には。」
「十分可能。」
「今のSaaS基盤を使えば。」
「ゼロから作る必要もない。」
悠は頷いた。
「そう。」
「ネットショップで作った。」
「ユーザー管理。」
「画像管理。」
「分散処理。」
「負荷分散。」
「全部。」
「そのまま応用できる。」
九条の目が少し輝いた。
「なるほど。」
「だから以前SaaSは次の土台になるって言ったんだ。」
悠は笑う。
「全部。」
「繋がってる。」
「今まで積み上げてきた技術は。」
「全部。」
「次の事業のためのもの。」
静かな空気が流れる。
そして悠は続けた。
「海外では。」
「こういう仕組みを。」
「**Weblog**。」
「略して。」
「**Blog**。」
「そう呼び始めているらしい。」
役員たちは初めて聞く言葉に顔を見合わせた。
「ブログ……。」
悠は頷く。
「ARCも。」
「この新しい仕組みに挑戦したい。」
西園寺が腕を組んだ。
しばらく考えたあと、ゆっくり口を開く。
「社長。」
「一ついいですか。」
「もちろん。」
「個人が。」
「お金を払ってまでホームページを作るでしょうか。」
「会社なら分かります。」
「でも。」
「個人ですよ。」
「しかも。」
「簡単に作れるなら。」
「なおさらお金を払わない気がします。」
会議室が静まり返る。
全員が同じ疑問を抱いていた。
悠は笑った。
「その通り。」
「だから。」
「お金は取らない。」
一瞬。
誰も言葉を発しなかった。
橘が思わず顔を上げる。
「……無料ですか?」
「完全無料だ。」
「それじゃ。」
「利益どころか。」
「赤字ですよ。」
高橋も頷く。
「法務以前に。」
「会社が成り立ちません。」
佐伯も苦笑する。
「人も増えれば。」
「運営費も増えます。」
「社長。」
「何のために?」
悠は静かに笑った。
「最初は。」
「利益はいらない。」
「これは。」
「先行投資だ。」
役員全員が息を呑む。
悠はホワイトボードへ歩き、一つずつ書き始めた。
**広告**
**有料機能**
**EC連携**
「人が集まれば。」
「利益はいくらでも作れる。」
「でも。」
「人がいなければ。」
「何も始まらない。」
会議室は静まり返っていた。
橘が小さく呟く。
「なるほど……。」
「最初に利益じゃない。」
「最初に人を集める。」
「ですが相当な投資になるでしょうね。」
高橋も感心したように頷く。
「無料だから。」
「一気に普及する可能性がありますね。」
白石は笑顔になる。
「人が増えれば。」
「デザインももっと楽しくなりそう。」
九条はすでに頭の中で設計を始めていた。
「作れる。」
「かなり面白いものになるかも」
佐伯も微笑む。
「人が集まる場所なら。」
「運営体制も今から考えておきます。」
そして最後に。
西園寺が頭を掻きながら笑った。
「社長。」
「本気で聞きます。」
「その頭。」
「どうなってるんですか。」
会議室に笑いが広がる。
悠も苦笑した。
その時。
AIの声が静かに響く。
『ここまでです。』
(ん?)
『十分理解しました。』
『次の段階は。』
『まだ早いです。』
悠は心の中で笑った。
(そうだな。)
まだ。
人と人を繋ぐ未来の話はしない。
まずは。
誰もが自由に発信できる世界を作る。
その先にある未来は。
まだ少しだけ、先の話だ。
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