♰31 『魔境』でお肉集めの作業ゲー。
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【成長ポイント会得】
目を覚ませば、その表記。いつもの睡眠報酬のポイントゲットか。
そういえば『精霊の加護』って、成長ポイントを貢げるのだろうか?
なんて意識を向ければ、『精霊の加護』の説明文は出るけれど、成長ポイントは振り分けられないらしい。表記されなかった。
「おはようございます、ルビィ様。昨夜ダロンテが、料理長の料理を届けてくれました。ビーフシチューです。温めますか?」
いそいそと着替えていたら、扉越しに挨拶したロンがそう声をかけてくれたので、お願いする。
「問題児の双子は大人しくしてる?」
「はい。精霊王と大公爵の手前、大人しくしております」
名を捨てた今では、完全に力の差は明白か。精霊王相手では不利すぎるものね。大人しくもなる。
と、思ったのは甘かったらしい。部屋から出るなり、突撃を受けた。
「「ルビィおはよー!! 髪ブラシさせて!!」」
容赦ないタックルを食らい、倒れかけたが、双子はしっかり抱き締めてくる。ちょうどいい位置にあるので、肘を脳天に叩き落としておいた。
それでも離れなかった、クソが。
悔しがっていた私の代わりに、リスタが蔦で縛り上げてくれた。
「おはよう、ルビィ」
「おはよう、リスタ。見張りを頼んでごめんね。森に戻らなくても大丈夫?」
「まだお前の安全な帰還場所も決まっていないだろう」
呆れられたけど、ツンデレパパ、過保護化してるよ。
ダイニングルームで煮込まれたビーフシチューを、朝から平らげる。
双子吸血鬼は「「ホントに食べてるー」」と、しげしげ眺めてきた。
「美味しいよ?」とスプーンを差し出すと「「ルビィ……好き」」と顔赤らめたあと、どっちが先に食べるかを争い始めたので、放っておくことにした。
食後の紅茶を啜っていると、大公爵がようやく顔を出す。
「大公爵、おはよう。どこ行ってたの?」
「おはようございます、ルビィ様。キンバリー伯爵邸で色々教わっておりました」
キンバリー伯爵邸に戻っていた……?
「……迷惑かけてないよね?」
「はい、もちろんです。ルビィ様が懇意にするキンバリー伯爵の内情を把握し、現在の王国の情勢も大雑把ですが把握してきました」
ドヤァとする大公爵。
私はこの変態が変態さを披露していないか、ちょっと心配である。
「というか、聞いていなかったけど、大公爵はまだ地上に居られるの?」
「はい。魂のストックがありますので、ご心配には及びません」
そうか。大公爵は、魂の消費で地上に居られるのね。
「双子は特に地上にいるための条件はないんだよね?」
「ないよー」
「悪魔だけだろ、縛りが面倒なの」
そうだよね。
「じゃあ、問題ないなら、ロンの知る村に案内してもらおうか」
「それなのですが、ルビィ様。一つ提案があります」
キョトリと、ロンを見上げる。
白顎髭の老執事、めっちゃ似合うなぁ。
「村への賄賂に、魔物の肉を与えるのはどうでしょう? 私めが知る村や街は、どこも食料不足。口止めを兼ねて、食料となる魔物の肉を渡せば、追手が尋ねてきても知らぬ存ぜぬを貫いてくれることでしょう。それに、当分匿ってもらえるはずです」
「ああ、それもそうだね。そうなると、どこで調達しようか」
「ダロンテから聞いたところ、ルビィ様が冒険者として活躍した場所で手頃な場所がありました」
「手配がスムーズ! 有能執事だね!」
多分執事の仕事じゃないけど。
「ありがとうございます。今後も精進いたします」
誇らしげに胸を張った老執事。
これで新人だぜ?
なんか、ガビーンと大公爵がショック受けていた。
「双子も手伝ってくれる? 血抜きだけでいいから」
「え? オレらほどの高位の吸血鬼相手を血抜き要員に連れていく気?」
「働かないなら、名をテキトーにつけるわよ」
「それって手伝えば愛を込めた名をくれるってこと!? やるやるー!」
飛び跳ねて立ち上がる双子吸血鬼。そんなに名前が欲しいのか。
そこで焦りを見せるのは、顔色悪くした大公爵だ。
「ルビィ様、ノルマを教えてください。倍は、いえ十倍は仕留めてきます!」
必死か。
「大公爵も、働くでしょ。ちゃんと考えるから」
「ルビィ様の初めての名づけの名誉をください」
うるうるするな。
「そうだ、一応希望聞きたいんだけど。名づけの」と三人を見やる。
「希望って? 何それ」な元ディス。
「ほら。前の名前に寄せろだとか、長い方がいいとか。名づけは慎重にしないと」
あえて大公爵を見ないで言っておく。
「えー? 愛がこもってればいいよ、別に」
「うん、ルビィの愛があればいいよ」
うん。参考にもならない。
「ルビィ様が考えて、授けていただける名であれば、どんな短い響きであろうとも甘美でしょうし、長い響きだとしたら、この上ない喜び。一から考えてくれるのなら、それはなんと表現すべき幸福でしょうか」
美形大公爵がキラキラしながら、何か言葉を並べ立てるけど、つまりは丸投げだな、これ。まぁいいや。
ロンの提案通り、先ずは賄賂用の魔物の肉を集めるために『転移』した。
リスタは、瘴気の浄化のための道具を集めておくと、一度別行動。
レベルの高い魔物一同なので、地上の魔物なんて敵ではなく、家畜狩り同然。
「作業ゲーですね」
「そうだね」
なんて、大公爵と頷き合う。
「ねぇ、マジでここって手強い魔物がいるとこ? 別にいなくね?」
「どこにいんの?」
双子吸血鬼が文句を言う場所は、ジェラルス王国の東で最も強い魔物が生息する『魔境』と認定されている山だった。
『魔境』とは他に比べて、魔界と繋がりやすく、魔物が増える傾向にあるそうで、腕に覚えがある冒険者も命の危険にさらされる場所だ。
前にダロンテと他の冒険者パーティーと行ったけど、ダロンテに泣きべそかかれたくらいには、普通にハードルは高いエリアと言える。
崖の下は、龍のような大蛇の魔物がまぐわっていたりするし、毒霧が漂っているし、植物は薬草も豊富だが、毒草も毒キノコもわんさか。大型の魔物の穴ぐらも多く、洞窟の奥底には武器を振るうハイオークやら、大熊な魔物だって出てくる。
今回、出てきたのは、その大熊の魔物だったので、サクッと仕留めて、双子吸血鬼が血抜きをして、ロンと大公爵が捌いて『収納』してくれている。
ずぼっと肉体から血液を、傷口から丸ごと吸い出したあと、それをカプセル錠剤並みに凝縮して『収納』する双子吸血鬼。
「血のストックはいっぱいあるの?」と、素朴な疑問をかけてみた。
「うん、いーぱいある」
キョトンとしたけれど、興味を抱いたことをよく思ったのか、ご機嫌に答える元ディス。
「多い方が有利だしね。持久戦になれば、こっちのもん」と、元ジェスが言った。
「具体的にバトルとなったら、どれくらい持つストックがあるの?」
死活問題だから流石に答えないかな、と思いつつ、気になって問う。
「「数年単位で持つ」」
キリッと答える双子吸血鬼。
「ストック多いな」と、ツッコむ。
【契約精霊リスタヴィンスが転移してきます】
「あ、リスタが来る」
精霊は、契約者の元に一直線で『転移』してこれるらしい。
「ルビィ。こちらの準備は終えた。肉はもういいか?」
白い召喚陣の中から姿を現す麗しい御仁。
「うん、いいかな。ねぇねぇ、リスタ。ここでは畑って育つ?」
「ん? 種類にもよるが……まぁ土は悪くない。ただ食い荒らされるのがオチだろ」
「ルビィの植物作りへの執着なんなの?」
「食? 食の執着から来てる?」
双子吸血鬼に呆れ顔されているのだが。
「いや、ただあの廃墟の街を緑に染めたかっただけだよ。始まりは」
「「緑」」と、何故か双子吸血鬼は、片割れの緑色のメッシュに目を向けた。
「でも考えれば、魔界に野菜ってないも同然じゃん? 飢えた魔物の子に、お肉だけじゃなくてお野菜も食べさせたいな」
「おお……! なんて思いやりに満ちたお方でしょう! 子ども達が喜びます!」
感涙なロン。
「「誰一人として魔物の子どもに会ってないのに」」
双子がツッコミを入れるように、まだ会ってすらいないので、私はただただ食べさせたいだけなのである。
思いやりとかじゃなくて、貧相であろう子ども達の口にお野菜をぶっ込みたいだけ。
「お前はやたら面倒見がいいからな」
「そう?」
「そうだろ。妖精には手土産を欠かさないし、聖獣に肉を獲ってやって与えたことだってあるだろ」
やれやれと肩を竦めるリスタが零すエピソードを聞いて「「ルビィ、餌付け趣味があるんだな。オレらに血を頂戴」」と言ってくる双子に「血のストックは十分でしょ」と切り返しておく。
ふと、大公爵が静かだと思って見てみれば「ご褒美はいつでも受け取れます!」と涎を垂らしそうな緩んだ顔で胸に手を当てて待ち構えていた。
何をもらえると思っているんだろうか。聞かないけど。
「植物が育たない魔界は、やはり肉料理しか存在しない?」
魔界の料理知らないんだけど。
「そもそも料理って概念があまりないですね。岩塩はあるし、スパイスになる角もあって、味付けはレパートリーがありますが、やはり焼いて食べる肉が主流です。飢えていればなおのこと、生肉を食らうだけ」
大公爵が教えてくれた。
スパイスになる角って何。雷属性の魔物の角がピリピリするとか? ファンタジー。
「私めが案内する村が大半そうですね。魔獣の肉の味を誤魔化すために焼くことが定石。中には何とか家畜として肥やしている魔獣もいます」と教えてくれたのが、ロンだった。
「魔獣って家畜になるの?」
「ええ。野性よりは味はマシになります。しかし、それはリスクが高いのです。他の魔物や魔獣を引き付けることになります故。その村や街に、守護出来る強者がいなければ、壊滅するだけですので」
「なるほど……」
世知辛い。魔界は、ハードだ。
「じゃあ、料理器具は?」
「フライパンや鍋ぐらいでしょうね。料理するおつもりで?」
「なー、ルビィの料理の腕前は気になるけど、さっさと行こうよ」
「貧相な村に、ゴー」
双子吸血鬼が急かすので、地上でも植物を育てる話は、保留することにした。
逆ハーがわいわいしているから、ジャンルを『恋愛』にするか、いや、やっぱり『ファンタジー』のままだろ……と悩む。
『ファンタジー』のままにしておきましょうか。
2024/01/17





