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【初代地球王】  作者: 池上雅
第二章 【成長篇】
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*** 17 特集番組 ***


 瑞巌寺では、疲労のあまり診療所を訪れる僧侶たちが増え始めていた。


 実際に法要を営んだ結果、その法要の効果や効率は、その法要に参加している僧侶の徳の合計に比例することがわかっている。

 僧都たち二十人のお経は権僧正一人のお経に匹敵した。

 また、権僧正五人のお経は僧正一人のお経の効果に等しかった。


 そこにいる僧侶たちの僧階が高い程、そして人数が多い程、可哀想な子供の霊は早く天に昇って行けたのである。


 だいたい、僧正一人と権僧正三人と僧都百人が一時間お経を唱えると、一年間現世を彷徨った子供の霊を成仏させてあげることが出来る。

 子供の霊が現世にいて彷徨っていた期間が長くなると、それだけ成仏に要するお経の時間も長くかかる。 

 だからこそ亡くなったばかりのひとを成仏させるには、僧都クラス一人で一時間ほどのお経で済んでいたのである。


 よって、法要にかかる人数とその僧階は減らすわけにはいかなかったのだ。

 それを減らしても成仏にかかる時間が増えるだけなのだ。

 つまり僧侶たちの疲労の総和は変わらなかったのである。

 故に子供霊が集まれば集まるほど、僧侶たちの疲労の色は濃くなっていったのである。


 龍一所長は、ある実験を行ってその結果に満足すると、幹部会を招集して自分の意見を伝えた。

 みなの了承を得ると、厳空や厳真と一緒に厳攪に了承を貰いに行き、厳攪の了承も得た上で、厳正大僧正や最慎大僧正への報告をお願いした。

 最慎はもろ手を上げて賛成している。

 それ以外の退魔衆らの了解も取った。

 みな嬉しそうだった。

 龍一所長は本家に御隠居様を訪ねてこれも了承を取りつけた。



 瑞祥研究所は、霊たちの供養の実体を公開した。

 まずかつて退魔衆の活躍を記事にしたがっていた週刊誌の記者が呼ばれ、その内容を教えられた。


 記者は、霊たちが写真に写らないことを残念そうにしていたが、光輝が座禅を組んでバックアップし、厳空や厳真がカメラを持つと霊たちの写真が撮れると聞いて驚いた。

 実験の結果、そうしたことがわかっていたのである。


 記者は念のため霊の写真を撮ってもらうとその場で確認し、龍一所長たちに猛然と取材を始めた。


 龍一所長は、警察の捜査を手伝っていることは極秘でお願いしたいといい、特に可哀想な子供の霊を成仏させてあげている件について詳しく語ったのである。



 その特集記事はまもなくその全国的な週刊誌に載った。

 反響は凄まじく、その週刊誌は売り切れが続出して、ネット上では何倍もの価格で取引され始めた。


 記事にはふんだんに写真が入り、成仏して天に昇って行く子供の霊の姿が写っている。

 その週刊誌は翌週にも大特集を組み、五割増しで増刷したにも関わらず、またもやすぐに売り切れた。


 まもなくその週刊誌の編集長が、系列のテレビ局の制作部長を伴って瑞巌寺を訪れた。

 またも光輝の座禅のバックアップで厳真が皆に霊たちの姿を見せ、カメラを持って子供霊たちも写して見せてやる。

 もっともあまり顔は写らないようにしているが。

 最初は疑ってかかっていたテレビ局の連中も、実際に霊たちを見て腰を抜かしている。


 予め志郎に頼んで集めていた、顔を写しても構わないと言った現世に身寄りの無いボランティア霊たちを集めて、インタビューもした。

 彼らはふわふわと浮きながら、瑞祥研究所と僧侶たちの活躍と、彼ら霊たちへの恩恵を褒めそやした。


 最後に真剣な顔をした制作部長が龍一所長に聞いた。


「いままであなた方はこの大事業を極秘で行われていました。それはなぜですか。

 そしてそれをなぜ今になって公開するのですか」


 所長が淡々と答える。


「極秘にしていた理由は、公開すると大騒ぎになって、瑞巌寺や協力してくださっている僧侶様たちに迷惑がかかると思ったからです」


 制作部長は頷いた。


 龍一所長は続ける。


「公開に踏み切ろうと考えた理由は三つあります。

 一つ目はもちろん僧侶様たちの疲労と健康状態への不安です。

 そろそろ過労で倒れる方々が出始めました。

 このままではこの事業はこの県とその近県だけで手いっぱいです。  

 わたしたちは日本全国の可哀想な子供たちの霊も救いたいのです。


 それでもうひとつの理由になります。

 わたしたちは、他宗派の僧侶様たちの協力も得たいのです。

 広くこの事業を公開して、全国的な僧侶様たちの応援を得て日本中に活動を広げたいのです。


 そのためには活動資金も必要です。

 今までは篤志家たちからの浄財でまかなってきましたが、それも限界に近づきつつあります。

 僧侶様たちはみな無報酬で法要に参加してくださっていますが、それでも交通費や食費はかかります。

 他宗派の応援を頼めばそれもただと言うわけにはいかないでしょう。


 ですから全国の方々から広く浅く浄財を集めたいのです。

 これが三つめの理由です」


 さすがはマスコミである。

 しばらく龍一所長の発言の裏付け調査をしていたが、それに充分に納得すると多数のテレビカメラが入って取材が始まった。

 厳空や厳真ら幹部クラスの上級退魔衆がテレビカメラを触ってさえいれば、カメラクルーは霊たちを写せることも判明した。


 そして二週間後、ついに瑞巌寺の特集番組が放送されたのである。



 子供の霊が天に昇って行く様子が写し出されながら、芸人出身のレポーターが絶叫している。


「ご、ご覧くださいっ! 

 こ、子供の霊が、可哀想な浮遊霊だった子供の霊が、こんなに大勢の僧侶様たちの読経の中、天に昇って成仏していきますっ! 


 こ、これで今まで約千二百柱もの子供霊が救われているとのことですっ。

 な、なんという尊い事業でありましょうか! 

 こ、こんな素晴らしい事業は見たことも聞いたこともありませんっ! 


 そ、そしてなんという荘厳な読経でありましょうかっ!

 二百人を超える僧侶様たちが、子供の霊の為に声を合わせてお経を読んでいますっ!」


 カメラは汗を流しながら真剣な顔で読経を続ける僧侶の一人をクローズアップした。

 もっとも彼らが汗をかいているのはカメラ用のライトが熱いからなのだが……


 次は地縛霊の子供たちの成仏の様子が紹介された。

 これも百人近い僧侶が地面に座り、荘厳で懸命な読経の中、天に召される子供霊の姿が映し出された。

 深夜に交通規制された車道で行われた法要の様子も紹介された。


 もちろん瑞巌寺だけでなく、最慎の宗派の僧侶たちが無報酬でこの事業に協力していることも伝えられ、宗派を超えた子供霊への愛が視聴者の感動を誘った。


 また、ボランティア霊たちが大勢でふわふわと漂って、可哀想な子供霊を探している様子も映し出された。

 今までに二十柱もの子供霊を見つけて来たベテラン捜索員霊のインタビューも紹介された。



 とうとう、同じ事故で親と一緒に亡くなった子供の霊が、親はとっくに成仏したのにひとり現世に取り残されて、二年間も泣きながら親を探す浮遊霊になって彷徨っていたケースが紹介される。

 レポーターが大袈裟に息をのんでその法要の様子を見ていた。


 すると、また上空からまばゆい光が差し込んできて、その光の中を老僧の霊がお父さんとお母さんの霊を連れて降りて来るではないか。

 最初は心配されていたのだが、先の大僧正厳空もカメラに映ってくれていた。


 レポーターが絶句した。


 その可哀想な子供の霊は、お父さんとお母さんを見つけると飛びついた。

 ママ…… パパ…… という小さな子供の声を指向性マイクがひろった。

 お父さんの霊もお母さんの霊も大泣きに泣いている。


 しばらくは親子三人で固く抱き合って泣き崩れる姿が映されていたが、もちろん顔はよく分からないようにややぼかされている。


 レポーターが本気で泣きだした。


 地面にひざをついて号泣していたが、ついに地面に額をつけて泣きだした。

 切れ切れに、「よかったね…… よかったね……」という声が聞こえる。


 やはり本職のテレビ局アナウンサーではなく、芸人出身のレポーターだけに感情を抑えることが出来なかったのだろう。


 最後に厳空大僧正は、また僧侶たちを見渡して微笑みながら頷いた。

 そうしてなんとお言葉まで下さったのである。


「天はそななたちの行いを寿いでおられる」と……


 抱き合った親子たちは、厳空に連れられて無事天に昇って行き、カメラは滂沱の涙を流す僧侶たちにクローズアップしていった……



 この番組は驚異的な視聴率を叩き出した。

 多くの視聴者の魂をその根底から揺さぶったのだ。

 それはサッカーの日本代表戦に匹敵する視聴率だった。


 見ていなかった者の為にユーチューブにも載せられ、そのヒット数はすぐに百万件を超えて、三日後には五百万件に迫った。

 テレビ局に対する反響も凄まじかった。


 ネットの世界ではさすがに批判が主流だった。

 いくらなんでもあれは有り得ない。

 どうせ視聴率欲しさのでっち上げのCGだろうと。


 警察は瑞巌寺周辺にマイカー規制を敷いたことを公表した。

 徒歩で瑞巌寺に行きたがる者も多かったが、これも当面禁止されている。

 県警の協力は心強かった。


 龍一所長は、瑞祥旅行社の協力の元、瑞巌寺見学ツアーを組織した。

 ひと組四十名で、一日三組のツアーである。

 最寄りの駅前や空港に集合すれば、瑞祥交通のバスが瑞巌寺に連れて行ってくれる。

 もちろん参加費は無料である。


 ろくに宣伝もしていないのに、このツアーの予約は一日で半年先までも埋まり、仕方無く龍一所長はツアーの数を日に五組にした。


 バスの中ではまず、若手僧侶による瑞巌寺とその事業の紹介が行われる。

 もちろん最慎の宗派の協力も伝えられた。

 予め若手僧侶らを密かに特訓していたので、説明もわかりやすかった。



 瑞巌寺前でバスを降りたツアー客は、まず見たことも無いほど大勢の僧侶がいるのに驚かされる。

 その僧侶たちは法要中か、慌てて食事をしているかのどちらかである。

 やはり地縛霊のためにバスに乗り込んで出かけて行く僧侶たちも多い。

 割烹着姿のおばあさんたちが大勢歩きまわって食事やお茶を配っている。


 やはりいつもの災害の後の炊き出しのような光景である。


 光輝はその傍らで座禅を組み、厳真をバックアップして霊の姿をツアー客に見せてあげている。

 厳真ら上級退魔衆たちは、そろそろ光輝のバックアップが無くとも、それを為せるようになりそうだと言っていた。

 光輝の健康を心配して、必死で努力してくれているのだろう。


 また哀れな子供の霊が成仏して、天空からの光の中を天に昇って行った。

 ツアー客からどよめきが起きる。ほとんどの者が泣いている。

 中には膝をついている者もいる。


 ツアー客の撮影は禁止されていたが、どうせ写真を撮っても写らないので皆あまり注意はしなかった。

 もちろんそれも予め説明してあった。







(つづく)


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