第85話 ムビの真の力
「ここから先は、秘匿性が高いな。私クラスの鑑定士だから分かる内容だと思ってくれ」
「はい」
やっぱり『エンパワーメント』には他にも効果があったのか。
ムビはドキドキする。
「これは君の意志に関係なく、常時発動するようだな。呪いのようなものだと思ってくれ。君が他者に対して①~③を満たした場合、ごく僅かだが君のパラメータが奪われる。逆に、君に対して①~③を満たした他者のパラメータをごく僅かだが奪う。」
「えっと……それはどういう……?」
「例えば、この世界が100人村だとする。君は他の99人のことをよく知っているが、君のことを知っている者は1人だけだとする。すると、君のパラメータは99人に吸い取られ、1人からパラメータを分けてもらえる。差し引き98人分、君のパラメータは弱体化するわけだ。逆ならば、君のパラメータは98人分強化される」
……なんだそのスキルは。
ムビは驚いた。
「すみません、移譲されるパラメータの量は、定量ですか?定率ですか?」
「定量だな。まぁ、本当にごく僅かだ。1万人分で、ようやく1レベル分というところだろう。普通に生きていれば特に影響はないだろうから、安心してくれ」
ムビには、なんとなく心当たりがあった。
「実は、最近まで、レベルが上がっても全然パラメータが上がらなかったのですが……」
「何、そうなのか?」
ルイズは少し考える。
「君、SNSはよく見るかい?」
「そうですね、毎日かなり……」
「恐らくそのせいだろうな。君が一方的に知っている者の数が増え過ぎると、悪影響が出るだろう。SNSの利用は、できるだけ控えることをお勧めするな。昔なら問題なかっただろうが、今の時代ではデメリットの大き過ぎるスキルかもしれないな」
確かに、SNSの無い時代なら、人に認知される機会も、人を認知する機会も限られる。
普通に知り合う分には、ステータスの増減量はプラスマイナスゼロ。
一生、気付くことのない能力だっただろう。
しかし、今の時代では……。
「ちなみに、もしもなんですけど……『Mtube』の動画や配信で、短期間に数百万人に認知されてしまった場合、どうなりますかね?」
「ふむ、面白いことを聞くな。そうだな……その場合は、数百レベル分のパラメータを得ることになるのかな?……はっはっは、臨界者を遥かに超える化物の誕生じゃないか。まぁ、やってみないと分からんが」
なるほど……それか。
『幽影鉱道』で急激に強くなった理由は。
家に帰ってアーカイブを確認したが、あのとき、配信で同接数が150万人を超えていた。
コメント欄には俺の名前が大量に書かれていた。
あのとき、リスナー全員から力を貰っていたわけか。
それだけじゃない。
確か、ミラが配信内で俺の名前を呼んだ記憶がある。
リスナー達がSNSに拡散し、家族や友人に共有するケースもあるだろう。
条件を満たしていた人数は、実際はもっと多かった筈だ。
この能力、つまり、こう言い換えることができるだろう。
SNSの登録者数が増える程、強くなる能力———。
「いや、確かに面白そうだ。君、『Mtuber』になってみてはどうかね?」
「そうですね……考えてみます」
冗談めいた口調で笑うルイズに対し、ムビは苦笑いで返した。
ムビは鑑定を終え、部屋の外に出た。
正体不明の力が明らかになった。
強力な———しかも、今後まだまだ発展の余地のある能力だ。
ただ、懸念事項もある。
一過性の認知では、ムビを忘れてしまう人が多いということだ。
急上昇のトレンドに乗ったとして、瞬間的には人々の印象に残るだろう。
だが、時間が経っても、人々はムビのことを正確に記憶しているだろうか?
ムビだったか、ガビだったか、サビだったか?
こんな風に記憶が曖昧になった瞬間、スキルの発動条件を満たさなくなる。
ムビなんて変わった名前、数回聞いただけで、人々の記憶にずっと定着するだろうか?
また、ムビの顔も、数える程度しか露出していない。
印象的な顔でもなかろうに、果たして人々の記憶にいつまでも残るだろうか?
とても自信がない。
恐らく、忘れてしまう人は少なくないだろう。
それがSNSの世界というものだ。
そして、スキルの発動条件を満たさなくなった人からのパラメータ供給は途絶える。
危ういバランスの上に成り立っている能力と言えるだろう。
だが、安定的な認知を確保できれば、非常に強力な……否、最強と呼んで差支えない能力だ。
ならば、恒常的に認知してもらえるよう、もっともっと『Mtube』の活動に力を入れなければならない。
そして、ムビにはその自信がある。
『白銀の獅子』、そして『両面宿儺』。
問題はまだ山積みだが、この力があればきっと、『四星の絆』を守ることができる。
ムビは大聖堂の外に出た。
美しい夕日が街とムビを染め上げる。
僅か1時間にも満たない時間だったが、鑑定を受ける前とは、風景が違って見える。
世界は、こんなにも美しかっただろうか。
雲の切れ間から、光が降り注ぐ。
信仰の街クラナディアは、神の存在を信じさせるに足る、神秘的な囲気に包まれていた。
ムビは夕日に向かって祈るように手を組み、目を閉じた。
———神様。
僕に『四星の絆』を守る力を与えてくださって、ありがとうございます。
あのデスストーカーと対峙したときの絶望。
その結末がこの美しい風景であることを、ムビは神に感謝した。
明日は、『四星の絆』の皆と会える。
ムビは足取り軽く、夕映えの街を歩み始めた。
第1章、完結です!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
ムビくんの覚醒編、これにて終了です!
第2章はメディア、芸能系のお話が続きます!戦闘系は控えめになるかもです。
第3章は、バリバリのバトルです(ミラが本気出してくる予定・・・多分)!
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