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第100話 シノの家

「――で?初キスはいつ?」


『箒星』の個室で、ムビはシノ、ルリ、サヨに詰められていた。

 少し距離を置いて、ユリがダラダラと汗をかいている。


「いやぁ・・・ごめんなさい、やっぱりあれが初だったかも・・・」

「ムビさん嘘が下手ですよ」

「言うまで帰さないからね?」


 ルリがニヤニヤしながら、余裕たっぷりにストローをかき回す。

 ムビはその場しのぎの嘘を次々言うが、どういうわけか一発でバレてしまう。

 嘘探知魔法でも使っているのだろうか。


「元カノですか?」

「や・・・彼女なんて僕にいるわけ・・・」

「えー!じゃあ大人の関係?」

「ムビさんやらしいですわ」


 そのクセ失言はどんどん拾われていく。


(こうなったら、黙り込んでやり過ごすしか・・・)


「そういえばユリ。なんか今日テンション低いね?」


 ルリの指摘に、ユリはビクッと体を震わせた。


「こういう話題には滅茶苦茶食いつくはずなのに」


 ルリがストローを吸いながらユリを見つめる。

 ユリは焦って苦笑いを浮かべる。


「あれ〜?そ、そうかな〜?」


 ズズッと音を立て、ルリがジュースを飲み干す。


「ユリ・・・もしかして、ムビ君とキスしたの?」


 ユリは汗をかきながら口笛を吹く。

 ムビから見ても、あり得ないくらいに嘘が下手だ。


「サヨ、判定をお願い」


 サヨがじぃ〜っと、ユリの目を見つめる。


「クロですわね」


 サヨの判定が下った瞬間、ユリが根をあげた。


「あはは〜、ごめ〜ん・・・」


 瞬間、3人がユリに詰め寄る。

 ピラニアが餌に群がるように、ユリは根掘り葉掘り問い質された。




「全く、油断も隙もありゃしない」


 ユリは照れながら頭をかいている。

 ムビはテーブルに頭を付けて土下座した。


「ご・・・ごめんなさい!」


 3人が驚いた顔をする。


「も・・・もう、こういったことが無いように致します!だから、クビだけはどうか・・・!」


 ムビの平謝りを見て、3人が笑い出した。

 ムビはキョトンとする。


「何言ってんの?こんなんでクビにする訳ないじゃん。私達別に怒ってないよ?」


 ルリの穏やかな口調にムビは驚いた。

 サヨがそれに続く。


「私達、ムビさんに魂の消滅から教われたんですよ?来世でも、そのまた来世でも、返しきれない恩があります。例え殺されたって、ムビさんに文句は言えませんわ」

「いや、流石に殺されたら文句言うわ!」


 3人がケラケラと笑った。


「そ・・・それじゃあ、許していただけるんですか?」

「うん。許すというか、そもそも怒ってない。ただ、世間にバレたらスキャンダルだから、そこは気を付けたまえ」

「は・・・ははーっ」


 謎の威厳を醸し出すルリに、ムビは再び頭を垂れた。


「で、二人は付き合ってるの?」


 ルリの質問に、一瞬空気が緊張したが、ムビは気付かず頭を垂れ続ける。


「いえ、そんな滅相もない!僕なんかがユリさんと付き合うなんてとてもとても・・・!」

「ふーん、そうなんだ」


 頭を垂れていたムビには、皆の表情が見えなかった。





 ご飯を食べ終えた『四星の絆』は、『Mtube』の個人チャンネルの撮影のためそれぞれの家に帰ることになった。


「じゃ、また明日ねー♪」


 ムビは帰路についた。

 すると、後ろから声を掛けられた。


「あの、ムビさん」


 ムビが振り向くと、シノが立っていた。


「シノさん、どうしました?」

「ちょっとご相談がありまして」


 シノが真っすぐな、凛とした瞳でムビを見つめる。


「私、今日はモーニングルーティーンの動画を撮影しようと思うのですが、ちょっと勝手が分からなくて。良かったら撮影の仕方など、うちでアドバイスいただけないでしょうか?」


 ムビは一瞬ドキッとした。

 女子の家に行くのは初めてだ。


(おいおい、さっき反省したばかりじゃないか。『Mtube』の撮影のためなんだから。あくまでプロデューサーの仕事・・・)


「分かりました。大丈夫です」


 ムビは快諾した。




「散らかってて申し訳ありません」


 ムビはシノの家に上がった。

 白を基調とした清潔感のある部屋で、アロマや可愛い小物が置いてあり、とても女の子らしい部屋だった。


「お茶、お出ししますね」


 ムビが居間に座っていると、シノがハーブティーを持ってきた。


「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ」


 ムビは平静を装ってハーブティーを飲んだが、内心緊張していた。

 アロマのせいなのか、女子の家ってこんなにいい匂いがするのか。


「あっ、このお茶美味しいですね」

「良かったです。最近、このお茶ハマってるんですよね」


 お茶を一口飲んで、ふぅと一息つくシノの姿は、まごうことなき美少女だった。


 ムビはなんだか落ち着かなくて部屋を見渡す。

 本棚には魔導書や文学書が並べてあり、とても知的な感じがする。


「本、読まれるんですね」

「そうですね。昔から読書が好きで」


 シノのどこか古風で凛とした雰囲気は、こういうところから来てるのかもしれないな、とムビは思った。


「あっ、あの本、僕も読んだことあります」

「そうなんですか?あの本、面白かったですよね。ムビさんも本読まれるんですか?」

「あ、はい。暇なときは、大体魔導書を読んでますね」

「凄いですね。私も興味があって何冊か読んだのですが、なかなか難しくて」


 ムビとシノは、そのまま30分くらい雑談した。

 お勧めの本を紹介し合ったり、感想を言い合ったり、意外と盛り上がった。


 思えば、好きな本の話なんて誰ともしたこと無かったな。

 なんか知的な感じで良いかも・・・。


 ムビはふと、本棚の魔導書が目に入った。


「あっ、あの魔導書、僕まだ読んだことないんですよね」

「そうなんですか?なかなか難しくて、私まだ読み終わってないんですよね」

「確かに、ちょっと難しそうですよね。読んでみてもいいですか?」

「はい。どうぞ」


 ムビは本棚から本を取ろうとした。

 引き抜くとき、一緒に周りの本がドサドサと落ちた。


「あっ、すみません!・・・ん?」


 落ちた本の向こうに、本がたくさん並べてある。

 全部、BL本だった。


「うわーーーーーーっ!」


 反射的に叫んだムビの目に飛び込んできたのは、ぎっしり並んだ――BL本。


(見てはいけないものを見た気がする・・・!)


 シノは顔を真っ赤にし、パニックになりながら本を直している。


「あ・・・あの、ごめんなさい・・・」

「い・・・いえ・・・!女子って、BL好きですし・・・普通だと思いますよ?」


 精一杯のフォローだったが、シノの涙目は止まらない。


「あっ!いやいや!・・・ほら、僕もBL読んだことありますけど、結構面白いですよね!」


 あまりの動揺に、声が裏返りそうになる。


「ムビさんって、BL読んだことあるんですか?」

「あ・・・ありますよ!もちろんですとも!」


 確か、どこかの物置にたまたま置いてあった一冊を呼んだことがある。

 青年とおじさんの話だったが、ムビには良さがさっぱり分からなかった。


「ひょっとして、そういうのに興味があるとか・・・?」

「いや、全然興味は無いんですけどね!たまたま一冊読んだことあるだけで・・・ははは・・・」


 シノは子猫のように目を細め、そっと尋ねる。


「あの・・・もし良かったら、読んでみませんか?」

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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