関和:顔のない旅人たち
「まずはねー、このよく怒鳴る鮫みたいな盗賊がリードでこっちのオトナな伯爵がアロガル、こっちの花みたいな騎士がリリアナ!それからこのお人よしの魔女がモルガンで、こっちの底なしの腹ペコがホルン、この眠たい牡羊はラジ!それでそれで、最後に僕は天才魔法使いのマーリンで君はアヤメ!覚えた?」
「ちょっと待ってください」
にぱーっと満面の笑みで"仲間"を紹介するマーリンに彩芽は額を押えながら待ったを掛けた。
沢山の立方体を組み立てたような変わった形の小屋の前、彼女の前にはマーリンの"仲間"の六人がいて、それぞれに込められる感情は違えど総数12の瞳で見つめられて顔が引き攣らない人間がいるだろうか。
人見知りとまではいわないが流石に初対面の人間に注目されるのは得意ではないのだ。
「えーーと………?とりあえず、彩芽・柏木です………?」
「うんうん自己紹介は大事だよね!それで、アヤメは今日から俺達の仲間に成りました!はい拍手ー!」
そう言って拍手をするのはマーリン一人、非常に気まずい。
「マーリン、妾は思うのだけれどね」
「ん?なーに?」
すいと手をあげたのは"お人よしの魔女"と称された黒髪に赤い瞳のモルガンというらしい名前の女性。
きょとりと首を傾げたマーリンにモルガンは真顔で言葉を言い放った。
「幾ら自由を売りにしている妾達とて、流石に人さらいはいかんと思うのだ」
「してないけど!全く君たちは俺の事を一体全体何だと思ってるのさっ!」
ぷんすかと言わんばかりに頬を膨らませるマーリンにモルガンはなんと、と目を丸くする。
「ではこの子、何処で見つけたのだね」
「そこの森でね、一人で湖の真ん中でいたから拾ってきた!」
「元いた場所に返してきなさい」
「えーーーーやーーーだーーー」
彩芽に対する言葉が犬猫に対するソレの様になっている気がする。
ぶんぶんと首を振って駄々をこねる子供のようなマーリンに深く深くため息を吐いた。
「そも、仲間にするという意味を今一度思い出してみると良い」
「俺が気に入った人をどんな手を使ってでも仲間にする!違う?」
「うん、そうだな」
「いや姐さんそこ頷かないでくれよ」
「いや、その辺りはそうだったなと思ってね。マーリンにとって仲間にするという事はそういう事だったからね。しかしねマーリン、君は一体この少女の何処を気に入ったのかな」
モルガンの問いかけにマーリンは首を傾げてからだってねー、と笑った。
「まずは俺と同じ色なことでしょ、それから俺の話ちゃんと聞いてくれたことに話をしてくれたこと、俺の話を嘘だって疑わずに聞いてくれたこと!」
それだけ?と彩芽は思ったのだが仲間である他の面々は違ったらしい。
あぁ成程と納得したような表情を浮かべている所を見て彩芽の仲間入りを否定する人物が居なくなってしまった。
「ぅ~ん………もぉいいぃ~………?ねむぃからぁ………おれねるぅ………まーりんがさぁ……きにいったなら、おれはそれでいーからさぁ………とにかく……おれのあんみんぼうがい……しなきゃいいよぉ…………おやす、みぃ………」
"眠たい牡羊"と称された茶髪に蜂蜜色の瞳のラジというらしい背の高い男はぐずぐずと目を擦りながら腕に抱えていた大きめのクッションを抱きしめると半分既に眠りの世界に入りながら小屋に入っていった。
「オレもマーリンが気に入ったならオレの飯食わなきゃそれでいいっすよ、なれあうかは別として。腹へったー」
"底なしの腹ペコ"と称された赤髪に黒い瞳のホルンと言うらしい少年は欠伸交じりに興味なさげに腹をさすりながら森の方へ入っていってしまった。
「………ふぅ、では妾もお小言は辞めておくとするかね。しかしマーリン分かって入ると思うが、その感情だけで妾達が良くとしてもその子がどうなるかは別の話だからね。悪い子ではないだろうけれど、良い子がついていける程妾達は安くはないのだからね」
ひらりと手を振って小屋の方に戻っていったモルガンを見送ると"鮫みたいな盗賊"のリードは頭を抱えた。
「ンの自由人共が………どーすンだよ………」
「リード、僕は諦めるべきと思う。マーリンが言ってきかないのは今更だし皆マーリンの我儘で引きずりこまれた。なによりマーリン、馬鹿で自分勝手で自由人だけど人を見る目ある」
「そういう問題じゃねーだろうが!俺達が良くたってこの子が良くねェだろ!!大体俺達ははみ出し者だぞ!?………言い方はわりぃがな、普通の女の子が一緒にいれる程力も性質も、世界も、甘かねぇンだよ」
「それなら大丈夫だよリード、だってこの子すっごい魔力持ってるし」
えっへん、本人ではないのに何故か自慢げに胸を張るマーリンの言葉に"オトナな伯爵"のアロガルが考え込むようなそぶりをしてから着ているコートのポケットから虫メガネの様な物をとりだし、彩芽の姿を覗き込んだ。
「ふむ………おぉこれは随分良質且つ多量の魔力じゃのぅ、マーリンと同じくらいじゃな!」
「は!?マジか!!」
「アヤメ凄い」
リードが目を丸くし、ぱちぱちと手を叩く"花みたいな騎士"のリリアナが無表情に彩芽を凄いとほめる。
「え、魔力?」
「ん?アヤメ知らない感じ?もしかして魔法も使った事無い?」
「え、あ、あー………そう、だね」
寧ろ魔法何てもの彩芽のいた世界じゃファンタジーで存在しえないものだったのだけれど、とは口には出来ない為苦笑いを浮かべて誤魔化す。
その妖しさしかないであろう彩芽に深く追求することなくうーんとマーリンは悩んだような顔で、ぽんと手を叩いて電球マークを浮かべた。
「そうだアロガル!せんせーになってよ!」
「む?我がか?」
「ほんとはねー俺がいいけど、そういうの苦手だから」
「それは構わんぞ、我も久方ぶりに誰かにモノを教えるのも楽しそうじゃ」
「え、えっ??」
「おいアホ共、自分たちの中で完結させて話を進めンな、肝心のこの子が置いてけぼりになってるじゃねーか」
自分のことを話しているのに置いてけぼりになってしまって狼狽える彩芽を見かねてリードが二人で話を進めるマーリンとアロガルに苦言を漏らす。
「ありゃ、ごめんねアヤメ!俺そういうの察するの下手くそで、んーとね、アヤメ魔法使った事無いんだよね?」
「う、うん」
「それでね、アロガルそういう教えたりするの上手なんだよ。だからアロガルがせんせー!俺がホントは教えたいんだけどそう言うの苦手だから………」
「はぁ」
「てことでね、あ、今日からだったら行き成りだから明日からアロガルに色々教わってね!あっ俺は教えるのが苦手なだけでアロガルよりも凄いんだからね!!」
「は、はぁ」
必死に熱弁するマーリンに引きつった顔で頷く彩芽に、信じてないなぁ!?とショックを受ける。
いや信じるも何もどちらの凄さも出会ったばかりの彩芽が知る訳ないのだが。
「うーんと、そうだ!アヤメの部屋がまだなかったよね!」
「そりゃあ今日行き成りお前が仲間にするーって連れてきたんだからあるわきゃねーよな」
「人生って突然なものだからね!よーしアヤメ、見ててね!」
ぱっと手を広げて魔力をこめたマーリンが変わった形の小屋の方へ体を向ける。
何をしようとしたのか察したリードがさぁっと顔を青くさせて「おい待てこの馬鹿ッ!!!」と叫ぶが時すでに遅し。
「そぉれっ!!部屋ぐるどっかーん!!」
がこん、と音が鳴る。
小屋と称されていたノーフェイスの家は、言わばリビングと称される部屋を中心に七人の部屋がそれぞれ置かれて繋がれているものである。
だから外から見ればリビングに当たる場所を含め八つの立方体がくっついているようにしか見えないし、繋がれていると言っても立方体の部屋をぴったりとくっつけて扉をつけているだけ。
何が言いたいのかというと―――――質量すら関係なく浮かせて移動させてなんてできる天才魔法使いの手にかかれば、それぞれの立方体を模型みたいに浮かせて移動させてなんてこと造作もないのだ。
「え、え…………!!?な、中に人、いなかったっけ………!!?」
確か先程小屋にラジとモルガンが入っていったはずだと顔を青ざめる、記憶が確かならゆらゆらと宙に浮かぶ総数八個の立方体の部屋の中にいるのでは。
「マーリンてめェ!!俺の部屋が―――――!!」
更にぽっかーん、間抜けながらに大きな音が響いたかと思えば九つ目の立方体の部屋が新たにぽこんと現れて他七つと同じようにゆらゆら浮かぶ。
「うーん、俺アヤメの近くがいいからー、こっちがここで、うーんこれがこっちでー」
指揮棒を振るように指を振れば九つの立方体が宙に浮かびながらぐるぐると移動していく。
「よし!きまーった!がったーい!」
ぽん、ぼん!まるで何処かのロボットアニメのように計九つの立方体がさながら積み木の様にくっついて重ねられていく。
頭上高くで積み重ねられた九つの立方体は歪で変わった景観の一つの小屋になって、マーリンが手を振り下すとズシンと重い音と共に地面に降りた。
勢いよく小屋に立ち入ったリードは扉を開ける音とほぼ同時に叫び声をあげた。
「俺の部屋が――――!!滅茶苦茶じゃねェか―――――!!」
「リードの部屋はあれが強欲で収集したものが散乱しとるからのぅ」
「ボクの部屋もきっと滅茶苦茶」
「え、えーっ……………」
「アヤメ!見てくれた?俺の全力はこんなもんじゃないけどすごいでしょー!」
「いや、凄いけど!ほんとにすっごい!素直に!びっくりした!」
「うんうんそうだよね!えへー、そんないっぱいすごいって向けられるといくら俺でも照れちゃう」
本当にすごいと思う、この世界にとっての魔法のすごいの基準はわからないけれど、本当に本当に凄いと思ったのだ。
その感情を受けたマーリンはへにょんと笑って頬を染める。
しかし、ちょっと待てと、素直に凄いというには片隅に残る記憶が邪魔をする。
「けど、中に人!人いたよね!!」
「モルガンとラジのこと?うん、いるけど…………あっそうかこれは俺にもわかるよ!あの二人が怪我とかしてないかって事でしょ!うんうん怪我してないかは確認するもんね、それにアヤメ心配性だもんね。だいじょーぶ!これ位なんともないから」
「ほーぉ、魔力の流れを感じたかと思えばぐるぐる回すなんて、妾とて驚くのだけれど?」
「なんとも、なく…………なぃ………まーりん、おれ………いった………安眠妨害、する、なぁ………!」
呆れた顔をするモルガンと不満そうな顔で背の高い体をゆらりと揺らすラジにマーリンはごめんね!と反省の欠片もない笑顔で謝った。
マーリンに巻き込まれる形でノーフェイスに引き込まれたアヤメの運命はさてはていかに?
(……なーるほど、確かに困惑はあっても嫌悪はない、けどアリャ何も知らない子供みたいな感情じゃねェか。……知ってしまって離れちまうかもしれねェ危うさしかねェ……俺たちは所詮、逸れもの。ふつーの女の子にゃ荷が重いッてのに、どこにそんな気に入ったのかね)
アヤメとマーリンを見つめて不安な思考を巡らせた盗賊はけれど、自分の知ることではないかと思考を止めた。
願わくばどちらも傷つかないのならばそれでいいと。
「あっ見てみてリード!アヤメ俺と魔力の波長やっぱりぴったり!」
「おぉ!アヤメは随分物覚えがいいのぅ!」
「???」
「まじかよ!」
そんな心配は無用の長物だったことを知るのは割とすぐである。
別の世界に放り出された渡りものと世界の中ではじき出された逸れものたちのはじめのはなし




