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【初代地球王】  作者: 池上雅
第三章 【飛躍篇】
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*** 6 奇跡の光***


 誠一院長が旧友に向き直った。


「佐藤よ。瑞巌寺のTV番組は見ているか」


「ああ、もちろん。たいへんな事業でありたいへんな評判を呼んでいるからな」


「では、あの瑞巌寺の僧侶様たちが崇め奉っていて、そのお方を囲んで毎日座禅を組むことで霊力を上げて頂いている人物のことは知っているか」


「なんでもお釈迦様の御光をお持ちだそうだが…… 本当なのか?」


「ああ、本当だ。こちらがその三尊光輝氏だ」


 佐藤本部長の目が丸くなった。

(若い…… よく見ればものすごく若い…… それになんという美青年だ……)


「じ、実にお若いのですな。失礼ながらご老人かと思っておりました」


「それから崇龍上人のことは知っているか」


「あ、ああ、もちろんだ。

 あの四百年の間五百人の子供たちの霊を守ってきた大きなお方だろ」


「うむ。実は今そのお方も今ここにいらっしゃる。大きいので驚かないように」


 瑞祥院長が厳勝に目くばせし、厳勝は頷くとその場で座禅を組み始めた。

 もう厳勝も座禅を組まなくとも霊を一般人に見せてあげられるほど霊力が上がっているが、ここは念には念を入れている。 


 途端に崇龍さんの巨体が本部長室に出現した。


 崇龍さんはにこにこ笑っていたが、なにせ座っていても高さ三メートル近い巨体である。

 そのままでは天井に顔が埋まってしまうため、無理して少し小さくなっている。


 本部長以下全員が硬直した。


「お初にお目にかかり申す。崇龍にございます」


「こ、これはこれは…… 佐藤でございます。

 あ、あの高名な崇龍上人様にお会いできて光栄でございます」


 崇龍さんはにかっと笑った。



「ということでだ。こちらにいらっしゃる三尊氏と崇龍上人様は本物だ。

 この方々がお前に準備を頼んでいた実験の主役だ」


 佐藤本部長の顔が真剣になった。


「瑞祥よ。お前の言うことだから間違いは無いと思うが…… 

 本当に本気なのか?」


「この方々は、この一週間で俺の病院に入院する末期がん患者二十名もの命をお救いになった。

 うち三名は余命三カ月未満の小児がん患者だった。

 全員が今日も確実に快方に向かっている」


「…… 信じられんことだ ……」


「では早速、三尊氏と崇龍上人に実際に座禅をお願いしてみよう。

 重篤ながん患者を一室に集めておいてくれたか」


「お前に言われた通り重篤な順番に三十名、会議室を改装して消毒した特別病室に集めてある。

 まったく消毒がたいへんだったぞ」


「うむ。それでは実際には三時間ほどの座禅で充分とは思われるものの、念のため六時間の座禅を行っていただこう。

 それでは三尊さん、崇龍様、御準備をお願い致します」



 準備と言っても崇龍さんには何もすることが無い。

 光輝と瑞祥院長と厳勝とマリアーノくんの四人は、シャワーを浴びて体中を消毒し、滅菌済みの白衣や修行衣を身につけた。


 光輝はまだどぎまぎしていたし、まさか治療に失敗してはと緊張もしていた。


 しかし……

 会議室を改造した特別病室に入った途端、それらの雑念は見事に消えうせた。


 三十人もの重篤患者の姿、特に前列の哀れな小児がん患者の姿を見て、再び胸が張り裂けそうな気分になったからである。


 その瞬間から光輝は座禅に没頭した。

 もう周りの様子もなにもわからなくなった……





「三尊さん、三尊さん……」


 光輝は瑞祥院長にそっと肩を触られ、声をかけられて我にかえった。

 なぜか瑞祥は光輝の上方を見上げてから、異様にゆっくりと光輝の肩を触っている。


 光輝は座禅の集中から引き戻されて目を開けた。

 驚いたことにさっき座禅に入ったと思ったのにもう六時間が経過している。


 傍らには崇龍さんが座り、微笑みながら光輝を見ている。


「三尊殿、お見事な座禅にござった。

 もはや貴殿の座禅は超一流の禅僧並みにござる」


 不思議なことに光輝は全く疲労を感じていなかった。

 肩さえこっていない。


 周りを見渡すと、蒼い顔した佐藤本部長をはじめ医師たちが光輝を見つめていた。

 マリアーノくんすら少し蒼い顔をしている。


 病院の看護師らが重篤患者たちを次々と運び出し始めた。

 順番に検査を受けて元の病室に戻るのだ。

 光輝たち一行はまた本部長室に戻った。



 佐藤本部長がまだ蒼い顔をしながら言う。


「いや驚きました。

 三尊さんが座禅を組み始められた途端、なんというまばゆい光が病室に満ち溢れたことでしょうか」


 正確には厳勝さんが座禅を組んで光輝の御光を皆に見せ始めてからなのだが、まあそれはどうでもいい。


 興奮した医師たちも口々に言う。


「しかもあれほどまばゆい光なのに、見つめていてもちっとも眩しくないのだ」


「あれは絶対にトリックでは無い。我々の用意した病室の空中の一点から光が湧いたのだ」


「トリックなどと言っては御無礼だぞ」


「い、いやこれは失礼をば……」


「それにあの光のなかの仏様のお顔の安らかだったこと……」


「うむ、まさに奇跡の体験であった」



 聞けば光輝の座禅が始まってからしばらくして、瑞祥院長が皆になにせ六時間もかかるのだから別室に移って休息されては、と言ったらしいのだが、みなこの奇跡の体験が惜しくて誰も席を立たなかったそうだ。


 にもかかわらず皆元気そうに見えるのは、御光の御業は健康人にも及ぶからだろうか。


 光輝は自分には確実にその力が及んでいると思っていた。

 なにしろ六時間もの間、みじろぎもしなかったのに、まったく疲れていなかったのだ。




 その夜帰りの途中、みんなで簡単な食事を取ったが、その席でマリアーノくんが呟いた。


「わたくしは普段、瑞巌寺の座禅場で、それも遠くからしか三尊様の御光を拝見させていただいたことはございませんでした……」


 相変わらず見事な日本語である。発音も抑揚も完璧である。


「それがあんなに間近で、しかも室内だとあれほどまでに強烈な御光だったのでございますね。

 これで充分に納得させて頂きました。あれはまさしく奇跡の光であります……」


 妙に神妙そうにマリアーノくんが言った……




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ただいま奈緒ちゃん、ひかりちゃん」


「おかえりなさい光輝さん」


「ばぶう」


「おおっ! ひかりちゃんもおかえりなさいしてくれたのかっ!」


「まぁっ! すごいわひかりちゃんっ!」


「ばぶぶう♡」


 親子三人の幸せのときである。



「ところで今日はどうだったの奈緒ちゃん。退屈しなかったかい?」


「それがね、光輝さんが出かけてすぐお弟子さんたちとお茶してたんですけど、そこに瑞祥旅行社の方が来て、『今日はどちらに御案内いたしましょうか』って言って下さったのよ」


「へえー」


「もう観光でもテーマパークでもお買い物でも食べ歩きでも、どこでも連れて行ってくださるんですって。

 そのためにマイクロバスさえ用意してあるんですって」


「へ、へぇ~」


「まったく凄い待遇だわ。

 請求書は全部瑞祥研究所に回すように所長さんから言われているそうなの。

 でも、今日は食べ歩きだけにして、その合間に明日どこに連れて行っていただくかをみんなで検討させていただきます、ってお願いしたの」


「うん。それにしてもさすがは所長だなぁ……」


「それでね、みんなで有名なレストランとか人気のスイーツのお店とか回らせてもらったんですけど、すぐにお腹いっぱいになっちゃうでしょ。

 だから一旦ホテルに戻って休みましょうかって提案したの」


「うん」


「そしたら旅行社の担当さんが、銀座か日本橋でショッピングでも如何でしょうかって言ってくださったの」


「で、でもそれって……」


「そうでしょ。わたしは光輝さんのおかげでお小遣いは充分いただいてますけど、お弟子さんたちはそんなにお給料も高くないでしょお」


「うん……」


「だから躊躇してたのよ。

 そしたら、旅行社の方が、『あ、申しわけございません、申し遅れておりました。瑞祥所長様から皆さまのショッピング用のお小遣いとして二百万円お預かりしております』ですって……」


「うわっ!」


「私の分だけじゃあなくってお弟子さんたちも含めてよ。

 それにぜんぶ遣っちゃってもいいそうなの。

 所長さんがその分みんなで楽しんでおいで、って仰ったんですって」


「さ、さすが……」


「もう若いお弟子さんなんか感激のあまり涙ぐんでたわ。

 おかげでみんなしてわたしを女王様扱いよ。

 もう絶対に奥方様としか呼んでくれないし、荷物も持たせてもらえないの」


「ま、まあそうなるだろうなあ……」


「お店のひとたちも驚いてたわ。

 警備員さんたちまでついた集団が私を取り囲んで『奥方様』とか言うんだもの。

 ちょっと恥ずかしかったわ……」


「ま、まあけっこう恥ずかしいかも……

 でも退屈しなくってヨカッタね」


「元はと言えばみんな光輝さんのおかげだわ。

 と言うことで光輝さん、わたしたちのことはぜんぜんご心配要らないわよ。

 だから、存分にお仕事頑張ってくださいね」


 奈緒はそう言うとにっこり微笑んでまた熱いキスをしてくれた。


(…… また霊力UPの修行でもしようかな ……)

 光輝は奈緒を抱きしめながらそんな不埒なことを考えた……







(つづく)


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