第99話 推される覚悟はあるか?
ゼルがレベル100であることが公表され、一週間が経った。
大手マスメディアは大々的に取り上げ、朝夕問わず連日報道された。
これによりゼル派が一気に息を吹き返し、世間では多くの人が『デスストーカーを討伐したのはゼル』と考えるようになった。
ただ、一部根強くムビを支持する声もあり、SNSでは議論が白熱していた。
当初は、『どちらが嘘をついているのか?』に高い関心が寄せられていたが、二人とも臨界者であることが判明した今、両者をリスペクトする機運が高まっていた。
世間は、元々同じパーティだった二人が袂を分かち、臨界者として競い合う、二人のストーリー性に注目し始めた。
中にはライバルと持てはやし、『本当は二人で共闘したのではないか?』『両者致命傷を負わせ、それぞれが共に討伐したと思っているのではないか?』という説まで出てきた。
とにもかくにも、『どちらがデスストーカーを討伐したのか?』は曖昧になり、世間は新しい刺激を求め、二人のライバル関係に関する話題を欲していた。
「よし、今日のレッスンは終わりっ!」
「ふぁーっ、疲れたぁー!」
「皆さん、お疲れ様でした」
ダンスレッスンを終えた『四星の絆』に、ムビはドリンクを渡した。
『四星の絆』は床に座り込んで休憩した。
「帰ったら個人チャンネルの撮影しなきゃね」
「う〜、ほんと時間ないなぁ〜」
その時、スマホを触っていたユリが声をあげた。
「あれっ!?なにこれ!?」
ユリの反応を見て、『四星の絆』が集まってくる。
「何々?どうしたの?」
シノ、ルリ、サヨの三人もユリのスマホの画面を
すると、目を丸くした。
「こっ……これは……!?」
4人の首がくるりとムビの方を向き、ニヤニヤ笑った。
「……?どうしたんですか?」
「ムビ君のファンクラブ見つけた!」
「えっ……俺の!?」
ムビは意味が分からなかった。
ユリがスマホの画面を見せてくる。
(本当だ……ファンクラブって書いてある……)
「『両面宿儺』の新たな策略ですかね……?」
「何言ってんのムビ君!純粋なファンだって!」
ファン……?
意味が分からない。
俺のどこにファンが付く要素があるんだ……?
「おーっ!ファンクラブ、女性会員9割なんだって♪やったねムビ君!女性ファンは沼ると一生推してくれるぞ〜?」
ユリがニヤニヤ笑っている。
ムビは何だか恥ずかしくなってきた。
「また何で俺なんかに……」
「えっとね〜?顔がタイプって書いてあるよ!」
「……いや、ないない」
ムビはあり得なさすぎる理由に首を振った。
「ムビ君ってエゴサしないの?」
「エゴサですか?全然したことないですね」
「界隈じゃ、ゼルとどっちがイケメンかで盛り上がってるよ〜」
(……界隈?)
「そんなの、ゼルの圧勝でしょ?」
「いやいや、それが互角なんだって!男性はゼル派、女性はムビ派が多いみたいだよ」
「フェイクですよ絶対」
「……ムビさん、前から思っていましたが、お顔には自信持って良いと思いますわよ?」
サヨの一言に、ムビは顔が赤くなる。
「え……えええええっ!?」
「そうだよ〜ゼルは明らかに外見に投資しまくってるじゃん?ナチュラルで対抗できてる時点で、ポテンシャルはムビ君が上だって♪」
ルリがニヤニヤしながらムビをつつく。
「ちなみにゼルムビなる同人活動も最近活発みたいだよ♪」
「え……それって」
「うん、オクサレだね!」
オクサレ。
要は、BLだ。
「よくそんなマニアックなもの見つけましたね……」
「ふっふっふ。何を隠そう、我ら『四星の絆』も皆オクサレだからね!」
「えっ……!?そうなんですか!?」
「そうだよ〜♪特に、シノの腐れ方は半端なくて……」
「言うな〜〜〜っ!!」
シノが慌ててユリの口を塞いだ。
休憩を終えたムビと『四星の絆』は、一旦晩御飯を食べようとルナプロの外に出た。
(……ん?なんだあれ?)
会社の入り口から少し離れたところに、女性の人だかりが出来ている。
『四星の絆』が出ていくと、向こうがこちらに気付いた。
「きゃーーーーーーっ!!」
突如、黄色い歓声が上がり、女性たちが全員『四星の絆』の方に走ってきた。
(な……なんだ……?『四星の絆』のファンか?……しょうがない、プロデューサーとして皆を守らないと)
ムビは『四星の絆』の前に一歩踏み出す。
「あの、すみません―――」
「ムビさんだーーーーーーっ!!」
(えっ……?)
一歩前に踏み出して孤立していたムビは、あっという間に四方を囲まれた。
「いやああぁぁぁーーーっ!!カッコいいーーーっ♡♡」
「ムビさーーーーーーんっ!♡」
ムビは訳もわからず揉みくちゃにされた。
(なっ……なななななんだ!?)
よく見たら、服やうちわに『ムビLOVE』と書かれている。
しかも、全員可愛い。
(ひょっとして……ファンの人……!?)
「こっち見てぇーーー♡♡」
(……いやいやいや、『両面儺』の罠かもしれない!嘘探知魔法を……)
「ムビさん好きーーー!!」
「ムビさん抱いてーーー♡♡」
(……ダメだ!全部本当だ!)
「きゃーーー!!触っちゃったーーー♡♡」
体中を触られたり、体を押し付けられたり……両腕はガッチリと拘束され、胸を押し当てられる。
女性に不慣れなムビは頭が真っ白になった。
「あの……皆さん落ち着いて……」
そのとき、ファンの一人がムビの首に腕を回し―――ムビの唇を奪った。
( !?)
「こらぁぁぁ!やり過ぎーーー!」
『四星の絆』が割って入り、ムビを救出する。
そのまま全員逃走する。
「ムビさーーーん」
「ムビさん待ってーーー♪」
ファンが後ろから追いかけてくるが、そこはレベル40を超える『四星の絆』。
あっという間に振り切った。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫……」
「ムビさん、大変でしたね……」
ムビはヘニャヘニャになっていた。
「あのさ、ムビ君……あれってもしかして初キスだった?」
ルリがひょいと覗き込む。
「え……えっと……」
ムビはチラッとユリを見た。
「いえ、初では……ないですね……」
「えーっ!そうなんだぁーっ!ちょっと以外かも!」
「ムビさん、女性とそういうのは無さそうですもんね」
ルリとシノが驚いた。
「……では、その件については、ご飯を食べながらゆっくり聞きましょうか?」
サヨがニッコリと笑う。
「お一、賛成ー!ムビ君の浮いた話聞いてみたいかも!」
「いや……内緒で……」
「ほらほら行くよー?」
ムビは引きずられながら連れて行かれた。




