第75話 救援隊
早朝、『幽影鉱道』の入口付近には、100人以上の冒険者達が集まっていた。
その中心にはミラがいる。
皆一様に、表情が暗かった。
「おい・・・『四星の絆』に生存者はいると思うか?」
「いや・・・駄目だろう・・・あの状況じゃ・・・」
昨夜、『幽影鉱道』に移動しながら、『四星の絆』の配信を確認していた。
配信は途中で途切れた。
最後の場面は次のような内容だった。
『四星の絆』がデスストーカーに追い詰められる。
何やらデスストーカーと話しているようだったが、遠くて音声がよく聞き取れない。
ムビという少年が前に出たところで、画面が暗転。
暗転したまま数十秒、戦闘音が続き、そこで配信は終了した。
カメラが破損したのは明らかだった。
「魔物に喰われて遺体なんか見つかるのか?」
「体の一部が残っていればな。装備品は大抵落ちていることが多いから、その周辺に血痕や体の一部が見つかれば、それで死亡と認定されるな」
「ルミノールのBランク冒険者達も恐らく全滅だよな・・・。『白銀の獅子』だけでも生き残ってて欲しいが・・・」
「こりゃ、近年稀にみるダンジョン災害だぜ」
「問題は俺達だ。デスストーカーの討伐なんて、本当にできるのか?」
「分からん。だが、ミラも十分化物だ。この人数で掛かれば、何とかなるんじゃないのか?」
「だが、討伐推奨レベル240だぜ・・・。過去一度も、討伐されたことがない魔物って話じゃないか」
「流石に強さの桁が違い過ぎて、どうなるか分からんな」
「『黒鉄の蠍』が一度、禁忌指定と戦ったことがあるそうだ。討伐推奨レベル180だったそうだが、無理だと諦めて逃げ出したってよ。そのとき、パーティメンバーが一人死んでるらしいぜ」
「そのときの魔物より強いってことだろ・・・今更だが震えてきたぜ・・・」
「俺も・・・。魂の消失なんて絶対に勘弁だぜ・・・」
「ミラを信じるしかねぇな」
会話していた冒険者達は、チラッとミラを見る。
ミラは、Aランクパーティ『真紅の刃』・『雷鳴の牙』・『黒鉄の蠍』に囲まれて移動していた。
ミラが『黒鉄の蠍』のリーダーに話しかける。
「なぁ・・・やっぱり、ダメだと思うか?」
「確実に全滅していると断言できます。私達が以前、禁忌指定の魔物に遭遇した際、逃げ切れずにパーティメンバーが一人死亡しました。死亡メンバー含め、全員レベル80を超えていたにも関わらずです。配信のような袋小路に追い詰められた状態では、私達ですら全滅を免れないでしょう。Dランクパーティならば尚更です」
「ふぅむ・・・。せめて、『動画編集者』のムビだけでも生きてる可能性はないかのう?」
「むしろ、真っ先に死亡したでしょうね。運よく袋小路から脱出できたとしても、スピードや耐久力の関係で、パラメータの低い者から順にやられます。そもそも、自分からデスストーカーに向かって行ってましたからね」
「・・・そうだよなぁー・・・」
はぁ、とミラが大きく溜息をつく。
ミラの様子を見て、周りの冒険者達がヒソヒソと会話する。
「おい、大丈夫なのかミラの奴・・・全然覇気が無いぜ?」
「あぁ・・・もしもヤバくなったら、逃げ出した方がいいかもな・・・」
『幽影鉱道』に足を踏み入れた冒険者達は、初めの分岐地点に辿り着いた。
『真紅の刃』のリーダーが、全体に作戦指示を伝える。
「ここで探索組と居残り組の半々に分けるぞ。私達『真紅の刃』とミラは探索組。『雷鳴の牙』と『黒鉄の蠍』中心の居残り組はここに残って、デスストーカーがダンジョンの外に出ないか見張っていてほしい。探索組も居残り組も、デスストーカーと戦闘になったら通信魔法を使え。通信を受けた方はすぐに援軍に駆けつけて、全員でデスストーカーを討伐する。作戦は以上だ。何か質問はあるか?」
そのとき、鉱道の奥から足音が聞こえた。
「・・・デスストーカーか・・・!!?」
冒険者達に緊張が走る。
鉱道の奥から現れたのは、『白銀の獅子』だった。
「『白銀の獅子』!良かった、生きていたんだな!!」
冒険者達から歓声が上がる。
ゼルは冒険者達に話しかける。
「すまない!デスストーカーと戦おうと鉱道内を探索したんだが、結局遭遇できなかった!」
ゼルが悔しそうな表情をする。
冒険者達からどよめきが起こる。
「あのデスストーカーに1パーティで挑もうとしたのか・・・」
「とんでもねぇ度胸だぜ・・・」
「あぁ、流石『白銀の獅子』・・・本物ということだな」
『真紅の刃』のリーダーがゼルに近付き話しかける。
「ご苦労だったな。私達は今から半々に分かれ、探索組と居残り組に別れるが、君達はどうする?」
「ぜひとも探索組に加えてくれ。必ずデスストーカーを討伐してみせる!」
「そうか・・・!助かるよ、かたじけない」
ゼルの言葉を聞いて、冒険者達は震えた。
全体の士気が上がるのを感じ、『真紅の刃』のリーダーが、再び大声を出す。
「よし、『白銀の獅子』も加われば百人力だ!必ず討伐を成功させるぞ!」
おおー!という歓声が鉱道内に響き渡る。
ゼルは、『真紅の刃』のリーダーに話しかけた。
「ところで、今『四星の絆』はどうなっている?何か情報はあるか?」
「あぁ・・・。気を落とさないで聞いてくれ。実は、デスストーカーに袋小路に追い詰められて、そこで配信が途切れたんだ・・・」
それを聞いて、ゼルはほくそ笑んだが、難しい顔をして俯いた『真紅の刃』のリーダーには見えなかった。




