第347話 決勝戦3
今朝のサヨさんとの会話。
病室で、魔法を授かった。
「こ、この魔法は……!?」
体の奥にこびりついていたリリスとのギアスが、音もなく剥がれ落ちていく。
「いいですかムビさん? この魔法は、"契約解除"。ギアスを強制的に解除します」
俺は驚き、両手を何度か握る。
胸の奥にあった違和感が、霧のように消えていった。
「こ、こんな魔法があるなんて……サヨさん、一体どこでこんな魔法を?」
「ふふ。元々、ギアスの魔法の起源は私にありますから……」
魔法の起源。
つまり、ギアスの生みの親ということだ。
「サヨさん、あなたは一体……」
「まぁ、それは追々。それよりも今は、この魔法をムビさんに授けた理由を。リゼとマリーは、ギアスで操られています」
「えっ!? ギアスで!?」
予想もしなかった言葉に、思わず声が裏返った。
「おそらくゼルに騙されたか、無理矢理契約させられたのでしょうね」
「か、考え過ぎではないですか……?」
「いいえ。奴隷契約の証が、首にしっかりありました」
そういえば、以前サヨさんが言っていた。
ギアスは2種類あり、奴隷契約の場合は首に痣が浮かぶと。
「リゼとマリーをギアスから解放してください。決勝の勝ち筋は、それしかありません」
俺は腕を組んで唸る。
「……でも、仮に契約を解除したからって、どうなるんですか? 4対1には変わりないし……」
「大丈夫です。あの2人のゼルへの恨みは相当深い。ギアスを解除すれば、こちらにつく可能性が高いです。特にリゼは、必ずムビさんに味方するはずです」
「そ、そうでしょうか……」
とても信じられないけど。
サヨさんが言うなら、本当にそうかもしれない。
◆ ◆ ◆
試合開始前。
俺はリゼとマリーの首元を確認した。
……サヨさんの言う通りだ。
本当に首に痣がある……。
奴隷ギアスの支配下にあるというのは、本当のようだ。
思えば、最近のリゼはやけに口数が少なく、元気がない気がした。
ギアスの命令により、発言や人との接触を禁じられているのかもしれない。
次に俺は、リゼの反応に注目する。
同じくギアスに支配された経験上、発言や接触を禁じられていても、何かしらのリアクションが出るかもしれない。
あえて酷い言葉を投げかけた。
すると、傷ついたように目を見開く。
……うん。少なくとも、俺に敵意はあまりないみたい。
ゼルやゴリの反応と比べれば分かりやすい。
敵に対する怒り、反感のような意志がまるで感じられない。
あの強気なリゼだ。
俺に敵意があれば、まず間違いなく煽り返してくるはずだ。
……まぁ、ちょっと言い過ぎたけど、『白銀の獅子』時代はこの100倍は酷いこと言われたし、これくらい良いよね。
それに、嘘偽りない当時の本心でもあるし。
次に、マリーの反応を見る。
リゼほど分かりやすくはなかったが、似たような反応だった。
……決まりだ。
2人は、ゼルにかなりの行動を制限されている。
なら、強い反感を抱いていてもおかしくない。
……ただ、最大の懸念点がある。
この決勝の舞台で、わざわざ『白銀の獅子』を裏切る可能性がどれだけあるだろうか?
勝てばS級冒険者なのだ。
莫大な富と栄誉を捨ててまで、果たして俺についてくれるだろうか?
◆ ◆ ◆
そんな俺の心配はどこへやら、リゼは壮大に離反してくれた。
俺は思わず拳に力が入る。
……よし!
"契約解除"の魔法が効いてくれた!
リゼは振り返り、壁にもたれて座り込む俺を見た。
「だいぶ魔力を消耗してるわね」
杖を掲げると、俺の体が光に包まれ、MPが一気に満ちていく。
やった!
リゼが完全に俺に味方してくれてる!
俺は分けてもらったMPをフル活用し、回復魔法でHPを全快させた。
立ち上がると、リゼがゆっくりと俺に歩み寄る。
「リゼ、ありが———」
ガッ!
リゼは俺の胸倉をつかんだ。
「ちょっと! 私が顔だけの女ってどういうこと!?」
顔を引き寄せられ睨みつけられる。
あまりの勢いに首を痛めた。
「ちょっ、リゼ……! い、今それ言う!?」
「うっさい! めっちゃ傷ついたんですけど!? 今すぐ訂正しなさいよね!」
首をガクガク揺らされる。
力が強すぎて全然抵抗できない。
「わ、わわわかったから! 嘘! あれは嘘だから!」
リゼは鼻を鳴らして手を離す。
俺は息も絶え絶えだった。
「……まぁ、それはそれとして。ありがとう、ギアスを解いてくれて。あんた、やっぱすごいわ」
ゼルは目を見開いて固まっていた。
ギアスで禁じた行為の数々を、リゼが実行しているのだろう。
「まさか……まさかまさかまさか! そんなバカな! リゼ……お前、ギアスが解けたのか!?」
「当たり前でしょう? 見て分からないの? あんたのクソみたいな命令なんて、二度と聞くもんですか」
ゼルは先ほどまでの余裕はどこへやら、滝汗をかいている。
俺はリゼに尋ねた。
「……ねぇ、リゼ。一緒に戦ってくれるの?」
リゼは呆れ顔をした。
「はぁ? あんたバカじゃないの? 一緒に戦うに決まってるでしょ? さっさとゼルをぶっ飛ばすわよ」
ゼルは大慌てで叫んだ。
「ま……まて! まてまてまて! リゼ、考え直せ! 忘れたのか、俺たちは仲間だろう!?」
ドカァン!
リゼの放った魔法がゼルの頬をかすめ、背後で爆発した。
ゼルの顔が引き攣る。
「……"仲間"ですって? あんなことしておいて、よくもぬけぬけと言えたものね!? ふざけんじゃないわよ!? 今日限りで、『白銀の獅子』は脱退させてもらうわ!」
リゼは『白銀の獅子』の腕章を引きちぎって地面に叩きつけた。
ゼルは「あ……」と小さく呻いた。
「覚悟しなさい!? あんたの悪事、あたしがぜーんぶ証言してやるんだから♪ あんたのだーい好きな『Mtube』も冒険者活動もファンクラブも、ぜーんぶぜーんぶ水の泡! あんたはもう終わりよww」
ゼルは大きく口を開けて絶句しながら、わなわな震える。
「こ……このクソビッチが! 下手に出てやったら、調子に乗りやがって!……マリー、来い!」
ゼルはマリーを呼び戻し、戦線を立て直す。
俺は剣を構え、リゼの横に並び立つ。
「リゼ。一応聞くけど……いいの? この試合に勝てば、S級冒険者になれるのに」
「そりゃ惜しいわよ。でもそれ以上に、あいつの喜ぶ顔だけはぜっっったいに見たくないの」
「……なるほど。そりゃ、同意見だ」
「それに、助けてくれた礼よ。S級冒険者は、あんたにくれてやるわ」
どうやら利害は完全に一致しているようだ。
これなら、リゼを100%信頼できる。
「そういえば、あんたとの共闘なんて久しぶりね。腕は鈍ってないでしょうね?」
「……いやいや、レベル差があり過ぎて、腕とかの話じゃ……」
「何言ってんのよ? あんたならそれくらいなんとかするでしょ? ちゃんと合わせなさいよね」
そう言って肩をくっつけるリゼ。
信頼されてるんだか、されてないんだか……。
「さぁ……『白銀の獅子』なんてクソパーティ、私とあんたでぶっ潰すわよ!」




