強者主義の双生児
カンピオナートという国は、近隣にもよく知れ渡っている強者主義国家だ。
"強いことこそが全て"であり"強いものが絶対"なのだ。
王家や貴族階級こそ存在するが王の強さの是非によってお飾りのソレか認められた其れかすら決まってしまう、徹底的な思想主義。
グラスフィール学園2年A組に所属するツヴィ・ツヴァインとリング・ツヴァインはその国の生まれであり、家自体は国の中では上位に当たるであろう割と強い権力を持った家であった。
勿論、前述通り彼の国では家そのものに権力があっても強くなければ無用の長物なのだけれど。
はてさて幸運にもツヴァイン双子は同年代では敵なし、年齢だけが上の相手であっても勝利を収め彼等はその家柄に与えられていた権力にふさわしい強さを発揮した。
彼等が勝てない相手は国王と、ツヴァイン家よりも強い権力を保持してそれ相応の強さを持っていた貴族たちと、そして両親だけであった。
ある種家柄にふさわしいそれではあった。
何をしても大抵は赦された、だって、彼等の方が強かったから。
何を強請っても大抵は与えられた、だって彼等の方が強かったから。
彼等は挑まれ負ける事は絶対に許されなかった、負ければすべてが地に落ちるから。
彼等は何時だって砂上の城の主として危うく毎日を辿っている。
しかし、そんな双子はある日国の人間ではないよそ者に敗北する。
それこそが前騎士団団長、現グラスフィール学園で教鞭をとるケイト・マクガーデンであった。
同盟国であったスエルテ王国からの使者の一人であったケイトに、偶々王宮にいたツヴァイン双子は若干強引な流れで勝負を申し込み、そしてものの見事に敗北した。
ちなみにではあるが彼等が他国からきた騎士たちの強さに興味を抱き戦闘を申し込んだ相手がケイトだった理由は唯一使者の中で国王を守る騎士ではなかったから、である。
(ケイトはあくまで前騎士団団長であってその当時はすでに騎士ではない)
しかし―――よくよく考えてみればツヴァイン双子も厄介な相手を知らずと選んでしまったものだ。
なにせ相手はスエルテ王国の前騎士団団長であり、過去にはワイバーンの群れを葬った経歴もあり、そして勿論相手が誰であろうと手加減も慢心もしない経験者なのだから、或る意味一番強い相手と思って仕掛けたのは間違いではないのだが。
さてはて、或る意味負けて当然である格上の相手にしか敗北した事のなかったツヴァイン双子はいかに自分たちが井の中の蛙であったかを知る。
彼等はケイトが教鞭をとるグラスフィール学園への入学を希望した。
ケイトの推薦なども後押しし留学生としてグラスフィール学園に入学する事が叶ったツヴァイン双子は入学試験では双子で一位と二位を取り、模擬戦闘期間が始まればそれぞれの学年の順位が上のパーティとの戦闘を繰り広げ、一つのパーティを除いて勝利を収めた。
その一つのパーティというのが当時はグラスフィール学園2年、現3年A組総合評価2位が率いるパーティ"フロス"。
最初は引き分け、次は敗北、その次は勝利、その次はまた引き分け………
楽しかった、回を重ねるたびに相手を研究して研究されて、国にいた時では感じえなかった戦いの楽しさだった。
言葉にするならば、ライバルのような、そんな関係性。
カンピオナートにはなかった、そんな、勝ったものと負けたものしかなかったあの国には。
負けても勝ったものに追従しなくてもいいなんて、意味が分からなかったけれど、負けても今度は勝つからな、何て戯言を勝負の後に代わるなんて。
けれど、カンピオナートにとって、そんなもの、二の次だ。
勝て、勝たなければならない、強くなければ意味はない、我が国は絶対的な強さを誇らなければならない、国を代表し留学生として其の国にいる以上、カンピオナートの強さを魅せなければならない!!
そしてツヴァイン双子に手紙が届いた、それは双子にとって生まれた時から絶対的に強いという立場に置かれていた両親からであった。
その手紙には端的に内容が記されてあった――――――ソレ以外への敗北は赦さない、以降別の者に敗北した場合国に連れ戻す。
ツヴァイン双子は負けれない、負けてはならない
彼等は、この学園生活を、好いていた
嗚呼だって――――――ここじゃ気を張らずに生きていけたから。
辿るのは確かな道で、住まうのは地面の上で、必死に生きなくても生き残れるくらい生温いくせに、必死に頑張らなければみるみるうちに落ちていく位に実力主義で。
負けたって何の折檻も叱咤もない優しさ、けれど誰も後押しはしてくれない厳しさ、自分自身で歩かなければならない責任、誰にも強要される事のない自由。
生まれ育った国とは全く違う生活文明文化。
カンピオナートを大変で厳しいと思ったことがない訳ではないけれど、逃げ出したいと思った事も無かったし疎んだこともましてや嫌った事等一度もない。
彼等は彼の国で生まれ育ったことを誇りに思っている、けれど、けれど……………
まだ、ここに、いたいとおもった
だから負けられなかった。
だから赦せえなかった。
何時もは少し、からかって馬鹿にするだけだった、だって自身より弱い立場である癖に諦めようとしない負け犬を彼等は決して疎んだりほんとに見下したことはなかった。
でもでもだって、僕らはもう負けれないのに、負けたらここにいれなくなるのに、お前は負けたのに、何でなんでなんで???!!
他の人ならまだ我慢できたけれど、自分たちより弱くって、同じ年齢で、同じ時にここに来たのに
気が付けば子供みたいな喧嘩をして双子はケイトに叱られた。
アイリスたちは双子の癇癪を子供のようなそれだと称したが、確かにそれはその通りで、けれど子供の癇癪らしく譲れない感情があったのだ。
"イリス"と戦う事を知らせれば両親はこう告げた、『例え相手があの噂に違わぬ炎の魔剣使いであるユリウス・ヘンベルトの不動の成果を超えた相手であっても撤回はしない、負ければ即帰還を命ず』
負けれなかった、崖っぷちでそれでも負けれなかった、子供の癇癪みたいに喚いて喚いて負けて堪るかって、そうして結果は散々、"ツヴィリング"は負けたのだ。
これで終わり、負けてしまった、両親の命令は絶対だからもうここにはいられない。
どんな命令だって出来る事ならばして見せるつもりだった。
だって先に喧嘩を打ったのも、あまつさえ強さの否定をしたのも双子の方だったから、どんな屈辱でも味わうべきだったから。
なのに、"謝ってくれればそれでいい"???
理解できない、あり得ない、たかだかそれだけ??
けれど負けた側の双子が追及も否定もする自由はもちえない。
だから、生温いと思ったのだ。
双子に勝ちを収める癖に生温くお優しい人間なのだと、思った。
けれど、じゃあ目の前にいる彼女はなんだ?
気に食わないと吼えて、楽しそうに咲う少女は、善人どころか全く”お優しく“なんてなかった。
「私は別に、先輩が学園辞めようと、何しようと、ぶっちゃけ勝手にしてくださいなんですよ。自分の人生なんて自分でしか責任取れませんし、個人の自由ってやつですし。けど、でも、あぁ気に食わない!その目!
「諦めなくても叶わないことだってあるし、どうしようもないことだってこの世にはいっぱいある!諦めきれないことだって、当然、いっぱい!でもね、大丈夫だって自分の中で押さえ込む事にしたんなら立ち尽くして誰かに歩かせて貰いたいって顔するな!それが、すっっっごく、気に食わない!」
「そりゃあ、どうにもならないことだってこの世にはいっぱいあるし諦めなければ叶うなんて詭弁で綺麗事だよ。助けを求めたってカミサマは不平等だから。でも、何にもしない奴を助けてくれるほど世界は聖人だらけじゃない。ねぇ先輩、諦めきれないなら、残った手全部使い切ってから諦めましょうよ」
「諦めたくないならいっそ絶望するまであがけ!ですよ!思いつく限り出来ることなんでも手当たり次第やって数打ちゃ当たる戦法、もったいぶって手を隠してる場合ですか?」
関係ないし特に興味も無ければ引き留める気もないという。
その癖に気に食わないから諦めたくないなら諦めるなという。
気に食わないからいっそ絶望するまであがいてから諦めろという。
まるで矛盾している、ただの自分勝手な言葉を堂々と謳ってみせるこの少女は何だ。
呆れた様にため息を吐く後ろの二人はそれでも何も口を挟まない。
だってそうとも、僕らの方が弱いんだから命令に従うのは当然で、それを否定する事等赦されてはいなくて、あがいていい訳なくて、嫌だって思う事なんて許されるわけなくて。
だって、それがカンピオナートの在り方だから。
だから、僕らは望む事は許されたしどんな態度でも許された。
だから、僕らはぼくらより強い人間の命ならばどんなものでも受け入れなければならなかった。
だから、僕らは、その命に異議を唱えるなんてしてはならなくて、したとしても、受け入れられる訳なくて、だから、そんなこと、しようとなんて思った事無かった。
……………本当に?
けど、でも、許されるなら、一度くらい、我儘をいってみるだけなら、いいかなぁ
それで、もし、許されれば、此処に残りたいな、なんて
この少女はただただ本当にそう思ったんだろう、気に食わないからしてみせろ、と。
きっとそこに深い意味などない、ただ、ただ、そう思ったからそう言い放っただけ。
そんな自分勝手な一言が、彼等を叱咤した、後押しした、どうせならと、諦めれなくした。
全く持って性質が悪い、だって少女は本当に、ただただ気に食わないだけなんだから!
単純に、アイリスのそんな戯言に乗せられただけ。
どうせ帰る羽目になるなら一度でいいから嫌だなんて我儘を言ってみてもいいかなと思っただけ。
そうして両親に直談判してみればあっさりと、双子の憂いは何だったのか。
『ならば今以上に鍛錬に励め、負ければ帰還の通達は撤回とする代わり無様な敗北は見せるな。また、上を見続けるだけでなく飛べずとも超える意志を持つことを忘れるな』
簡単に、見事にあっさりと学園への残留を許可したのだから驚きである。
結果だけ見れば簡単に、あっさりと、けれどきっとアイリスの自分勝手な言い分がなければ双子はあきらめきれずに諦めてしまっていただろう。
双子は楽し気に足を進めた、少し先日に学園を辞めると言い放ってしまった事を撤回するために。
それから、そうだ、夏季休暇が入る前にあの少女たちに会いに行かなければ。
きっと少女はお礼を言われるなんて思ってもいないだろうけれど、それでも、確かに彼女の言葉がなければ自分たちは抗う事すらしなかったから。
そうしてツヴィとリングはケイトに向かって勢いよく飛びついた。
「聞いて聞いて!!僕らまだここにいてもいいって!!」
「聞いて聞いて!!僕らかかさまたちに我儘言っちゃった!!」




