第13話 初討伐、初報酬
鬱蒼とした林は少し薄暗く、気温が街よりも低い。
地面には枝や葉が散らばっていて、踏みしめるとぱきんと音が鳴った。
「イビルバットってのは、どうなんだ? 強いのか?」
「いや、魔物の中でも弱い方っすね。初心者が練習のためによく狩るんすよ。とりあえずウチらパーティの試運転ってことで、とりあえず経験積みましょ」
「なるほどな」
ルチアナなりに考えてくれたようだ。冒険者初心者のジョバンニにとってはありがたい話である。
少し歩くと、目の前でばさりばさりという羽根の音が聞こえる。
「しっ。いたっすよ」
ルチアナが指さす方向を見ると、木に大きなコウモリが止まっている。赤い瞳でじっとこちらを見ていた。
「あれですね」
「そうっす。あいつがイビルバットっす。あれはウチも何回か討伐したことがあるっすから、とりあえずお手本を見せてあげますっすかねぇ」
ルチアナがその場にしゃがみ、弓を構えた。静かに息を吸い、イビルバットに狙いを合わせる。ジョバンニとアンジェラは数歩離れ、様子を見守る。
ひょう――と矢が放たれた。空気を切り裂くように真っ直ぐに矢が飛んでいき、イビルバットの頭に命中する。その一撃でイビルバットは地面に落ち、動かなくなった。
「良し! 大当たりっす! へへへ、やるでしょ」
「凄いもんだな。一発で仕留めるとは」
「弓がお上手ですよね、ルチアナさん」
「まあ、こんくらいしか取り柄ないっすからね。でもうまくいってよかったっすねぇ」
3人でしばし喜び合う。
だが、そんな喜びもつかの間、向かって右からさらにもう一体のイビルバットが飛び出してきた。お手本のような奇襲だ。
「キィィィィ――!!」
「どわぁぁ!! ももももう一体いたぁぁぁ!!」
怒りを振りまきながら、イビルバットがジグザグにジョバンニ達へ向かってくる。思ったよりも速い。ルチアナは驚きのあまり草で滑って転んでしまう。アンジェラは咄嗟にルチアナをかばうように立ちふさがる。
「ヤバいっす! 救援求む!!」
「しょうがない、俺がやる! テンペスト・グリムエッジ!!」
頭の中で真空をイメージし、それを魔力に乗せる。空中に空気の刃が出現し、イビルバットを切り裂いた。
「これで良しだ。ヒヤヒヤしたぞ全く」
「すんませんっす。いやあ申し訳ない。ああいうビックリ系には昔から弱くて……」
「何はともあれ、何とか倒せてよかったですね」
イビルバットは見事に絶命していた。ルチアナは傍らにしゃがみこみ、懐から取り出したナイフで皮を切り取っていく。
「この魔物の皮は胸の部分だけ獲れればいいっす。頑丈なのはそこくらいっすからね」
「さすが慣れてるな」
「えっへっへ。まあこれぐらいはね」
「これで依頼は完了でしょうか?」
「いや、この辺にはもうちょいイビルバットが生息してるはずっす。あともう少し討伐しときましょ」
「了解した。ならもう少し歩くか」
林はまだ続いている。3人は土を踏みしめ、さらに討伐を稼ぐために歩みを進めた。
◆◆◆
5分ほど歩くと開けた場所に出た。一見穏やかそうな場所だが、辺りに目を配ると、こちらを狙う殺気を感じる。
離れた木陰で、イビルバットがこちらを見つめているのだ。
「いますね」
「ああ。複数の敵が相手の時はどう戦うのがいいんだ?」
「状況にもよるっすけど、腕っぷしが強いのが前に出て、魔導士とかは少し下がるのがセオリーっすね」
「ならば、私が前に出ましょう」
アンジェラが一歩踏み出すと、前方から2体、右から1体、左から1体、イビルバットが勢いよく飛び出てきた。
「来たっすよ!」
「私が全部引き受けます!」
「いや無理すんな! アンジェラは前のを頼む! ルチアナ、そっちの片方を任せてもいいか!?」
「了解っす!」
ジョバンニは先ほどと同様に「テンペスト・グリムエッジ」を詠唱する。右から飛来したイビルバットはすっぱりと両断され、地に落ちた。
振り向くと、他のイビルバットもすでに倒されていた。アンジェラとルチアナはきっちりと戦いを果たしてくれたらしい。
「うまくいったみたいだな」
「はい。すみません、そちらをお任せしてしまって」
「いいんだよ。こういうのはうまく分担すべきだ」
倒したイビルバットの皮を裂き、折りたたんで道具袋に入れる。ジョバンニは少し手間取ったが、やっていくうちに少しずつ慣れていった。
それからさらに林を歩き、同じようにしてイビルバットを狩っていった。戦ううちに3人の呼吸は整い、スムーズに戦うことができるようになっていった。
気づくと、やや日は傾き、空には夕方が混じり始めていた。
「こんなもんでいいんじゃないっすかね。あとは、こいつをギルドに納品すれば依頼終了っすよ」
「分かった。じゃ、帰るとするか」
「はい。皆さんお疲れさまでした」
初めての仕事はそんな風にして緩やかに終わったのだった。
◆◆◆
「イビルバットの皮、確かに確認しました。状態もいいですねー、お疲れさまでしたー」
ギルドの受付嬢はにこやかに言った。
「イビルバットの皮は軽くて扱いやすいので、服なんかに使われたりするんですよねー。服職人が喜ぶと思いますよー。ではこちら報酬です」
受付嬢が皮袋を差し出してくる。中を改めると2万トラン入っていた。
「ありがとう。また来るよ」
「はいー。こちらこそありがとうございましたー」
お礼を言われて、ジョバンニは少し嬉しくなった。もちろん受付としてのお決まりの言葉だろうが、仕事をして好意を向けられるのは素直に嬉しい。
ギルドに設置されたテーブルに座って、改めて3人で報酬を確認した。
「へっへへ~。お金をもらうってのは、やっぱ嬉しいもんすねぇ」
「はい。頑張った甲斐がありましたね」
「それじゃこいつを3人で分けるわけなんだけど……少し提案していいかな」
お金を数えながらジョバンニは言う。
「提案? 何でしょう?」
「うん。こういう仕事の報酬なんだけどさ、何割かは「家」のために貯金したいんだ。割れてる窓だってある。住みやすい場所を作るとなるとお金もかかるだろ」
「ああ……住居のためにお金を積み立てておくってわけっすか」
「私は構いません。私たちの家のために貯金していくのはいいことだと思います」
「ま、しょうがねえっすかね。あの家、雨漏りとかしてるっすもんね。このままだと何が起こるか分からんし。いいっすよ。ウチも賛成」
「ありがとうな。そう言ってもらえると助かる」
話し合いの結果、報酬の3割を「家貯金」として蓄えておくことに決まった。
家のためにお金を貯める。少し前のジョバンニなら考えもしなかっただろう。
だが悪い気はしなかった。自分たちで働いて居場所を守る。一人では難しいが、三人なら何だかやれそうだった。
家貯金の分を除き、残ったお金をルチアナとアンジェラに渡すと、二人はほっこりと笑顔になった。
人生は決してお金が全てではない――とジョバンニは思うが、やはり、頑張った結果がお金として帰ってくるのは、心の底から嬉しいものだ。
「やったー金だ金だー! ありがとー! サンキュージョバンニ!」
「ありがとうございます、ジョバンニさん」
ルチアナはだらしない笑顔になってはしゃいでいる。アンジェラは控えめに頬をほころばせた。その顔を見ると、パーティを組んだ甲斐があると思えた。
(せっかく金が入ったんだ。何か買い物してもいいかもな)
そんな考えが芽生える。お金は心に余裕を作ってくれるものかもしれない――そんな風に思えた。
次話は22時頃です。




