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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第306話 準決勝・中堅戦8

 目を覚ますたび、世界は静止していた。

 そして、私の意識はすぐに途切れる。


 何度繰り返されたのか、もう数えることすらできない。

 ただ、終わりのない落下のような感覚だけが、私の中に残っていた。


「ふふ。やはり取り返しのつく殺しは最高ですね」


 何度目の死の後だっただろうか。

 サヨの軽やかな声が、耳の奥に落ちてくる。


 私は、魂のない抜け殻のような状態で、ただそこに座っていた。


 目覚めては殺され、目覚めては殺され———。


 少しでも痛くないように。

 少しでも早く終わるように。


 それだけに、全神経を注いでいた。


「知っていますか? 命を奪う行為には、強い快楽が伴うんですよ。食のための殺しは空腹を満たし、性行為には数億の配偶子の死が伴う。戦場での殺しは全能感に繋がり、兵を操る指揮官の得る快楽はその比ではありません。争いが絶えない理由はこれです」


 サヨは私の周囲をゆっくりと歩きながら、淡々と語る。

 その声は、講義のように落ち着いていた。


「だから、力を持つ者は快楽に溺れてはなりません。幸福と快楽の違いを見極め、他者の幸福を己の幸福とする。それが上に立つ者の心構えです」


 サヨの視線が、私の上に落ちる。

 冷たく、しかしどこか憂いのようなものを含んでいた。


「しかし、世の中お前のような愚か者ばかり。たまたま力を持ち、たまたま地位を得て、たまたま成功しただけの子どもが、何の罪悪感も抱かず延々と殺戮を繰り返す。その醜悪さたるや、今のお前の姿の比ではありません」


 全身吐瀉物と肉片にまみれた私は、返す言葉を持たなかった。


「そんな愚か者を正すにはどうすれば良いのか? 殺される側の苦しみを経験させるしかありません。少し考えれば分かるはずのことが、いつまでたっても分からないのですから。……どうです? そろそろ、理解が及んできたのではありませんか?」

「は、はい……私が悪かったです……」


 本当はサヨの話などほとんど頭に入ってない。

 そんなことに頭を回す余裕はない。


 ただ、サヨの機嫌を損ねたくない。それだけ。


 そんな私を見透かしたかのように、サヨが笑う。


「ふふ。それでいいです。こういうのは理屈ではありませんからね。表面的な理解など、1ミリも役に立ちません。魂に刻まれ、反射的に行動できなければ意味がないのです」


 私の正面でピタリと立ち止まり、煌々と輝く魔眼が私を覗く。


「おめでとう。研修生74人分、全て消化し終えました。よく頑張りましたね」


 その言葉に、私の心が一瞬だけ浮上する。


「じゃ、じゃあ……!」

「残るは、私の分ですね」


 ビクリと体が震える。


「ま、まだあるの……!?」

「ふふ。これが最後です」


 サヨが人差し指を立てる。


「まずは1つ目。研修生時代、毎日のように時間を止めて私を見ていた分」


 私は思わず目を見開いた。


「き、気づいていたの……?」

「当たり前です。至近距離からジロジロと。ストーカーですかあなたは。正直、気持ち悪かったですよ?」


 顔が熱くなる。

 あの秘密が、全部バレていたなんて。


「そして2つ目。最後に私を呼び出した日。なんですかあれは?『私がサヨを支えてあげるから、一緒に暮らそう』って。私を追い詰めたのはお前でしょう? どういう拗らせ方をしているんですか、お前は?」


 顔がみるみるうちに赤くなる。


「こんなやり方をしなければ、他人と距離を詰められないんですか? で、私がお前の裏工作を指摘したら逆ギレって。お前は支配者なんて大層なものではなく、ただのコミュ障のぼっちだと自覚なさい」


 痛みとは別の意味で泣きそうになった。

 恥ずかしすぎて殺して欲しい。


「最後に3つ目。お前、私を見るときだけ、目が気持ち悪いです。その目をなんとかなさい」


 目……?


 私は視線を落とし、血だまりに映る自分の顔を見る。

 瞳の奥の自我が解け崩れていた。

 まるで私が今まで見下してきた凡人共のように。


「はは……」


 自分が滑稽過ぎて、笑えてきた。


 そうか。

 私、サヨに共感していたんじゃなくて……サヨに支配されていたんだ……。


「以上が私の分。覚悟はいいですか?」


 サヨがデコピンの構えを取る。

 私は思わず目をつぶった。


 また殺される……!




 ぺちっ。




 普通のデコピン。

 おでこが少し、ヒリヒリする。


「……え?」


 私は思わず目を見開いた。

 目の前には、くすりと笑うサヨ。


 何年ぶりだろうか。

 サヨが私に、優しい笑みを向けてくれるのは。


「まったく。友達になりたいなら、素直にそう言いなさい。支配者なんて生き方はつまらないですよ? あなたは、人を支配するのではなく、人と友達になりなさい」


 差し伸べられる白い手。

 その温もりに、胸の奥がほどけていく。


「うぅ……ごめんなさい……」


 私はずっと、人に弱みを見せてはいけないと思っていた。

 本心を晒してはいけないと思っていた。

 それが、公爵家の教えだった。


 でも今、初めて知った。

 恥も何もかも、すべてをさらけ出した上で受け止めてもらえることが、こんなにも嬉しいなんて。


 私は勇気を振り絞って、唇を震わせた。


「私と……友達になってくれる……?」


 サヨはふわりと微笑んだ。


「しょうがないですね。いいでしょう。時間が流れ始めたら、私とあなたは友達です」


 涙が溢れた。

 生まれて初めてできた友達が、ずっと憧れていたサヨだなんて。


「ありがとうサヨ……。ごめんね……本当に、色々ごめんね……」

「いえいえ、良いんです。本当に、大して怒っていたわけではありませんから。私の前世の行いに比べれば、可愛いものです」


 前世で一体何をしたのだろう。

 かなり気になったが、触れない方が良い気がした。


「それにしても、時間の完全停止は滅多に使わないようですね。正解です。下手をすると、()()()()()()()()()()()()()


 背筋がゾッとした。


「え……それってどういう……」

「まぁ、これまで通り頻繁に使わなければ問題ありません。さて、それじゃあ……」


 サヨは立ち上がる。


「そろそろ、お前に罰を与えるとしましょうか」


 ニッコリと微笑む。


 ……。


 え?

 罰って……なに?


「……えっと、サヨ……罰は、今受けたんじゃ……?」

「ああ。今までのは躾。罰は、これからですよ」


 血の気が引いた。


「だってそうじゃないですか? 両親や友人たちは、皆大切なものを失いました。お前は死んだとはいえ、全て復活する保証付き。お前が、何を失ったというのですか?『失え』とまでは言いませんが、それなりのリスクは負っていただかないと割に合いません」


 私は血だまりに座り込んだまま後ずさる。

 頬を伝う涙に、先ほどのような温もりはなかった。


「いや……」


 絞り出した声は、停止した世界に消えた。

 サヨの指先に魔力が集まる。


「お前はこれから、夢に落ちます。ほんの些細な悪夢です。それから目覚めることで、許しとしましょう。常人なら発狂して、最悪死にますが……お前ぐらい神経が図太ければ、まぁ大丈夫でしょう」


 大丈夫なものか。

 この化物が見せる悪夢など、ろくでもないに決まっている。


「サヨ……私たち、友達だよね……?」


 サヨが満面の笑みを浮かべる。


「言ったでしょう?『時間が流れ始めたら』と。まだ、時間は流れていませんよ?」


 私に向けられた人差し指。それが、私の最後の記憶。

 世界が暗転し、私は深い眠りへと落ちていった。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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