第100話 崩れる流れ
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奥へ進むほど、空気が変わっていった。
モンスターの気配が途切れない。
一度戦闘が終わっても、すぐ次が来る。休む間がない。
「……さっきより増えてますね」
エンが小球を浮かせたまま言う。
「増えてるね」
カナは短く答え、周囲を見回した。
「しかも引かない」
ノアも頷く。
「普通なら、一度間隔が空きます」
通路の先から、二体。
さらに横の分岐からもう一体。
小球が動き、進路を制限する。
ノアが踏み込み、一体を倒す。
カナが残りを押し止める。
戦闘そのものは問題ない。
だが終わらない。
「……これ、長引くとまずいですね」
エンが息を整えながら言う。
「うん」
カナも同意した。
「強いわけじゃない。でも、減らない」
疲労だけが溜まっていく。
それが一番危険だった。
その時、奥の通路から複数の足音が近づいてきた。
装備の音。荒い呼吸。
別パーティだった。
「撤退する!道空いてるか!?」
先頭の冒険者が叫ぶ。
「大丈夫です!」
エンが即座に答え、小球を前方へ動かす。
迫っていたモンスターの進路をずらす。
通路に一瞬だけ空間ができる。
冒険者たちがそこを抜けていく。
「助かった……!」
通り過ぎざまに声が飛ぶ。
だがその表情には、余裕がなかった。
「奥、維持できねえ!数が異常だ!」
そのまま彼らは出口方向へ消えていく。
静かになる。
だがすぐに、また気配が増えた。
押し出されるように、次のモンスターが現れる。
エンは小さく息を吐く。
「……流れが崩れてます」
いつもなら、戦闘には波がある。
押して、引いて、整える時間がある。
今は違う。
常に押され続けている。
カナが前に出る。
「ここで止めるよ」
「はい」
エンは頷き、小球の動きを速めた。
通路の中央で球を巡らせる。
敵の足が止まる。
ノアが確実に一体ずつ仕留めていく。
だが、終わらない。
倒しても、また来る。
数分後には、全員の呼吸が少しずつ重くなっていた。
「……これ、奥に原因ありますね」
エンが言う。
「だろうね」
カナも同じ結論だった。
「普通じゃない」
ノアが短く続ける。
「押し出されています」
その表現が、一番近かった。
何かが奥から、モンスターを前へ流している。
自然な湧き方ではない。
通路の奥から、さらに強い魔力の揺らぎが伝わってきた。
今までとは質が違う。
重い。
粘つくような感覚。
エンは無意識に球の位置を調整していた。
流れを崩さないように。
「どうする?」
カナが振り向く。
撤退するなら今だった。
判断としては正しい。
だが。
エンは少しだけ奥を見つめる。
球はまだ安定している。
流れは保てている。
「……もう少しだけ、確認してもいいですか」
カナは一瞬だけ考え、肩をすくめた。
「無理はしないよ」
「はい」
ノアも、帰還石を用意しながら静かに頷く。
「いつでも引けます」
三人は再び奥へ進む。
戦闘の音が、遠くで途切れずに響いている。
誰かが戦い続けている音だった。
そしてその奥で。
ダンジョンの魔力とは異なる、歪んだ脈動がゆっくりと強まっていた。
流れは、確実に崩れ始めていた。
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