♰49 初の名指しの『悪魔召喚』
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魔物討伐メンバーは、白狼族の長老も担っているロンに一任。地上と魔界を行き来して、肉を配るとのことだ。
アズライトには、『偽装』を習得した子ども達の監修を頼む。
というか、やりたがったので任せた。
いきなり大人数が押しかけてはキンバリー伯爵邸に負担をかけすぎてしまうので、犬耳の女の子と黒豹の男の子の二人を選んだ。
必要なので呼称は、予めアズライトが決めた。
犬耳の女の子は『メイ』で黒豹の男の子は『ライ』だ。あくまで呼称。名前としては定着せず、進化も促さない。
私がつけようとしたが、嫉妬でギラついた目がヤバイ吸血鬼がいたのでやめておいた。
メイは栗色でクリクリの髪の毛をした可愛い女の子だ。アヒル唇が好評で私担当の侍女であるカリンが、直々に教育を担当するとのこと。リリンさんも猫可愛がりしそうだ。
ライは右目に大きな傷があり、猫っ毛な黒髪で隠す少し気弱な男の子だが、教育を担当してくれる執事のデイクに任せればいいだろう。
二人の年齢は12歳なのだが、栄養不足で成長はイマイチ。渋い顔をした料理長サムさんは、たくさん食べさせてやると言ってくれた。
初めての地上、初めての人間、初めての仕事にてんてこまいな様子のメイとライだが、やる気は十分。
頑張ってもらうことにした。
私は双子を連れて、むしろついてきたから放っておいただけだが、各地の冒険者ギルドで魔物素材を売って換金しつつ、悪党探しをしてみる。だがしかし、そう殺してもいいような悪党は見付からない。
いっそ、復讐か何かで悪の組織を壊滅してくれ、的な願いで『悪魔召喚』されないかなぁー、と他力本願なことを考えていたある晩のこと。
【名指しの『悪魔召喚』が発動されました。応えますか?】
「ん?」
確かに『悪魔召喚』は期待したが、名指しだと?
『祝福』さんの表記に眉間に皺を寄せてしまった。
「不味かったですか!?」
夕食後の紅茶を淹れてくれたメイが涙目になる。
「ううん、美味しいよ」
お世辞抜きでメイは紅茶の淹れ方が美味い。
鼻が利くとかなんとか言っていたので、お茶葉選びが肝心なのだろうか。
「アズライト。『悪魔召喚』で名指しされたことある?」と、魔界へ持っていく生活道具の発注作業をしていたアズライトに尋ねた。
「いいえ? 私は一度もありませんね。地上で名を残しませんでしたし、二度呼び出すような人間もいませんでしたから」とのことだ。
「んー……名前を知る方法って、他に何かある?」
「呼び出されたのですか? ルビィ様が心当たりがないと仰るなら……自分にも心当たりがないほど答えられませんね」
アズライトは、不審そうに顔をしかめた。
「追手の可能性はあんの?」と、元ディスが首を傾げる。
「有り得なくもないですね。通常、人間用の『悪魔召喚』です。第十三王の手の者が、地上に出てきて儀式をさせている可能性も否定出来ません。何より、ルビィ様が自分を名指しで呼び出す相手がいないと断言なさるなら、罠の可能性が高いでしょう」
人間のための『悪魔召喚』だが、魔物が強要することは可能だ。アズライトが言うように、私を悪魔だと知っていて名指し召喚をする人間に心当たりがない。
ジョンならまだ『取り引き中』により、祈りで呼び出しは可能だしね。
あともう一人。スティファ王女も除外だろう。祈り一つで私を呼べるんだもん。
「じゃあ拒否だね」
『祝福』さんにも、意識して拒否と答えた。
【名指しの『悪魔召喚』を拒否しました】 【『悪魔召喚』に使用された贄の魂エネルギーを獲得しました】
「うえ!?」
「え、何? どしたの、ルビィ」
「あー、いや、なんでもない」
紅茶を啜って誤魔化しておく。
何故か魂エネルギーを貰ってしまった。
私を呼び出すための贄の魂エネルギーか?
呼び出しに応じなかっただけで、私に与えられちゃったわ。呼び出し主、贄を用意したの、損じゃん。
しかも50近い。人間の生贄を50人ほど用意か。呆れてしまうが、おかげで双子の名づけのめども立つ。
他にも名づけ出来そうだ。ラッキーである。犠牲に感謝を。
……。
ほぼ詐欺な悪魔召喚よね。『悪魔召喚』は、リスキーだ。
双子に消費する魂もアズライトと同じく10個。
二人分となれば二倍の20個である。そして残る問題は、アズライトの時と同じく魔力も消費することになることだろう。
主従関係を結ぶには、別途魔力が必要だから。
アズライトの時は半分持っていかれたが、進化後の私なら二人分でも半分以上は残るかな。
『祝福』さんで予め確認してみれば、ちゃんと『主従の名づけ』で必要な魔力量を表記してくれた。
『祝福』さんのグレートアップは大事だ。サポートの親切度が違うもんね。
双子の名づけもそのうち、地上でしてと。
それから、ロン。ロンが魔物討伐を任せる者から出るかもしれないし、他で見繕うかもしれない。
でも、忠誠心を期待出来るかどうか……。
アネッサも、強さにしたら多分『侯爵』級はあるから戦力になるが、参戦してくれるとは思えない。声をかけるだけかけてみるけれど。
「しかし、名指し召喚ですか……。どこかで戦争でもしなくては贄が集まらないのではないでしょうか?」
「え? 戦争? なんで?」
アズライトの呟きのような言葉に首を傾げる。
「ルビィ様は今や『悪魔王』です。千単位の贄がなくては召喚の対価にならないでしょう?」
あっ……。言われて気付いた。高位であるほど悪魔の召喚に対価が必要になる。
「でも、リスタが言うには願いの相性もあるらしいよ?」
「願いの?」
「例えば私なら悪党から助けてくれって切実な願いに導かれて悪魔召喚されたんだよ、ジョンや王女にね。願いを叶えてくれる可能性が高い悪魔に召喚が届くんだって。だから、贄が少なくとも、願いが切実で私が叶えてあげたくなるようなら通じるんじゃないかな」
「それってつまりは、さっきの名指し召喚は罠じゃなかったってこと?」と元ディス。
「「「……」」」
その可能性が浮上してしまった。
確かに『悪魔王』の名指し召喚にしては、少ない贄だと言える。量より質で左右されることもあるが、50と1000では天と地の差だ。
願いが切実だから私には届いたようだが……。なんだったのか。
「まぁ、過ぎたことじゃん。もうよくね?」
元ジェスの言う通りだ。拒否しちゃったもん。しょうがない。
「でも、まぁ……。気になるから、調べてみようかな。大量殺人とか、大量行方不明事件とか、情報を探ってみよう」
「それならお任せを! 大事件がないか、私が掴んできましょう!」
キラッと目を輝かせたアズライトは、返事を待つことなく出かけてしまった。
「「オレらは休むねぇー」」と双子もリビングをあとにする。
「メイとライは、もう寝る?」
「あ、後片付けとぉ」
「戸締りがあります」
「終わったら一緒に寝る?」
「「!! はい!」」
仕事として任せているので、使用人見習いの後片付けもしてもらう。
人間に『偽装』しているのに、尻尾がぷりぷりと揺れているように見えた。
「「ちょっと待って! オレらも!!」」
バンと扉を開いて双子が舞い戻る。
「五人は無理だろ」とキッパリ断ると、双子はギロリとメイとライを睨んだ。
ビクリと震え上がる二人。やめんか、大人気ない。
「二人が先。双子は今度な」
「「今度でいい!? ホント!?」」
目を輝かせて頬を紅潮させる双子は大喜び。
こうでも言わないと子ども達に火の粉が降りかかるからね。しょうがない。
スキップするほどにご機嫌で今度こそ、自分の部屋に戻っていった双子だった。
「さて、メイ、ライ。仕事は慣れてきた?」
「は、はいっ! アズライト様がいつもチェックしてくれて、昨夜は合格もらいました!」
「今夜はいないのでチェックしてもらっていませんが」
「じゃあ私がチェックしてあげようか」
子ども達の担当なのに、出かけるなんてね。アズライトめ。
でもベッドに座って頑張って報告をするメイとライの話が聞けたのでよしとしよう。
翌日帰ってきたアズライトは、それを知ってショックを受けたらしいが、知らん。
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2024/04/04◎





