閑話:曰く根気いいのが気に入った
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
ひたすらに沈黙、ただただ気まずい。
それでも悲しいかな、アロガルの言いつけをきちっと守って創造魔法を発動し続け、結果沈黙の中で簡単なものではあるがぽんぽんと増えていくものが山に落ちていく音だけが響く。
ぐーぅぅぅ…と唸るような音が突如として響いた。
ホルンの方を見ると、ホルンはただただ創られて増えていく山に一心に目を向けて口からよだれを垂らしていた。
「……お腹、空いたんですか」
「腹減った、これ、食ってもいいすか」
「食う?う、ん?どうぞ……?」
山積みにされているそれは積み木だとかクッションだとか椅子だとか、まぁ兎に角物であるわけで食指をそそられるようなものでは無いのだが。
しかし飲み込めないほどにはわからない問いでもホルンの中では筋が通っていたのであろう、アヤメが若干疑問を残しながら頷けば山積みにされていた物を掴んで噛り付いた。
これに驚くのは当然ながらアヤメである。
(え、え、えぇぇぇぇぇ!?食べた!え、何でかみ砕けるの一応それ材質木……そっち鉄……)
困惑しながらもその声を飲み込んだのは流石としか言いようがない。
その硬さを感じさせず噛み付いてハムスターのように頬に溜めてもっきゅもっきゅと食べる姿は若干かわいい、アヤメは少しだけ現実逃避をした。
その間にも創造魔法は並行していて、ホルンが食べて減ってアヤメが創って増えていく。
(……いや、でも、ここはファンタジー世界、そういった種族的なアレかもしれないし魔法的なアレかもしれないし、うん、私のわからない事でも普通なのかもしれないし。うん、うん)
何とか絞り出した答えは『まぁファンタジー世界だからそういったこともあるよね』だった。
ファンタジー世界とはいえ物を、魔法を食うなんてこと決して普通ではないのだが生憎とノーフェイス以外の異世界の人間と交流したことがないアヤメにその真実を知る手立てはなかった。
(うんうん、しかしこの人といいマーリンといい……ノーフェイスはイケメン可愛い子綺麗な人勢揃いだなぁ……)
もきゅもきゅ、むぐむぐ、ガリガリ、ごくり、ぽんぽん、ごとん
ホルンが物を食べる音、それからアヤメが創ってそれが山に落ちる音。
少しその音だけが響いて、意を決してアヤメが口を開く。
「美味しい、ですか?」
「……………………まぁ。けどマーリンには劣るすね」
「マーリンのが一番美味しいですか?」
「他の人の魔法も美味い、お前のは歪だから折角魔力は上質なのに味が落ちてる、っす」
がりり、積み木を噛み砕いて少しだけアヤメから目をそらす。
ホルンの言葉をうまく理解できず、けれどやはりアヤメの魔法には何処か不具合があったらしいということだけは理解できて、うんうんと考え込んでいると目を逸らしたままホルンが再び口を開いた。
「……シュークリーム」
「へ?」
「シュークリームは見た目がきちっとしてても、中のクリームの量が肝心っす。中のクリームが少なすぎればパサパサするしガワの方の味が勝っちまって、美味くない。中のクリームが多すぎれば溢れて食いにくいしクリームの味が勝っちまって甘ったるくなる。中と外の黄金比、魔法も同じ、特に創造魔法は見た目だけうまくいっても他の構造とそれぞれに割り振りされる魔力量、これがあってないと脆くなるし美味さが減る」
ぱちりと1つ瞬き、いいたいことが理解できたらしいアヤメはそこでようやく使い続けていた魔法を一旦止めて少しだけ言いにくそうに口を開く。
「つまり、魔力のバランスが大事、って事ですよね。……じゃああの、シュークリームみたいにバランスよく出来るように、食べながら、アドバイスしてもらっても、いい、ですかね」
「…………まぁ、腹減ってるし。お前の魔力は美味いし、いいっすよ、じゃ、やれっす」
ぱっと顔を明るくさせたアヤメは元気よくはい!と返事をした。
バランスよく、といっても存外難しいもので。
全て均一に一律に魔力を込めて、でも創り出す物の形を組み立ててと反対のことを同時にするというのは魔法初心者にはかなり厳しい。
しかし無理とか、諦めの言葉は吐きたくなかった、負けた気がする。
そう、普通にやったら一週間くらいかかる仕事を期限明後日だからと渡してきたあのハゲの無茶ぶりだってこなしてみせたのだいけるいける根性根性、染みきった社畜根性は感情論で諦めを許さなかった。
アヤメが創って、ホルンが食べてダメ出しして、また創ってホルンが食べて…………
そんな様子をひょっこりと物陰に隠れて覗き見をしている人物がいた。
言わずもがなアロガルとマーリンである。
2人ともアロガルの魔法道具で姿どころか存在感まで消したいるのでアヤメたちに気づかれることはないのだか、念の為にか雰囲気作りの為にか物陰に隠れていた。
「ホルンずるい、俺だって俺だってアヤメに教えれるなら教えたいのに!」
「マーリンは典型的な感覚派じゃろうが。まぁホルンもそうじゃが、独特の感性と言い方にはなるが他人に指摘することはできるからのぅ」
実はアロガルに用事などなく、物陰から隠れて様子を伺うホルンの気配を察知した為にその場を離れた。
アヤメが他のノーフェイスの面々と交流を持とうとしていることには気づいていたし、ホルンも何やら興味深そうだったので、まぁ若干強引なことは否めないがその機会を設けてやろうという年上心である。
「さてさて、やはりホルンが気になってたのはアヤメの魔力じゃったな。確かにあの子は驚くほどに不干渉の白き魔力じゃからなぁ、マーリンと同じく魔力も多い。それに、まぁあの子は知らぬことが多い、世間一般的な感覚も分かっておらんが故にか、自分の範疇を超えることが起きてもそういうものだと受け入れることが出来る。うむうむホルンも中々にアヤメを受け入れてきているようじゃな」
「俺もアヤメのとこいくぅ〜!」
「えぇいやめんか、ホルンは我らの中でも随一動物的感覚の子なのじゃぞ?一対一が一番仲良くなるのに最適じゃろうが」
アロガルがマーリンを抑えている間にもホルン監督アヤメの特訓は進んでいって、創って食べて、感心したようにホルンが声を漏らした。
「これ、バランスばっちしす」
「!ほんと!」
頷いて幸せそうに創り出された鏡を頬張ったホルンに、アヤメも幸せそうに声を弾ませる。
別の材質や形が違うものを創り出しても、外と中とのバランスのこつを掴んだアヤメに不覚はなかった。
どれもこれも全てホルンのいった“シュークリーム”のようにバランスが完璧なものが出来上がった。
「完璧っす、免許皆伝てやつっすね」
「や、やった〜!ホルンさん付き合ってくれてありがとう!」
にへらと嬉しそうに笑うアヤメをじぃっと見たホルンはふとアヤメの頭を撫で始めた。
突然のことに驚いたのはアヤメの方だ、けれど困惑しているアヤメに気づいていないのか気づいていて無視しているのか、只々無言で頭を撫で続けるホルンになんだか照れ臭くなってしまう。
「よしよし、俺も、いっぱい食えてうまかったっす」
そこでようやく手を止めて言葉を発したホルンは初めて表情を崩して笑顔を見せ、まるで妹を見る兄のような、そんな柔らかな瞳を向けた。
出歯亀をしていたアロガルはもういいかとマーリンを抑えていた手を離し物陰からその姿を見せた。
「只今帰ったぞぅ、待たせたのぅアヤメ、少し前から見せてもらっておったぞ。よしよしよく出来たのぅ、ホルンも我の代わりに教えてくれてありがとうな、リードに聞けば今日はお主の好きなワイバーンの唐揚げ丼とクラーケンの出汁で作ったスープじゃぞ」
「アヤメー!」
実際は最初から最後まで見ていたが、それはともかくぴょーんと跳ねるようにアヤメに抱きついたマーリンも置いておいて。
よしよしとアロガルがアヤメとホルンの頭を撫でると2人はきょとりと目を丸くさせてなんだか照れ臭そうに笑った。
その晩の事、アロガルの言った通りリードが作ったご飯はワイバーンの唐揚げ丼とクラーケンの出汁で作ったスープが出た。
ノーフェイスの中でも特に食うが定評のホルンの丼はぐるりと腕を一周できるくらいに大きなもので、美味しそうに唐揚げ丼を頬張るアヤメの姿と自分の唐揚げ丼を見比べたホルンは少し考えてから自分の丼から唐揚げを何個か取ってアヤメの丼にひょいと移した。
これに驚いたのは他ノーフェイスの面々だ。
まさかあのホルンが、あの底なしの腹ペコが、誰かに食べ物をあげるだなんて!
「おま、ホルンお前どうした!?頭でも痛いのか?腹痛か??急病か!?死ぬのか!?」
「ちげーっす。ただ、……」
ちらりとアヤメを見て満足そうに頷く。
「美味かったから、お返しっす。それにアヤメはちっちゃい、いっぱい食ってでかくなれっす、そしたらいっぱい一緒っす」
だからもっと食えとホルン基準でご飯を与えられる事になり、食べる量は人より少し多いくらいのアヤメがまた困惑する事になったのだが、生憎とホルンには一切伝わることはなく疑問に思われるだけだった。
「アヤメもっと食えっす」
「もう食べれないから!おなか、いっぱい!!!」
「でもお前そんなにちっちゃいのに……」
「ちっちゃい言わないで!」




