第108話 出発前夜
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出発は、明日の朝に決まった。
荷物はほとんどまとめ終わっている。
作業場の中は、以前よりずっと広く見えた。
「……こんなに広かったっけ」
エンが呟く。
「物が減っただけ」
カナが笑う。
「今まで詰め込みすぎてただけだよ」
壁際には、持っていかない道具がいくつか残っている。重くて運べないもの、使い込んだが替えのきくもの。
この街に置いていくものだった。
ノアは最後に槍の束を確認している。
カナが作った予備は、すでにまとめて布に包まれていた。
「本数、足りますか」
「足りなくなったら現地で作る」
カナはあっさり言う。
「素材さえあればどうにでもなるよ」
その言葉に、少し安心する。
場所が変わっても、やることは変わらない。
作業が一段落すると、三人は自然と外に出ていた。
夜の街は静かだった。
見慣れた通り。
何度も通った店。
冒険者になってから、ずっと過ごしてきた場所だ。
「……明日には出るんですね」
エンが言う。
「そうだね」
カナは空を見上げた。
「長かったような、短かったような」
ノアも周囲を見渡す。
「ここで強くなりました」
しばらく歩き、ギルドの前で足を止める。
夜の建物は昼間とは違って見えた。
静かで、少しだけ遠い。
「最初に来た時、覚えてる?」
カナが聞く。
「覚えてます」
エンはすぐに答えた。
「スキルの説明を受けて……どうすればいいか分からなくて」
「球術、だっけ」
カナが笑う。
「意味分かんないスキルだったね」
「はい」
エンも笑う。
否定はできなかった。
「でもさ」
カナが続ける。
「今は、ちゃんと形になってる」
その言葉に、エンは少しだけ黙る。
自分では、まだ途中だと思っている。
だが、ここまで来られたのも事実だった。
「次の街でも、同じですね」
ノアが言う。
「やることは変わりません」
「うん」
カナが頷く。
「強いダンジョンに潜るだけ」
簡単に言う。
だがその言葉の意味は、以前よりずっと重い。
少しだけ風が吹いた。
夜の空気が冷たい。
エンはギルドをもう一度見上げる。
ここで始まって、ここで一区切りついた。
終わりではない。
ただ、流れが次へ進むだけだ。
「……行きましょうか」
「うん」
「はい」
三人は作業場へ戻る。
明日は早い。
扉を閉める前、エンは一度だけ振り返った。
見慣れた街並み。
静かな夜。
ここでの冒険は終わる。
だが、止まるわけではない。
流れは続く。
次の場所へ。
次の戦いへ。
フロウラインの物語は、まだ始まったばかりだった。
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