第77話 状況証拠
ムビは『白銀の獅子』が出口に向かって行くのを見ていた。
なんだか嫌な予感がする。
ムビはミラに話しかけた。
「すみません。皆さんが着いたのは何時頃ですか?」
「ん?ついさっきじゃが?」
ムビは少し考えて、周囲の冒険者達に話しかける。
「すみません、どなたか軽量化魔法付きの保存袋をお貸しいただけないでしょうか?」
「保存袋?何に使うのじゃ?」
「実は、ボス部屋の奥の宝物庫に大量の宝があって。今のうちに回収しておきたいと思いまして」
「ほう、なるほどのぉ。それなら、ワシが貸してやるぞ♪」
ミラが袋を取り出しムビに手渡した。
こ・・・これは・・・最高級保存袋!?
複数あれば古の"異空庫"にも匹敵する収納力を持つと言われる・・・。
中を覗いたら、やはり複数あった。
流石はミラだ。
「ありがとうございます!ちょっと今から行って、収納してきます!」
ムビの言葉を聞いて、周りの冒険者が驚いた。
「今から最深部まで行くのか!?」
「普通数日かかるぞ!?やめとけって!」
「1回街に帰ってから、万全で行った方がいいぞ?」
「ありがとうございます。でも、動画で晒しちゃいましたし、放っておくと横取りされちゃうかもしれないので、今のうちに回収しようと思います」
「そ・・・そうか。じゃあ、俺達はルミノールの冒険者達の生存確認を行うから、ここで待っておくぞ?」
「分かりました。できるだけ急いで戻ります」
ムビは物凄いスピードで鉱道の奥へ消えて行った。
「おい・・・見たか・・・?」
「とんでもねぇ速さだったな・・・」
冒険者達はあっけに取られていた。
ムビは猛烈なスピードで『幽影鉱道』を進んでいった。
デスストーカー戦で感じた力は未だに体内に感じる。
レベル100になった分のステータス上昇も身体能力に反映されているような気がする。
ムビは移動しながらとてもワクワクしていた。
一人でダンジョン内を走れるなんて。
風が気持ちいい。
生まれて始めて、冒険をしているような気がする。
今なら、何でもできそうな気がする。
ムビの探知魔法に魔物の反応があった。
———10秒後、5体の魔物に遭遇するな。
予想通り、10秒後に5体の魔物が現れた。
ムビは無詠唱で魔法を発動する。
5体の魔物は、ムビに遭遇したことにも気付かず、一瞬で葬られた。
魔物を・・・呪文で一掃した・・・ははっ、楽しい!
ムビにとって、生涯2度目の、自力の魔物討伐である。
ムビは全能感に満ち溢れ、体が羽のように軽かった。
徐々に自分の力に慣れてきたのか、進行スピードがどんどん上がっていく。
その後も魔物と何度か遭遇したが、どれも一瞬で片が付いた。
ムビの行く手を阻むものは何一つ存在せず、わずか30分程で宝物庫の前に到達した。
息を整えながら、ムビは喜びに打ち震える。
数日かかった道のりが、たった30分で・・・。
やっぱり、物凄く・・・物凄く強くなってる・・・。
まさか、こんな日が来るなんて。
———誰もいないよな?
ムビは周囲に誰もいないことを確認して———誰もいるわけがないのだが———何度もガッツポーズをした。
そうだ、宝物庫は・・・。
ムビは宝物庫の扉を開けた。
中にある筈の金銀財宝は、空っぽだった。
「・・・やっぱりか・・・」
状況的に、十中八九『白銀の獅子』が持って行ったのだろう。
昨夜に到着した白銀の獅子ならば十分可能だ。
というか、それ以外考えられない。
ルミノールの冒険者が持って行った可能性もある。
生存者がいればの話だが。
このような場合、盗難被害を出すことはできない。
ダンジョン内の宝は誰の所有物でもないからだ。
保存袋で所有している状態、結界で保護している状態の物を奪った場合は盗難にあたるが、今回はただその場に置いてあった宝である。
ゆえに、数百億円分の宝を取り戻すのは難しいだろう。
ただ、それはあくまで法律の話である。
今回、『Mtube』の動画により、ムビ達が宝を見つけたことが確定的で、しかも救援に駆けつけた筈の『白銀の獅子』が宝を根こそぎ奪ったとなれば、相当なバッシングを浴びるだろう。
まぁ、それくらいじゃ、あいつらは金を返さないだろうけどな・・・。
正直、数百億円分の宝が奪われたことは腸が煮えくり返るほどムカつくが、得たものもある。
宝物庫に宝が無いことにより、『幽影鉱道』で起きた一連の事件、『白銀の獅子』の黒が確定したのだ。
なぜ、『白銀の獅子』は真っ先に宝物庫に向かったのか?
なぜ、『白銀の獅子』はデスストーカーが徘徊する危険なダンジョンに一番乗りし、堂々と駆け回れたのか?
なぜ、デスストーカーは発見困難な裏ルートへの侵入経路を見つけられたのか?
もしも『白銀の獅子』が潔白ならば、これら三つの説明がつかない。
逆に『白銀の獅子』が黒ならば、全て説明がつく。
デスストーカーの言葉だけでは、虚言の可能性があり、『白銀の獅子』の黒を確定することはできなかった。
だが、『白銀の獅子』が宝物庫の宝を奪ってくれたおかげで、状況証拠が揃った。
黒幕は、動かず、尻尾を出さないからこそ黒幕なのである。
ムビがアップした動画を見て、欲に目が眩んだのだろう。
今回、『白銀の獅子』はダンジョンに来るべきではなかった。
黒幕にしては動き過ぎた。
・・・まぁ、俺達が死ぬことが前提だったから、まんざら悪手だったとも言えないか。
俺達の生存がイレギュラー過ぎた。
———だが、リスクの代償はきっちり払ってもらう。
数百億の損失は確かに痛い。
だが、『白銀の獅子』が『四星の絆』を狙っていることに気付けた。
数百億円を手にする代わりに命の危機に気付かないか、数百億円を失う代わりに命の危機に気付くか。
死線を潜った今のムビには、後者も悪くないと思える。
命に比べれば、金なんて紙屑でしかないのだから。
宝物庫の調査を終えたムビは、30分かけて冒険者達の所に戻ってきた。
宝物庫が空だったこと、デスストーカーの自白、一連の事件に『白銀の獅子』が関わっていることを皆に伝えた。
「は・・・・・『白銀の獅子』が、こんなことやったっていうのかよ・・・??」
「嘘だろ・・・??」
『四星の絆』が冒険者達に熱心に語りかける。
「私達はしっかり聞こえてたよ!」
「そうそう!確かに『白銀の獅子』が依頼したって言ってた!」
事態を知り、冒険者達の怒りが頂点に達した。
「野郎・・・極悪人じゃねぇか!『白銀の獅子』、出てこい!」
「・・・あれっ?いつのまにかいやがらねぇ・・・!」
「・・・くそっ!黒確定じゃねぇか!」
そのとき、調査に出ていた『真紅の刃』率いる探索組が帰ってきた。
「おう、どうだった?」
「ダメだ・・・ルミノールの冒険者達は、裏ルートへ入ってすぐデスストーカーに襲われたらしい。全滅だったよ・・・」
「そうか・・・。あとはギルドに任せるしかないな。ルミノールに引き上げよう」
こうして、長かった『幽影鉱道』の冒険が終わり、ムビ達はルミノールの街へ帰っていった。




