第84話 鑑定士ルイズ
リゼとディナーをした翌朝、ムビは目を覚ました。
今日は、病院の検査の最終日だ。
検査結果に問題が無ければ、明日から冒険者活動を再開できる。
———だが、冒険者活動を再開する前に、今日は大事な用事を済まさなければならない。
ムビは、朝イチで病院の検査を終えた。
何の問題も無かったようで、無事に検査は終了した。
これで、明日からまた冒険者活動ができる。
検査を終えたムビは、そのまま馬車に乗り、ルミノールの街を出た。
目的地は、宗教都市クラナディア。
王都とルミノールの中間地点にある街で、信仰の聖地である。
ここに、ルイズという名の世界一の鑑定士がいる。
ムビの目的は、自身のスキル『エンパワーメント』を完全解明してもらうことだ。
スキルの完全解明は、この国ではルイズにしかできないと言われている。
何で急激に俺のパラメータが上がったのか?
鑑定で、何か分かると良いけど・・・。
ムビは馬車に揺られながら、『四星の絆』とのグループLINEに、検査結果を書いた。
他の4人も検査を終えたらしく、全員問題無かったようだ。
『明日打ち上げしようよー♪』というユリの投稿で、明日の夜、皆で『箒星』に集合することが決まった。
夕方頃、ムビはクラナディアに到着した。
宗教的な建物、銅像などが多く見られ、町全体が神秘的な雰囲気に包まれていた。
道行く人々も、神官見習いやシスターが多い。
ルイズは大聖堂にいる。
鑑定は17時まで。
急がなきゃ!
ムビは駆け足で大聖堂に向かった。
大聖堂には、建物の外まで続く長蛇の列ができていた。
・・・これ全部、ルイズの鑑定待ち!?
ムビは不安に思いながら、受付の神父に話しかける。
「すみません、予約していたムビなのですが・・・」
「はい、ムビ様ですね。どうぞこちらに」
ムビはホッとした。
予約ありと予約なしで、ルイズの鑑定料は大きく変わる。
予約なしならば500万円。
ただしその場合は、列に並ぶ必要があり、いつ鑑定できるか分からないとのこと。
列の争奪戦に勝てず、1か月経っても鑑定が受けられないこともザラだとか。
ちなみにムビは、5千万円を払って予約を行った。
大聖堂は99階建ての建物で、教会内での地位が高い程、上の階層を管轄することになるという。
ムビが向かったのは95階。
ルイズの地位がどれほど高いのかが分かる。
「今、鑑定中のようです。鑑定を受けられている方が部屋を出て行かれたら、お入りください」
ムビは部屋の前の椅子に座った。
10分程経過し、中から人が出てきた。
ムビは入室を促される。
「どうぞお入りください」
ムビが部屋に入ると、テーブルの向かい側に気品のある女性が座っていた。
テーブルの上には、ペンと羊皮紙がある。
「ようこそ。私がルイズだ。時間的に、今日は君で最後かな」
「ギリギリで申し訳ありません。ムビと申します」
「はいはい、ムビ君ね。予約で鑑定を受けるなんて、なかなかお金持ちだね。今日は私にどんな用だい?」
ルイズは、鑑定以外にも解呪、回復、人生指南も請け負っている。
どれも超一流と話題だ。
「僕のスキルを、鑑定していただいてもよろしいでしょうか」
「スキルの鑑定ね。なるほど、了解した」
ルイズが呪文を唱えると、ムビの体が光に包まれた。
その光が、ルイズに吸収されていく。
「おや、なかなか珍しいスキルをお持ちのようだね。さぁて・・・鑑定結果を紙に書いて上げようか」
ルイズが指を鳴らすと、テーブルの上の羊皮紙とペンが自動で動き始めた。
高速で文章が記述されると、羊皮紙がムビの前にふわりと置かれた。
「書いてあることと同じ内容だが、一応口頭でも説明してあげようか。何か質問があれば聞いてくれ」
ムビはコクリと頷く。
「まず、スキル名は『エンパワーメント』。対象Aのパラメータ、状態異常、呪いを対象Bに移し替えることができる。対象Aは複数選択不可で、対象Bは複数選択可。対象にするための条件は3つ。①『名前』を知っている②『顔』を知っている③『親近感を抱く程度の付加情報』を知っていることだ。一応、バフ系統のスキルに属しているな」
流石、説明が詳細だ。
以前の鑑定士は、もっと不明確であやふやな説明をしていた。
そのときは、こんな分かりにくい能力をしているお前が悪いと、何故かムビが怒られた。
よって、ムビの自身のスキルに関する知識の半分は、何年もかけて自分で試行錯誤した結果得られたものだ。
それを一発で、全て詳細に看破した。
・・・この鑑定結果は、めちゃくちゃ信用できる・・・。
ここまでの鑑定結果は、ムビが既に把握している内容だが。
羊皮紙の文章量を見ると、まだ続きがありそうだ。
「ここから先は、秘匿性が高いな。私クラスの鑑定士だから分かる内容だと思ってくれ」




