♰23 蜘蛛の糸と恩返しの白い狼。
2話連投の2話目。
主人公視点→ ●♰●♰●
三人称視点→ ○♰○♰○
●♰●♰●
魔界に戻るなり、赤いテロップは表示されなくなった。なんだったのだろう。
「なんじゃこりゃ」
『魔力感知』と『索敵』で周囲を警戒していたが、点々と気配がある。
それは一先ず置いといて、目にする光景である。石積みの建物が、白い糸まみれになっているのだ。
【蜘蛛型魔物の糸】 【拠点が魔物に占拠されつつありました】
「拠点登録されてたの? この廃墟の街」
どうやら、あの帰還推奨の理由はそれにあったらしい。
いや、まぁ、私が地上から降りてくるのは、この街だけだから他の魔物に占拠されていると、危険だから阻止するに越したことはないんだけども。それならそうと表記してくれればいいものを。
地上と魔界が離れているから、それは無理だったとかかな。
「わぁー……綺麗で頑丈な糸ね」
手に触れてみれば、ワイヤーに近い糸だった。ワイヤーよりも硬そうだが。
【魔力が通っています】 【感知されました】
おっと。蜘蛛の糸に引っかかったと言うわけか。
私の『魔力感知』でも、気配が一つ近付いてくるのがわかった。
よく魔物のお客さんが来る廃墟の街ね。…………私狙いだったりするのかしら。
気配が近付くと、巨体が見えて来た。黒い巨体の蜘蛛だ。
口から糸を吐き出してきたので、反射的に風魔法で両断した。硬さに負けないようにそれなりに力んだので、両断に成功。
蜘蛛型の魔物は一瞬怯んだが、再度、糸を吐いた。
迂回して、そこからも糸を吐き出すが、私は風魔法でザックザクと切り裂く。
強くはないな、この魔物。
そうこうしているうちに他の気配もこちらに近付くので、【弱点:火】と表記されているので、火を操作して、光線のように頭を打ち抜いて仕留める。
次から次へと巨大蜘蛛が襲い掛かって来るので、最低限の動きだけで火の光線を放っておく。かっこつけて、指パッチンしたりして。伸ばした人差し指の先を、フッと吹いて決めポーズ。
周辺の気配は、もう消えた。
「なんでまた、蜘蛛の魔物が住み着いているのかしら? あの大公爵も戻っていないだろうけれど……」
しゃがんで糸を摘まみ取る。すっかりたるんでしまったが、魔力を流してみれば、ピンと張った。
「……これ、何かに使えないかな。もったいないよね」
街中に糸が蜘蛛の糸まみれになっているために、その量はすんごい。
あれよね! これは最早、糸使いの技を習得するしかない!! なんとなくかっこいいと思うから、前世の自分は好きだったと思う!
…………どうすれば習得出来るの? 教えて、『祝福』さん!
無茶な要求かな、と宙を見つめたが、やがてテロップが表記されたので、パッと笑顔になった。
○♰○♰○
キンバリー伯爵が治める『トレイニン領』にて。
分厚いマントをスッポリ頭から被った人影が、闊歩する。
スンスン。時折、白い髭に埋もれた鼻をひくつかせて、匂いを確認する。通行人を避けながら、迷いない足取りで進むと、キンバリー伯爵邸に到着した。
門番は、不審な白い髭の男に用件を尋ねた。
「こちらにいらっしゃる美しい赤い髪の女性に会いに参った。……今はいらっしゃらないようだな」
邸宅を見上げて、凛々しい低い声を零す男。
「ルビィさんのことですか?」
心当たりなら、『大事な客人』として扱われているルビィが浮かぶ。
「名前までは知らぬ。ただ、恩があって、恩返しをしたく参った」
門番は、対応に困った。
不審な男ではあるが、恩返しとなると追い返せない。
何故なら、伯爵邸の者がルビィを『大恩人』と呼んでいるところを聞いたこともあったからだ。
そこでタイミングが悪かったのか、よかったのか、領地の視察に向かっていた領主のジョンの馬車が戻ってきた。
手前で止めて、素直にルビィの客が来たことを伝えて、指示を仰ぐ。
「ルビィの客人だって?」
ルビィから客人が来ると聞いていれば違ったが、つい昨日魔界へ一時帰還したルビィからは何も聞いていない。護衛で乗車しているダロンテと怪訝な顔を突き合わせた。
ダロンテは先に降りて、詳しい事情を尋ねようとしたが、咄嗟に帯剣している剣の柄を握ってしまう。
マントを被った男。強者だ。汗を噴き出すほどの緊張で固まった。
男は静かに見据えると片手を上げる。骨張った老人の手は、異様に黒い爪が尖っていた。
その動作に、ダロンテはビクンッと身構える。それが精一杯の反応だった。
「落ち着け、騎士殿。私は赤い髪の女性に恩返しに参っただけ。危ないところ、命を救われた礼がしたいのだ」
敵意はないと、男は伝える。
「危ない、ところ?」
にわかに信じられないと、ダロンテは聞き返す。
「(これほどの強者を救った? いや、ルビィならあり得なくもないが……。だが、この威圧……人間じゃないぞ!)」
ダロンテの野生の勘は鋭い。男は人間ではないと、直感で気付いた。
「魔物との戦いに苦戦していたところ、かの方に救われた。迷惑というなら、かの方と再会出来る場所だけでも教えて欲しい」
ルビィを丁寧に『かの方』と呼び、頭を下げる男。身構えたダロンテも、僅かに気が抜ける。
「どうなさったの?」
そこで伯爵邸から顔を出すリリン。流石に身重のリリンの身体に障るのじゃないかと、ダロンテは焦った。この強者と会わせてはいけないと青い顔をした。
「あの貴婦人から、かの方の匂いがする……」
スンスンと鼻を鳴らして男は、興味を示す。
窓から見ていたジョンは、慌てて降りた。
「ルビィなら、我々も『大恩人』と慕う方だ!」と、注意を自分に向けた。
その隙に、ダロンテはリリンに邸宅に戻るようにジェスチャーを送る。
「では、お仲間ですな」と、顎から垂れ下がる白い髭を撫でる男は笑う。
ルビィを恩人と慕う仲間同士。
「しかし、ずいぶんとこちらに馴染んでいらっしゃる方のようだ」と、またスンと鼻を鳴らして匂いを確認する。
「(どうすればいい? ルビィから何も聞いていないから事実かどうかもわからない。ダロンテがずっと警戒しているから人間じゃない可能性が高い。人に擬態する魔物なんて、高位な魔物だ。こちらを騙している可能性がある。ルビィは魔界でも敵がいるし……)」
必死に考えるジョンは、ふと気付く。
「(こちらと言ったか? まさか、地上で会った魔物か? 最近武器調達で出掛けてはいたが……)」
その際に会ったのかもしれない。ジョンは確認することにした。
「ルビィとはどこで?」
「『氷結の森』ですな」
ギョッとして、ダロンテと顔を合わせた。
「……えっと……マンモス型の魔物?」
「ええ、マンモスの魔物ですな」
「……美味しかったです」
「ああ、お食べになりましたか。あの肉は美味でしたな」
ホホホッと笑う男。
ジョンもダロンテも、『氷結の森』からルビィがマンモス型の魔物の肉を持って帰ってきたことを覚えている。
――マンモスの魔物の肉! でっかい白い狼が分けてくれたんだよ!
にっこにこと上機嫌でルビィが笑顔で言っていたのだ。
ジョン達は、白い髭を凝視した。それを撫でる黒い爪も見て、彼がその白い狼に違いないと確信した。
「(ルビィが笑顔で話したし……肉を分けた魔物というなら、いいか)」
ジョンはとりあえず、家に入れることを決断したのだった。
毎日更新再開★
入れ違いで三章が完結して、しばしお休みになる
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「気付いたら組長の娘に異世界転生していた 冷遇お嬢。」も
よろしくお願いいたします!
ジャンルは恋愛ですが、和式魔法でバトル!
こちらの『悪魔転生』も、そのうちしっかり逆ハーになるかと。
いいね、ブクマ、ポイント、よろしくお願いいたします!
2024/01/09◇





