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スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する  作者: 昼ライス
3章:流れを繋ぐ者たち

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第87話 球を浮かせるということ

毎日20時投稿

ギルド裏の空き地には、夕方の風がゆっくりと流れていた。


エンは小球を一つ、手のひらの上に乗せている。


何度目か分からない失敗のあとだった。


球はわずかに浮き上がり――すぐに落ちた。


乾いた音が地面に響く。


「……難しいですね」


思わず苦笑が漏れる。


転がすのとは、まるで違った。


「そりゃそうだよ」


少し離れた場所で、カナが工具を片付けながら言った。


「今までやってこなかったんだから」


その横では、見慣れない形の鉄球がいくつか並んでいる。


表面に細い溝が刻まれたもの。わずかに突起のあるもの。


だがカナはそれを手に取らない。


あくまで研究用だ。


実戦に使う気配はない。


ノアは腕を組んで、エンの動きを見ていた。


「浮かせる理由は?」


単刀直入な質問だった。


エンは少し考える。


「転がすと、止まるからです」


自分でも、言葉にして初めて整理できた気がした。


「地形が変わると、流れが切れる。だったら、地面に触れなければいい」


ノアは小さく頷く。


理屈は単純だ。


「でも、負担が増えますよね」


「はい」


即答だった。


実際、もう腕が重い。


球を浮かせるだけで集中力を持っていかれる。


エンはもう一度意識を集中させた。


球がわずかに浮く。


今度は落とさないよう、力を抜く。


浮いたまま、止める。


――揺れる。


維持できない。


また落ちた。


「……くそ」


思わず声が漏れる。


転がす時は、こんなことはなかった。


流れに乗せれば、勝手に動いた。


だが今は違う。


全部を自分で支えなければならない。


「力を入れすぎなんじゃないですか」


ノアが言った。


「え?」


「止めようとしてます」


エンは一瞬言葉を失う。


「……止めちゃだめなんですか?」


「分かりません」


ノアはあっさり言った。


「でも、さっきよりエンさんの動きが硬いです」


感覚の話だった。


だが、間違っていない。


エンは深く息を吐いた。


止めるのではなく、浮かせ続ける。


動きを殺さない。


その感覚を探す。


球が、もう一度浮いた。


今度はわずかに揺れながらも、落ちない。


数秒。


十秒。


やがて集中が切れ、地面に落ちた。


だが、さっきより長い。


「……できそうです」


エンは小さく笑った。


初めて、手応えがあった。


カナがこちらを見ずに言う。


「急がなくていいよ」


金槌を置きながら続ける。


「今までの戦い方が間違ってたわけじゃないんだから」


「お金の問題も、贅沢しなければ、しばらくは問題ないしね」


「分かってます」


エンは頷いた。


これは否定ではない。


次に進むためのものだ。


ノアが短槍を肩に担ぐ。


「明日もやりますか」


「はい」


「じゃあ、動きながらやりましょう」


エンが顔を上げる。


「止まってると簡単です」


ノアは淡々と言う。


「戦闘は止まらないので」


もっともだった。


エンは小球を拾い上げる。


滑らかな金属の感触。


今まで当たり前に使っていたものが、急に違って見える。


浮かせる。


動かす。


止めない。


やることは変わらないはずなのに、世界が少しだけ広がった気がした。


新しい流れは、まだ形にならない。


だが確かに、動き始めていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の別作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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