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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
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*** 35 バチカン聖戦団 ***


 瑞祥研究所の敷地と市道を挟んだ反対側の土地は、やはり瑞祥本家の所有地だった。

 市道に面してはいくつかの商店などがあったが、その後ろにはまだ広い空き地がある。


 警察庁は、県警を通じて瑞祥本家にその土地を譲ってくれないかと依頼してきた。

 研究所を守るために徳永の警察署の分署を作りたいからだと言う。

 派出所ではなくはっきりと分署だと言った。


 自分の孫やその仲間たちを守るためだと聞いた御隠居様は、すぐにこれを了承した。

 市道沿いの商店には代替地を用意して移転がお願いされたが、その商店はすべて瑞祥一族の経営するものだったので、これもすぐに了承されている。

 研究所のスタッフがよく利用していたコンビニやレストランは分署の隣に移転し、徳永警察署長の警察署は人員が二倍に増強された。


 市道の拡張と整備のための工事も始まった。

 瑞巌寺への道をより安全なものにするためである。

 その道の渋滞を防ぐために研究所を迂回するバイパス工事すら計画されている。


 研究所の正門前には警察の分署の建設が始まったが、そこには大きな宿舎も作られていた。

 研究所警護の専任になる予定の、武装機動隊員一個小隊分の宿舎だそうだ。

 そのうちの一個分隊が常時即応体制を取ることになる予定だという。

 日本政府は本気だった。


 瑞巌寺に続く道は、今でも県警によってマイカー規制が敷かれていたが、その規制が始まるゲートのところにはやはり警察の分署が出来た。

 瑞巌寺の隣接地にも分署と機動隊の駐屯地を作りたいと瑞巌寺に依頼が来たので、龍一所長はまた御隠居様を訪ねて行ったのだが、その日は日曜日だった。


 御隠居様は、「これからはお前に全部任せるから好きにやりなさい」とややめんどくさそうな口調で言って、すぐに桂華会に戻って行った。


 後に、待機ばかりしていては機動隊員たちや自衛隊員たちがヒマで可哀想だと考えた龍一所長は、彼らを交代で定期的に瑞巌寺の法要に招待して霊も見せてあげた。

 彼らは感動していっそう真剣に任務に取り組んだ。

 隊員たちは皆テレビで見て知ってはいたのだが、やはり実物はさらに感動的だったのである……



 間もなく、バチカンとアメリカ合衆国が、日本国内に共同で資金管理団体を作った。

 かなり異例のことである。


 手始めに八百億円の基金が作られたが、その団体の行動目的は、すべて瑞巌寺と瑞祥研究所への寄付行為のみである。

 イタリア政府も少額ながら資金を拠出してこれに加わっている。


 日本政府の了承を得て、その団体から瑞巌寺と瑞祥研究所に手始めに二百億円ずつの使途自由の非課税寄付が行われた。

 必要に応じていくらでも寄付するのでそのときは教えてくれという連絡まで来ている。


 おかげで瑞巌寺では、手伝いに来てくれる他宗派の僧侶たちにお布施を払えるようになった。

 皆要らないと言ってくれたのだが、資金が潤沢になった理由を説明すると皆喜んでくれている。


 瑞巌寺の僧侶たちの給料も上げてあげられた。家族手当も作られた。

 料亭瑞祥に瑞巌寺で出してもらっている料理の代金を払うことも出来た。

 社長は要らないと言ったのだが、やはり理由を説明すると喜んでくれた。

 そうして料金を受け取るようになると、さらに食材を豊富にしてくれたのだ。


 なによりも、もし僧侶たちに万が一のことがあっても、残された家族が困らないだけの遺族基金が作られた。

 基金の総額は五十億円である。


 厳空たち幹部退魔衆は最初とまどっていたが、そのうちそれだけ仕事に精を出せということなのだと納得した。

 もはや後顧の憂いはなにも無い。


 研究所の警備員も十人に増員され、詰所には配達されて来た荷物をチェックするための爆発物探知犬まで二頭配備された。

 二頭は先輩の警備犬たちに尻尾を低く振って挨拶したので、先輩警備犬たちも大いに気を良くしている。

 またこの二頭はいずれも若い雌だったので、現役警備犬たちは実にうれしそうだった……



 以前に外務省からもらった特別寄付金と、今回バチカンやアメリカから貰った寄付金で、退魔衆たちの宿舎を作ろうという話が具体化した。

 家族も住める本格的な宿舎を作る計画である。


 その打ち合せを退魔衆宿舎の談話室で聞いていたマリアーノ君とミハイル君が、その必要は無いのではないかと言う。

 光輝たちが不思議そうな顔をして二人を見ると、マリアーノ君がにこにこしながら言った。


「先ほどロマーニオ枢機卿様からご指示が来ました。

 今建設中の留学生宿舎のうち、大食堂の無い方の建物をひとつ、退魔衆の方々にプレゼントするようにとのことであります。

 受け取って頂けなければ我々を叱責するとも書いてあります。

 どうか我々の為にも受け取って下さるようお願い致します」


 さすがに光輝たちも驚いた。

 あの白亜の美しい建物を丸々ひとつくれるというのだ。

 そういえば以前結婚した退魔衆の家をどうするかという相談をしていたときに、この二人はその脇で報告書を書いていたのだった……


 驚いた光輝たちがマリアーノ君とミハイル君を見つめていると、二人はナナメ上を見ながらピーピー口笛を吹き始めた。

 まるで漫画である。


 まったくそういう仕草をどこで覚えたのだろう。

 やや呆れながらも皆でロマーニオ枢機卿へのお礼の文言を考え、マリアーノ君がすぐにそれを訳してバチカンに送ってくれた。


 翌日グレゴリオ神父がやってきて、建設中の宿舎の内装工事についてご希望を承りたいのでよろしくお願いしますと言う。

 純子さんと詩織ちゃんと厳上の婚約者の美樹ちゃんは大喜びである。


 美樹ちゃんは、さっそく麗子さんからあのペーパーのプリントアウトを貰ったらしい。

 アロさんの家での懇親会にも呼ばれて、つやつやした顔の女性陣にも囲まれた。

 また奈緒の孫弟子が増えたようだ。

 あの部屋なら弟子が二十人や三十人に増えても懇親会はできるだろう。


 もちろんあのランジェリーショップにも連れていってもらって、フィットしたブラも例のショーツも、大師匠である奈緒にプレゼントしてもらったそうだ。

 奈緒の弟子たちの法衣みたいになってきた。

 とんでもなくウレシい修行衣だ。


 そのショーツを見た厳上は最初驚いたが、法印大和尚様の奥方様からのプレゼントで、皆おそろいなのだと美樹ちゃんから聞いて何も言えなくなった。


 厳上はやっぱりちょっとナナメ上を見て想像しそうになったので、美樹ちゃんの頬も膨らんだ。

 奥方様に言いつけるわよ、と言われて平謝りに謝った。


 厳空や厳真ならともかく、若い厳上にとっては法印大和尚様は雲の上の人だったのである。




 瑞巌寺で修行中の留学生たちのうち、何人かが霊たちの姿を一般人に見せられるようになってきた。自分の口を使って霊たちの声を伝えることも出来た。

 そういうことが出来るようになった留学生は、やはり格闘技などの上級者ばかりである。


 それを聞いて、米軍から派遣された教官たちはいっそう熱心に留学生を訓練するようになっている。

 人数も十人に増えたので、マッサージもたくさんやってあげられる。

 米軍は留学生の体のケアをする専門のトレーナーまで派遣して来てくれた。

 大統領首席補佐官の要請であった。




 ロマーニオ枢機卿からマリアーノ君に一時帰国命令が来た。

 霊とのコミュニケーションが出来るようになった留学生を十人ほど連れて帰って来いという。

 その十人はやはり格闘技などの達人や上級者だったので、勢ぞろいすると迫力満点である。

 彼らは意気揚々とバチカンに向かった。


 ロマーニオ枢機卿に迎えられたマリアーノ司教一行の十一人は、バチカン宮殿の謁見の間に連れて行かれた。

 留学生たちがまさかと思いながら緊張していると、本当に法王様が謁見の間に入ってきた。


 留学生たちは全員涙を流しながら跪いたが、なんと法王様は全員を祝福までしてくださったのである。

 留学生たちは感激のあまり震えていた。


 その日の夜にまたシスティーナ礼拝堂でミサが行われた。

 今回のミサも、上位聖職者が全員招待されていて、広い礼拝堂が聖職者で埋め尽くされている。


 マリアーノ司教がまた聖職者の霊にお願いして可哀想な子供の浮遊霊たちを十人ほど集めて貰っていた。

 マリアーノ司教の主導でミサが始まると、やはり高位の聖職者が多いせいだろう。今度は三十分ほどでまた天からの光が差してきた。


 礼拝堂に聖職者たちの「おおおお」という驚きの声がこだまする。

 その声は、その輝く光の中を巨大な天使が降りて来るとますます大きくなった。

 もう皆椅子からずり落ちるように床に跪いている。


 また今回も大天使ガブリエルが来てくださったのだ。

 大天使はにっこり笑って子供の浮遊霊たちに手を差し伸べ、子供霊たちは皆無事に大天使の腕に抱かれた。


 そのとき、法王が厳粛な声で言った。


「お許しくださいませ。

 我々は神の国のためだけではなく、ここ現世のためにも働こうとしております」


 大天使ガブリエルは、ゆっくりと法王を見て微笑まれた。

 そうしてまたもお言葉を賜られたのである。


「主はあなたがたの行いを楽しみにしておいでです。

 己の良心に従って進みなさい」


 大天使はそう言うと、一同を見渡してまた微笑んだ。

 そうして子供たちを腕にかかえたまま、静かに天に昇って行ったのである。


 広い礼拝堂を埋め尽くした高位聖職者たちは、しばらく誰も動かずに泣いていた。



 法王の反対派は一掃された。

 一掃されたと言うより、全員法王の強力な支持者になってしまっただけだったのだが……




 翌日、宮殿内にバチカン聖戦団が組織された。対マフィア特殊組織である。

 責任者はロマーニオ枢機卿で、主要メンバーはマリアーノ司教と留学生十名である。

 留学生たちは全員司教に任命され、その他に、彼らの助手として二十名ほどの神父がつけられた。


 聖戦団がまず始めたのはバチカン内にいる無数の聖職者の霊たちの組織化である。

 中心メンバー候補の上級霊には昨日のうちに声をかけていたので、彼らはシスティーナ礼拝堂でのミサも見ており、法王様のお言葉もいただいて感激していた。


 バチカン宮殿内の一室が聖戦団の本部とされ、彼ら中心メンバーの聖職者の霊たちには、そこからまずバチカン内の無数の聖職者の霊たちに声をかけて集めてもらったのである。


 ロマーニオ枢機卿が彼らに対マフィア聖戦の手伝いをしてくれるようお願いをした。

 本部の部屋の中には途方もない数の霊たちが集まってくれたようだが、もちろん霊なので場所は取らない。


 さらにマリアーノ司教は、彼らに一般人の霊を集めて組織して欲しいとも頼んだ。

 一般人の霊には、いつでもこの本部に来てもらって、祭壇のアルコールやお菓子を頂いて欲しいとも伝える。

 最終的には聖戦霊団を組織し、その構成員として十万人を目指しているとも伝え、聖職者の霊たちはみな奮い立ってイタリア全土に散って行った。



 マリアーノ君はさっそく聖戦団の本部のトイレにウォシュレットを取りつけた。

 ロマーニオ枢機卿もウォシュレットが大いに気に入ったらしい。


 その後マリアーノ司教らは、すぐにイタリア警察のリッツイアーノ警視のところに行った。

 一部の霊たちにもついて来てもらっている。

 オブザーバーとしてNY市警からキーガン警視とあの四人の調査官たちも来ている。


 そこではまた長い時間をかけて作戦会議が行われた……







(つづく)


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