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ハンバーガーは美味しかったです

ルーグァァァァ、と調理室にロルフートバルーンの鳴き声が響いた。

膨張した卵から孵ったばかりとは思えない大きさではあるが、産まれたばかりの雛がすることといえばひとつ。


【ルーグァァァァァァァァ!】


餌を求め調理器具や机を薙ぎ払いながら炎を吐く。


「きゃあぁぁあ!卵からモンスターが孵った!!」

「どうすればいいの!?なに!?」

「斬り殺そう」

「ウー……アー…………ア"?」


パニックが広がるもののそこはさすがというべきなのか、倒す算段を立て始める面々もちらほらと。

なんせ、グラスフィール学園のA組(いちばん上のクラス)なわけで。


「こんなもの、先生の手を煩わせるほどでもない。すぐに斬り殺す」


1番最初に動いたのはククリ・サーアキだった。

アシルチが声をかけるよりも前に空間魔法で取り出した刀を構え、空気を切り裂く音ともにロルフートバルーンの一匹の頭を落とした。


「他愛もない」


ロルフートバルーンの特性を理解していたククリが落とした頭をぐしゃりと踏み潰す。


「破裂さえしなければただの蛇」

「違う!避けなさいククリ・サーアキ!」


二匹目にと視線をそらしていたククリにアシルチが慌てて声を掛ける。

頭を落とされたはずのそのロルフートバルーンはゆらゆらと動いて、それからあっという間に頭が生えて炎を吐いた。


「なっ、頭を切り落としたはずだ、胴体から再生するなんて…!」


(…従来のロルフートバルーンと違う……亜種か新種か……どっちにしても、私の目を欺いて卵を紛れこませただけでなく、孵化までさせるなんて。あの生徒も気がつけば紛れていない……!随分と高度な認識阻害、なんて屈辱!)


「……バカにされたものね、私ならロルフートバルーン6匹で事足りるとでも思われたのかしら。全員その場を動かず、何もするな」


生徒を守る、という意味もあった。

紛れ込んだ敵に余計なことをさせないため、という意味もあった。


けれど嗚呼、1番は。


「馬鹿にすんなよぉ…!」


馬鹿にされた、自分であればこれで十分だと、馬鹿にされた!

どこのどいつか知らないが、舐めてくれる!


アシルチは強くない、決して。

食への貪欲な情熱と、特殊な瞳を持つだけ、それ以外は抜きん出た力などない。

けれど、逆を言えばそれだけでグラスフィール学園の教員を勤めれている。


ここはグラスフィール学園、スエルテ王国王立都市に建つ国立学園。

完全実力制であり、世界で名を連ねる“イーリス”などの冒険者を輩出した学園である_____!


「調理室のものは須く食材なんだよ……包丁×60、用意…!」


ばん!勢いよく机を叩くと調理室の棚のあちこちから包丁が飛び出して、総じてロルフートバルーンに切先を向ける。


「本日の食材はロルフートバルーン、切ってミンチにして凍らせて砕いてシャーベット!“調理開始クッキングスタート”!」


そこから先はまさに宣言通り調理だった、クッキングだった。

縦横無尽に飛び交う包丁はロルフートバルーンの身体をあっという間もなく1センチ角に切り刻み、浮遊魔法によって空中でぎゅうっとハンバーグみたいにまとめて丸められて、最終的に凍結魔法で凍らされて砕かれて、お皿に盛り付ければあら大変、見るも無惨な肉塊のシャーベットの出来上がり。


ロルフートバルーンは多分泣いていい 


「…え、せんせいそれどうすんの、食うの」

「なまにく…」

「……ヴァー」

「シャーベットにあやまれ…」

「仕方ないでしょ!?どれだけバラせば再生しないかわかんないから凍らせる必要があるの!」


生徒は引いた。

なんで皿に盛り付けたんだよ、目が如実に語っていた。

凄いなって思ったしやっぱりグラスフィールの教師は強いなって思った、でも皿に盛り付けら必要はなくない?

凍ってるから誤魔化せているが、皿に盛り付けられているのはただのミンチの肉である。


「できたー!」


そこに場違いの明るい声、空気を良くも悪くも壊すことで定評のあるアイリスである。


そういえば、アイリス、それからフランとミシェルはロルフートバルーンに何の反応も示さなかったが、いったい何をしていたのだろうか。


ポトフに並べられているのは大きめのハンバーガー、バンズに挟まれたハンバーグは照り焼きソースがかけられて、キャベツの緑と目玉焼きの白と黄色が鮮やかにのぞいていた。

プレートにそれを載せたアイリスの満面の笑顔はどこぞの雑誌で表紙を彩ってもおかしくない、その傍に剥がれたロルフートバルーンの皮が転がってなければだが。

アイリスの両側には額に手を当てたフランとミシェルがため息を吐いていた。


ここでプレイバック、さていったい何があったのか。

アイリスはアシルチたちがロルフートバルーン6匹と対峙している合間、目にまとまらない速さでそのうち1匹を素手で掴み爆破も攻撃も、唸り声ひとつもあげる暇も与えずまず皮を剥いだ。

脱皮のように綺麗につるりと皮を剥がれたロルフートバルーンは鰻の要領で頭をまな板に釘打ちされ真っ二つにおろされて骨と内臓を取り除かれた。

重力魔法によって圧縮(ミンチ)されて、炎魔法で少しの焦げ目をつけて一瞬で焼かれて、そうして肉汁をぎゅうっとつまった蛇のハンバーグの出来上がりであった。


この時間、わずか3分。

アシルチが何匹いたかわからなくなるまで細切れにして肉塊のシャーベットにしてしまったこととアイリスの目にも止まらない素早さによりロルフートバルーンが悲鳴すら上がらなかったことが誰も気づかなかった要因であった。


ノーフェイス時代、いくらジオラマの家があったとしても人里離れた場所で暮らしていたことの方が多かった彼らは日常茶飯事に魔物の襲撃など慣れたものだった。

安心して欲しい、魔物たちはノーフェイス(スタッフ)が責任を持って美味しく料理して頂きました。



全てを見ていたフランとミシェルはいった、アイリスの瞳は歴戦のハンターのようだった。

世は弱肉強食、襲いかかった相手が悪かった、残念!



ロルフートバルーンのハンバーガーはとても美味しかった。


またまた前話から更新が非常に遅くなりすいません…

2021年は更新スピードをさくさく上げれるように頑張ります、来年もよろしくお願いします。

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