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問題児の戦闘馬鹿

グラスフィール学園 学園長室


学園長であるジェット・ルーカスと教師であるケイト・マクガーデン、2人に向き合うようにいるのはこの国の王子であるエイト・クロスロードとその護衛騎士であるロメルス・セミナー。

誰も彼もきやすい間柄といわんばかりの柔らかな表情を浮かべていた。


「ジェット、悪いな手間を増やして」

「いえ、王子の頼みとあれば。……それに、あの抜け穴のことをこちらも把握してませんでしたので助かりました、なぁケイト?」

「はは、すみませんねぇ。いやぁあの2人の悪巧みはついつい見逃してしましてなぁ。あの抜け穴でよくよく脱走していたのが懐かしいですな」


あご髭を撫でながら笑うケイトにじとりとした視線を向けたものの、打てど響かずの態度にジェットは溜息を吐いた。

抜け穴を知っていながら黙っていたケイトはしかし悪びれなく笑っているのだから、本当に悪いと思っていない態度に一周回って溜息しか出ない。


「しかしエイトさま、よく知っておりましたね、あの2人が抜け穴を作っていることを」

「あの2人(問題児)のことだ、学生時代に抜け穴の一つや二つ作っていない方がおかしいだろう」

「おや、さすがの目の付け所ですねぇ」

「……お前に褒められても嬉しくないんだが……俺がここに視察の名目で来た時にはもうお前俺の本当の目的、気づいてたじゃないか……」

「なんのことかわかりませんね、ほほほ」


のらりくらり話を交わすケイトに言葉で勝てた試しなどなく、あの虫も殺せないような笑顔に何度騙されたことか。

上手ばかりいくケイトも、しかしと首を傾げエイトに問いかけを投げた。


「なぜ抜け穴をふさぐ必要があったのです?一応防犯の面でしたら儂が魔法陣を常駐させておりましたが?」

「……ケイト、それも俺は初めて聞いたが?」

「ほほ、今初めて言いましたから」


学園に張り巡らされた結界構築の穴をぬい開けられた通り穴はユリウスとトーリスによって目隠しや彼ら二人以外では通れないようにだったりと、誰かに利用されないように工夫されていた。

才女である彼らの仲間アリアナの手も借りていたようだったために放置され、しかし念のためにとケイトが常駐させた魔法陣、通り穴は確かに秘密の抜け穴で、どうりで他の誰も存在すら知らなかったわけだった。


好好爺を気取るケイトに追及を諦めたジェットは、エイトへ返事を促す。


「…………まぁいい。しかしそれは俺も気になっていた所です、なぜ今さら?」


その問いかけ非常に言いにくそうに視線を動かしてから数秒、少し躊躇いつつ口を開いたエイトから放たれた言葉は2人を驚かせるものだった。


「……つい先日、“リーリエ”と騎士団の共同で“白亜の塔”攻略に赴いた事はお前たちは知っていたな?その結果だが、一言で言えば不発に終わった」

「……不発?失敗ではなく?」


怪訝に顔を顰めるケイトの気持ちは十分に理解できた。

けれど悲しいことに、言い切ったエイトにも、その後ろで同じような顔をするロメルスにも、詳しい説明は不可能なのだ。


「ああ、なぜなら。“白亜の塔”についた時点で塔は攻略されていたからだ。誰が攻略したかは一切不明のままとんぼ返りしていた最中の彼らにとあるモンスターと遭遇した。_____嵐の夜の悪夢、第四騎士団を壊滅寸前にまで追い詰めたあの巨大な虎と」


驚愕でとうとう2人の目が見開かれる。


嵐の夜の悪夢_____かつて第四騎士団を1人を除き全滅させたテンペスタティグレという、S級指定のモンスター。

強大で頑丈なモンスターはまさしく、悪夢と名づけられるにふさわしい脅威を宿していた。


「……おや、しかし、此度の遠征で重傷者こそ出たが死者は1人もいなかったはすでしたか、まさか見逃されたのですかな?」

「それこそまさかだ、野生のモンスターにそんなこと期待するだけ無駄だろう」

「ですが、悪いが彼らにテンペスタティグレを倒せるとは思えません。アレは性質上“リーリエ”と相性が悪い」

「だが彼らは生き残り王都に帰ってきた。その理由が、あの2人を学園に近づけたくない理由でもあるんだ……」


そこでエイトが言葉を区切り、こめかみを抑え頭が痛いとばかりに顔をしかめる。


「あわやと思われたその時に現れた“白の聖女”と呼ばれる、圧倒的に強い白い髪の少女たった1人によってテンペスタティグレは倒された。……この学校に白い髪の破茶滅茶な実力の馬鹿がいるだろう……それで全てを察しろ」


キョトンと目を丸くしてから顔を見合わせたジェットとケイトは言葉通り全てを察したのだろう。

2人にしては珍しく、本当に訳がわからないけれどわかってしまったと言わんばかりの顔をした。


白い髪など、数々の国を旅してまわったケイトもジェットも見たことがなかった。

非常に珍しく、よく今まで平穏な村で生きてきたと感心したほどに。


その少女の性格など全く知らないロメルスは、2人の表情に心の中で「ですよね、その反応になりますよね」と頷いた。


「あの2人はテンペスタティグレの白い髪の少女イコールグラスフィール学園の入学試験トップとは知らん、純粋に自分(ユリウス)を超えた生徒を見たいあわよくば戦いたいと思ってるだけだ、が!そもそも白い髪なんてそうそうどころかあいつ以外に見た事ない!しかもあいつは魔法が魔法だ、百パーバレる!そして確実に勝負を仕掛けるしアイリスも多分受ける!」


カッと目を見開いたエイトにはそのビジョンが鮮明に想像できた。


『君はもしや白の聖女…!俺と戦ってくれ!』

『その次は俺とな!』

『えぇ……はぁ、まぁ、いっか』


目を輝かせて戦ってくれとはしゃぐユリウスとトーリスを、そして率先して受けはせずとも、別にいっかと受けるであろうアイリスの姿を。


「そして結果大騒動を起こす!そこまでならいつも通りと片付けてやれるが白の聖女だなんだとバレてみろ…!白の聖女に恩義やら懸想やらを抱く騎士団も騒ぎ立つだろうし利用できると古狸の馬鹿やら色差別主義の奴らがうるさくなる!!!せめて王宮内での厄介な片付けごとが終わるまでは老害が出しゃばれる事態は抑えたいし“白の聖女”も隠したい。悪いが協力してくれ……」



「お、王子しっかりしてください」


深く、深く、深く溜息を吐いたエイトの背中を慌ててロメルスがさする。

ここ最近の仕事の疲れ、ストレス、全てを吐き出さんばかりの溜息だった。


別段ユリウスとトーリスのそれを毛嫌いしていたり、アイリスが嫌いなわけじゃない。

寧ろどちらも大好きに気に入っているのだが、いかんせんストレス値がピークのエイトにとってはとにかく今はおとなしくしててくれの一言に尽きる。

悲しい事に王子は多忙なのだ。


しかして、学生時代に優等生の問題児達と揶揄割れた戦闘馬鹿2人を彼の思惑通りその厄介ごとが片付くまで交わし続けれるだろうかと苦笑いを浮かべてしまったのは内緒である。






さて、場所は変わり、片付いているようで積み上げられた本や瓶に詰められた薬草や鉱石などが散乱している部屋の中央で座り、まるで戦場に出る前のような真剣な顔をしている2人の男_____ユリウス・ヘンベルトとトーリス・フワロスキー。


「_____っく、隠れ穴がまさか塞がれてしまっているとは」

「チクショー、しかもあれぜってー最近塞がれたよな……だーーー!王子サマ手回ししやがったなー!?」


まさかそんな騒動が起きているとはつゆ知らず、がしがしと悔しそうに頭をかきむしる。

ふ、と腕を組み何かに気づいたような顔をしたユリウスが妙だなとこぼす。


「んぁ?ナニがだ?」

「今更あの抜け穴に気づいて塞いだというよりかは、明確に俺たちをこっそり侵入させないために明確に塞いだと言わんばかりだ」

「……それもそうだな、王子サマ曰く俺たちが試合申し込んで騒動がデカくなるから会うなってことだったが、それにしちゃ徹底しすぎてる」

「王子は少し面倒を嫌う節があるが頭の固い人間ではない、立場を鑑みつつ柔軟な考えをする方だし“面白いこと”を好む人だ、ロメルスを連れて抜け出すことも多々ある。第一騒動を起こすなとは言うが俺たちに対しては今更だ、会うくらいでとやかく言うとは思えない。……となると、俺たちが見たい人物に何かがあると考えるのが妥当だ」



かつて、2人がグラスフィール学園に所属していた頃の話。


方や座学の成績は優秀であったが戦闘においては応用が効かず、言葉足らずで対人関係において誤解されがちではあったが往来の天然さから対人関係に恵まれた1人。

方や座学の成績は下から数える方が早く戦闘においては優秀であったが口が悪く手も早く大人に反抗しがちで、けれど人付き合いの上手さからうまく立ち回っていた1人。


同じA組に所属し成績優秀者であったが同時に問題児でもあった幼馴染2人は、ただでさえ単品でも厄介だったのに合わさって、結果愛される手に負えない戦闘馬鹿となりはてた。


彼らの厄介さはこと、強者と戦うことに対してならば頭が回りまくるという点であった。

正確に言えば_____彼らが楽しそうと思ったことに対して、要は、件のアイリスと同じ性質である。


「……はっ、トーリス。確か件の一年生は白い髪だったんだよな?」

「んぁ?多分そうだったはずだぜ。俺も聞いた話だからもしかしたら白に近い金とかかも知らねーけど白っぽかったって聞いたな」

「ということはやはり、最初予測した通り」

「白の聖女の関係者!」


顔を見合わせにーっと幼い少年のような顔で笑い合う。


「これは何が何でも会いたくなってきたな」

「きしし、俺たちは阻まれれば燃える性質なんだよなぁ」







「ところで王子、もうすぐ夏季休暇ですから寮暮らしの彼女も街に繰り出す機会が増えると思うのですが」

「………………よしアイツら長期遠征にでもだそう」

「ほほほ、ツメが甘かったですねぇ、恐らく受けないと思いますよ?彼ら、悪巧みに関しては頭が何倍も働きますから」

「閉じ込めろ!ロメルス!捕獲!!あの野生児どもを捕獲して閉じ込めろ!王子命令だ!!」

「!?む、無理です!勘弁してください!」

あけましておめでとうございます

季節は冬ですが物語内では今から夏休みというあべこべです、休みといえば休みはどうしてあんなに早くすぎるのでしょうかいっしょうだらけてくらしたい


予告といいますか宣伝といいますか、次回から夏季休暇編となります

白の聖女をめぐるゴタゴタやユリウスとトーリスの暴走、仕事が増えて頭の痛い王子サマ、関係ないのに巻き込まれる一応まだギリ普通の枠のフランとミシェル、エイトとアイリスの出会いの話など別名書きたいことを詰め込む編です


更新スピードはまちまちではありますが今年度もどうぞよろしくお願いします

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