♰30 精霊契約をした偉業の悪魔。
●♰●♰●
「発言、よろしいでしょうか? ルビィ様」
千年狼のロンが挙手した。
はい、どうぞ。
「悪魔であるルビィ様は、遅かれ早かれ魔界に戻る身。よって、安全な帰還場所を探しているということなのですね?」
そうなんだよ。不便だよね、悪魔って。
「要点をまとめればそうだね。生まれたての私はまだ第十三王国の隅っこの街にしか降り立てない状態なんだよ。それなのに、勝手に名持ちになったからって敵認定した第十三王に追われているし、この双子の元王の第三王にも敵認定されてしまった現状なの」
なるほど、と顎髭を撫でたあと、一つ頷くと、ロンは「でしたら、私めに、当てがあります」と言ってくれた。
「ホント?」
「嘘は言いません。自己紹介でも言いましたが、私は白狼族の長老の一人を務めていました。我が群れでは、時間の経過が早い地上へ出て修行をしたり、狩りをするのです。子育ても、ある程度魔界の空気に慣れてから、地上で行うことも多いです」
魔界に比べれば、地上はレベルが低いフィールド。
「へぇ。そういう習わし? 時間差を利用して修行……」
「精神とと」
「大公爵」
「はい、黙ります」
転生者の私と大公爵のやり取りは、スルーしてもらおう。
「じゃあロウの群れの住処を紹介してくれるってこと? それはリスキーすぎない?」
群れを危険にさらすことになる。恩返しがしたくとも、それは本意ではないだろう。
「住処も一つではありません。第十三王国の隅の村をいくつか知っております。ルビィ様が身を隠すために、予め足を踏み入れてみるのが最善かと。紅茶のお代わりいかがですか?」
「いただくよ。もうそれで恩返ししたってことにしよう」
スピード恩返し! と思いきや。
「いえ。これだけでは足りませんぬな」
キリッと断固として譲らない姿勢の老執事だった。
「狼の手も借りたいだろう、ルビィ。ことが済んだら、縁を切ればよい」
フンと鼻で笑い退けるリスタと、ロンがバチバチに火花を散らす。
仲良くしろよ……。
「では、ルビィ様。これ以上の問題に発展しないように、一先ずは第十三王国内の村へ『帰還』出来るようにしましょう。その中で最も植物が育ちやすい環境で、精霊を利用して植物を育てましょう」
何故ここでリスタに喧嘩売るかな、大公爵。
「なんで植物にこだわるか知らないけど、それより打倒魔王が先でしょ」
「あったま悪いの? お前」
ヘラヘラと噛みつく双子吸血鬼までいる……。
「役に立たないなら黙っているがいい、小童ども」
ギロリと睨み下ろす老執事は、二人がちゃっかり食べるクッキーを取り上げた。
どこもかしこも、なんで火花バチバチしてんの?
「協力関係になる気があるなら、ちゃんと仲良くしなさいよ!」
叱りつければ、睨み合いを止めたが、全員仲良くするとは言わなかった。
おいコラ!
「「とりあえず、名づけ!」」
「名づけは私が先だと言っているだろ!」
名づけ御所望の双子吸血鬼がはしゃぐ。
まぁ、名づけは待ったなしよね。名捨てをした双子吸血鬼は戦力を取り戻すことも必要だが、信用もないので主従関係で拘束しないと安心も出来ないの本音だ。
でも、問題は、名づけ行為がそう簡単なものではないということである。
【高位吸血鬼】 【名づけには残りの魔力が足りません】
一応意識を向ければ『祝福』さんがそう表記して教えてくれた。
二人分ではなく、一人分だけでも、今の私には荷が重い。
出来れば、二人同時に首輪をつけてしまいたいものだ。
見張りのために、大公爵から名づけするにも、やはり魔力が足りないと表記されている。あの戦いのあとだ。まだ自己回復が間に合わない。
「ルビィ」
呼ばれたから隣を見てみれば、リスタが手を差し出していた。反射的に握手する。
「何? リスタ」
「我の加護をやろう、契約してやる」
「精霊と契約?」
パチクリを目を瞬く。
「は? 魔物が精霊と契約?」
「聞いたことねーぞ。ルビィに負担ねーよな?」
驚いた顔をしたあと、非難するような目つきで双子吸血鬼は、リスタを睨みつける。
「フン。陰湿な呪術使いの吸血鬼と違って、呪術使いではない悪魔は浄化されん」と、リスタは言い返す。
「フツーは、人間とかにする契約?」
「ああそうだ。人間やエルフ、ドワーフなどの種族が授かるものだが、相容れぬ魔物に精霊が加護を与えた事例は聞いたことはない。与えた方が、植物の創造の件もスムーズだろう。与えてやる」
リスタは、あくまで頼みごとをスムーズに片付けるためだとツンツンする。
握手した手に、白い光の蔦が絡んだ。
「我が力を授ける」と、リスタが唱えると、その蔦は私の手に吸い込まれて消えた。
【精霊王リスタヴィンスの加護を授かります】 【成功しました】 【精霊契約完了】
精霊契約が完了したかと思えば。
【覚醒】
【特殊条件クリア:偉業を成し遂げる。
精霊王と精霊契約完了。異例の偉業である】
『覚醒』の表記が新たに加わっていた。私、サラリと異例の偉業を成し遂げてしまったようだ。
『覚醒』の元ある条件ではなく、別枠の条件らしい。他にもあるのかな。クリアすればそれだけ条件のいい『覚醒』になるのかな。でもどう考えても、すぐに『覚醒』の条件全て満たすことは無理だろうなぁ。
大公爵の条件の一つが、『取り引き』666件だもん。無理だろ。特殊条件について、あとで聞こう。
「ありがとう、リスタ」
「使い方はあとで教えてやろう。悪魔の身では、難しいかもしれんが、コツが掴めれば植物の召喚も出来るはずだ」
魔界では植物育たないのに、召喚出来ちゃう悪魔になっちゃったな。
まぁこっちは『祝福』さんがいるので、きっとすぐ習得出来るだろう。心配はしない。
「じゃあ名づけ!」
「今度こそ名づけ!」
「テーブルバシバシするな」
バシバシ叩いて急かす双子吸血鬼に「私が一番先です!!」と声を上げる大公爵。
それを見て、はぁああーとドでかいため息を吐くと、ぴたりと三人は黙った。
「熟考する。そもそも魔力が足りないから待て」
そう言うと、期待一杯に目を爛々と輝かせた美形ども。
「方針は、一先ず置いといて。早急に用意すべきは、私が魔界へ帰還する安全な場所だね。ロン、魔力が回復したら、案内してくれる?」
「御意。では、それまでおやすみになられますか? ベッドメーキングを済ませましょう」
「いいの? じゃあ、入浴もすませるよ。リスタはどうする?」
「お前を置いていけるか。いてやる!」
先ずは、休息だ。
魔法で綺麗にしたとはいえ、身体は洗い流したいと入浴のために立ち上がる。
目の前では、目を点にしている大公爵と双子吸血鬼がいた。
「何?」
「え? 風呂に入るのはともかく……寝るの? 悪魔って睡眠は要らないんじゃないの?」
元ディスが信じられなさそうに問う。
「私はいるんだよ」と答えて、同じ『祝福』持ちだった大公爵を見るが。
「多趣味ですね……?」
「なんで戸惑い全開なの」
なんでだよ。
「いえ、食事もお好きのようですから……どれも悪魔には本来不要。趣味と言って差し支えないでしょう」
「はいはい、変わり者悪魔ですよ」
それでいいよ、もう。
「ルビィは『闇喰らい』を食ったわけじゃないんだろ?」
「たまにいるらしいな。『闇喰らい』を食うと、大喰らいになるって」
「闇喰らい? それって何? 魔物?」
双子吸血鬼が言い出した単語で思い出すのは、モノクルの悪魔の種族名だ。
かっこの中だったし、隠したし。なんだろうと首を傾げる。
「闇を操る魔物だよ。食べると闇魔法が極まって、『闇操作』が可能になる」
「今じゃあ滅多に姿を見せないな、なんて言っても食べられちゃう魔物だもん。闇魔法は得意なのに、食べられるだけなんて雑魚すぎてかわいそ」
闇魔法を極められる魔物。
それはすごい。『火操作』や『水操作』などは習得出来たが、『闇操作』だけはなかったのよね。それが得られる唯一の方法か。食べられるだけの種族。
「ベルゼブブの配下にいますよ、『闇喰らい』を喰らって、大喰らいになった魔族が」と、大公爵が教えてくれる。
「さっき来てたモノクルの悪魔も喰らったから、闇を操るぜ」と元ジェスが言った。
「でもルビィは絶対違うんだろうな」と、元ディスが言えば、元ジェスはうんうんと頷く。
まぁ、極めてないからね。『闇操作』は、欲しい気もするけど。
「まったく。そんなことも知らずにルビィ様の一番とほざくとは、身の程知らずですな」と、ロンがティーカップなどを片付けつつ嘲笑う。
「食べるのが好きではないルビィはルビィではないだろうに! 逆に何を知っているのか、甚だ疑問だな!」と、リスタまで鼻を高くして見下し嗤う。
バッチバチに、双方で火花が散るので「地上で暴れたら許さないからな!」と叱りつけた。
懸念があるので、一応双子吸血鬼には街の人間の血を吸わないことも危害を加えないことも約束させる。
私の血をねだられたがつっぱねれば、仕方なさそうにストックを飲むと言った。持ってるんかい。
元キンバリー子爵邸の魔法道具は、まだ回収されていなかったので、そのまま魔力持ちは使える。
お湯を出して、シャワーだけを済まして入浴を終えると、ベッドメイキングを終えたベッドがあったので、そこに潜り込んだ。
リスタもロンも任せていいと言うので、お言葉に甘えて、眠らせてもらった。
【覚醒 特殊条件。
クリアの報酬:『植物創造』『植物操作』 獲得】
瞼を閉じれば、表記されるテロップ。
ん? それはリスタの加護で得た力じゃないのか? 『覚醒』前に、獲得? 使用可能?
それなら、念願の魔界生まれの植物創造もイージーモードかな……。
なんて考えている間に、眠りに落ちた。
逆ハーは大変。
いいね、ありがとうございます!
2024/01/16





