このあとめちゃくちゃ寝た
「学園に未申請のロルフートバルーンの卵の持ち込み、孵化、か…持ち込んだ犯人は?」
「高度な認識阻害を用いていたようでわからずじまいです、探ってはいますが手がかりが、その…これだけだそうで」
ロメルスがそっと取り出したものを机に置いた。
真ん中には赤っぽいなにかが閉じ込められた青い青い氷_____ロルフートバルーンの肉塊シャーベット。
「……なに?これ」
「アシルチさんが……ちょっと頭にきたらしくて、思いのままにやったそうです」
アシルチであれば出し抜けると言わんばかりに起きた事件、そして、実際一瞬見過ごして、孵化までさせてしまった。
グラスフィール学園の教員としてのプライドを大いに傷つけられたその行為に、元々沸点が低めのアシルチが“頭にきた”のも仕方ない。
「肝心のアシルチは?」
「作り上げた以上食べる責任がある、とこれを食べて腹を壊したそうです。初期の焼き加減が足りなかったそうで」
「…お大事に、と伝えてくれ」
食に対しての並々ならないこだわりがあるからこそ、アシルチはよくこういうことを起こす。
そのためエイトもロメルスもあぁ、またか、くらいにしか捉えない。
苦しそうにしてるからどうしたと心配したら致死には満たない毒キノコを食べて苦しいとか言ってた時はケイトに頭をぶん殴られていた。
「しかし、犯人は何が目的だったんだ?グラスフィートにわざわざ一時的とはいえケイト達の目を欺いてまで侵入して、やったことといえばたかが風船蛇の孵化。まぁ頭以外からも再生する亜種だったらしいが、実験にしても手がかかりすぎてるだろ」
「紛れ込んだのがアシルチさんの授業、というのも気になります。いくら食べ物に関する事に特化しているとはいえ、魔眼保有者です。一瞬惑わされたそうですが、すぐに気付いてます」
しばらくの無言、エイトは手にしていた資料の束を机の上に放り投げてため息を吐いた。
「あーやめだやめ、情報が少なすぎる、ひとまず様子見で、情報共有だけしておけよ」
「はい。……ところでエイト様、例の件はどうします?」
非常に言いにくそうなロメルスに、エイトは苦虫100個は粒した顔で、歯軋りでも聞こえてきそうなほど低い低い唸り声と共に口を開いた。
「飲むしかないだろ……何考えてるかは知らんが、表面的には友好としての一環なんだ、拒否って下手に溝ができるのは避けたい」
「問題しか起こる気、しませんけどね…」
「リンシパル帝国の学園から、グラスフィールへの友好留学、なんて、問題しか起きないだろうよ!」
リンシパル帝国_____スエルテ王国の隣国、“8人の英雄”への信仰が高く、そして今なお色差別が色濃く蔓延る国。
「生まれ、定着した髪の色で立場も、教育も、仕事も全て制限される国。クソほどくだらねぇ」
「……今グラスフィールには、フラン・ユーステスのような黒髪だけでなく……なによりアイリス・オークランドがいます。態々グラスフィールを指定したのは恐らく…」
「……考えたくはないが、学園、王宮に帝国との内通者がいる可能性が高い。元々アイリスは辺鄙な村出身でそこから出たのは学園に通うここ最近。だがあの帝国が態々下手に出て、グラスフィールを指定したってことは、アイリスの情報が漏れてる可能性が高い。なんせ_____あの帝国にとって、白を持つ存在は、喉から手が出ても欲しいだろうよ」
色差別の、その根底は神話にまで遡る。
エルカリム創生神話における世界を滅ぼそうとした邪神ミオソティス、その悪神が黒を纏い、命を賭して世界を守った神ロアン 、その女神が白を纏った、とされている。
それは髪色であり、纏う魔力の色であったとされている。
そして悪神ミオソティスは魔族を生み出した神でもあったがために、黒髪、それに近しい髪を持つ者は人にあらず、魔族の子であると囁かれるようになった。
何世紀か前にスエルテ王国を中心とした抗議運動が行われ世界的な差別は無くなったものの、リンシパル帝国を筆頭に今もなお国毎に色差別は蔓延り続けている。
例えそれが“たかが”外見、髪の色であろうとも、魔族は世界を滅ぼす悪神の眷属である破壊の化身であることに変わりはなく、ミオソティスが黒を纏っていたこともまた、神話における事実なのだ。
そして、白_____それは即ち女神ロアンが纏った色であり、黒と違い近しいものはあれど完全な白を持った人間は存在しなかった。
かつてのマーリンとアヤメ_____アイリスを除いて。
今やマーリンたちノーフェイスも8人の英雄であり、アイリス以外の白を持つ人間は、確認されていない。
あぁ女神ロアンの愛子や、完璧たる白を抱く神の子よ!
我が国にその加護を!穢れの一片も許さないその純白を我らの元へ!
「……ロメルス、ナトカについて改めて探れ。“白の聖女”の話が持ち上がった辺りからでいい。あの疑り深い帝国がこの短期間で学園の留学まで動かしたとなると、それなりに地位と信頼がある人間が繋がってる可能性が高い」
「はっ、畏まりました」
「………こんなことなら学園に呼ばない方が良かったな」
始まりはアイリスの好奇心、それをエイトが叶え、アイリスという特異な存在が気兼ねなく学生ができるグラスフィールに招いた。
現に、アイリスは学園で生徒として、めちゃくちゃな存在だと認知されながらもそれでも学生を謳歌している。
そして_____老害たちによる思惑や隣国の信仰にいの一番に矢面に立たされ続けている。
アイリスの元にそれらが辿り着く前にその殆どをエイトが処理しているものの、今回の友好留学はその手を乗り越えてしまっている。
「……エイト様、それは」
「なーんて言うと思ったか」
一瞬目を細めたエイトは、次にはふんと鼻を鳴らして一眼見ても高価だとわかる椅子に思い切り体を預けてぎぃと鳴らした。
「白だ黒だ、国がなんだの、アイリスには関係ない、なんせ何も悪くないんだからな!規格外でめちゃくちゃってだけで。寧ろ近くにいるおかげで対処も取りやすい。俺はアイリスの規格外を見て聞いて爆笑して、アイリスはなんの気兼ねもなく自分勝手に楽しむ、それでいい。これまでと何も変わらん、違うか?」
「…いいえ、何も違いません。なにせ_____我が国の王子の滅多に言わない我儘ですから。“友人に好きなように生きて欲しい”、そのささやかな願いを叶えられないほど、我が国の器量は狭くはありませんとも」
(アイリス・オークランドが絡むときだけ、あなたは年相応に“男の子”ですから、それくらいは許されるべきです)
「とっとと全部片付けて俺の楽しい爆笑生活バイブスぶち上げレッツパーリー!!!」
「ところでエイト様、今何徹目です?」
「5!」
「寝てください!!!どうりでなんかテンション高いなと思ったんですよ!!」




