trainmystery
私は心底ムカついて、少女を睨み付ける。
「だから、その…次の駅はどこかって聞いているの!!」
何だか泣きたくなってきた。
少女は困ったような顔をしてこう答えた。
「お願いだよ。怒らないで良く聞いて、あなたは寝過ごしてしまったんだよ。指相撲でもして遊んでくれないかな」
少女は私の手を取り、目を潤ませながら懇願してくる何なんだよもう。調子狂うなあ。
「あなたのお名前は?」
人に物尋ねる時は相手から名乗るべきだと思うのだけど…
「私は舟橋 幹。あなたは?」
「私はヘッドだよ。宜しくね!」
車掌帽の男はブリーフケースを空けると、切符を仕舞い込み溜め息をついた。
いつもこうだ。
一番最初に核心をつく仕方が悪いのだろうか…?
俺の着ているブルーのジャケットからセブンスターを取り出すと指で叩く、煙草に火を付けた。
ふと、窓が開いているのに気付き、くわえ煙草のまま外を見る。
外は真っ暗だ。木々が揺れる風の音を聞いて微笑む。
今日はいい天気だ。星は見えないが夜風が心地良い、窓を下げヘッドの持っているアレは必要無いな。
セットちゃんは吃驚するほど、指相撲が弱かった。
地団駄を踏んで悔しがる彼女を見ていたら何だか和んできた。
「ねぇそのヘッドとか言うのはあだ名なの?」
こんな年頃の子が鉄道会社で働けるものなのだろうか。
「違うよ。ヘッドはヘッドだよ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「…この列車には人が居ないみたいだけど…どうゆうことなの?」
「いっぱい居るよー!!コードも居るし、ネットも居るし、マクロはまだ寝てるけど」
あだ名ばっかり並べ立てるヘッドに少しうんざりしていると、セットは今度は瞳を輝かせながらショートパンツのポケットの何かを取り出した。
それはトカゲ型のブローチだった。
私は爬虫類があまり好きではないのだけれど、そのブローチにはキラキラしたホワイトとブルーの宝石が散りばめられていて、とても美しかった。
「幹!これはね!クラゲさんの大好物なんだ
」
「え?でもこれ、明らかに食べ物じゃないのだけど」
「クラゲさんはねー水族館には居ないからねー。預かって貰えないかな!?」
良いけどコレとても大切な物なんじゃないかな…。
ブローチにしてはサイズも大きい。
「大切な物なんじゃないの?」
「違うよ。これはアナタが持っているべき物だよ」
ヘッドはそういうと、私の手を取り、そっとトカゲのブローチを納めようとしてくる。私は不意に恐怖を抱き、手を引いてしまう。