♰22 【魔界へ帰還推奨】のテロップ。
2024/01/09
更新再開★
2話連投の1話目。
●♰●♰●
「お帰りなさいませ、ルビィ様」
そっと声をかけるのは、侍女のカリンだ。
パッチリと目を開いて、背伸びをしている間に、カリンはカーテンを開けていく。
「おはよう、カリン」
「おはようございます。遅いお帰りでしたか?」
「うん。急用が入ってね」
「そうでしたか。料理長がいらっしゃるなら、昨夜の夕食分も多めに作るそうですよ」
「いいのにー、食べるけど」
「ではそのように。入浴しますか?」
「するー」
カリンのお世話を受けて、朝から入浴。極楽極楽。
朝食は、ジョンとリリンと一緒に摂る。
「ジョンは、ブルーライト公爵のこと知ってる?」
「ブルーライト公爵は、この王国でも由緒ある公爵家だな。もちろん、貴族どころか平民も知っているほどに有名な名家だ」
「そっか。そのブルーライト公爵の結婚話は聞いてない?」
「え……まだ聞かないが……ど、どうしたんだ? ルビィ……」
「どうして顔色悪くするの?」
ジョンとリリンが顔色悪くして、ポロッとフォークからウィンナーを落としてしまう。
「た、確かにブルーライト公爵は、去年、スタンピードの功績で嫡子が公爵の座を得たと聞いたため、未婚だが……隣国だったか、王女が婚約者だったはずだ。な?」
「ええ。幼い頃からの婚約関係にあると聞いたわ……だから、略奪はよくないわ」
「どうして私が略奪する話になるの???」
この夫婦、いつから想像力を豊かに……。いや前からだったかもしれない。
「その王女様に会ったから聞いてみただけだよ」
「会ったのか!?」
「うん。とても綺麗な王女様だったよ。そんな王女様が嫁ぐなんて、その若き公爵様も家が安泰だろうね」
話題の一つとして、というのもあるけれど、ジョンの願いの対価として、私は知識を得ないといけない。
ジョンからのその対価も、円形のケージが徐々に溜まりつつある。
正直、魔界に居座るためには、この『取り引き』が健在の方が都合がいいので、ジョンから聞き出すのはこれくらいにしておこう。
スティファ王女様の『取り引き』もあるけれど、多い方が安心だもの。
「ルビィは精霊王様を口説いているんじゃなかったの?」
「口説いているよ? 今日も行ってくる」
リリンに問われてケロッと答える。
口説いているというか、もう懐いて居付いている状態だけどね。
そういうことで、精霊の森へ。
「また来たのか」と露骨な嫌そうな顔をされたが、スルーである。
だって追い出さないもん。ツンデレだもん。
サクッと昨日あったことを話して、『悪魔召喚』の話題に入った。
「魔力には感情も込められると云う。願いを込めたとなれば、それに繋がる悪魔に召喚が求められるのだろうな。相性というやつじゃないか」
「なるほどねー。それは、ちょっと納得」
相性というやつで、願いに沿った応えが出来る悪魔へ召喚要請が来るということだ。
そうなると、大抵は願いに応えてくれる悪魔が『召喚』されることになるな。
「それにしても、魂をねだらずにまた地上に居座るとは……これまた悪魔らしくないな。いや、ずる賢いというなら、悪魔らしいのか?」
わからないと眉間にシワを寄せるリスタ。
「うへへっ。ごたごたするだろうから、ご馳走をもらうのは三ヶ月後に様子見に行くことにしたからね。そのあとも地上に居座れる寸法よ!」
「悪魔は魂を奪って消費すると云われている存在なのにな」
「えー? 私、別に誰にもそんなこと言われてないしー? そうするつもりないよ。私がしたいように、私の都合がいいことをするのだ」
えっへん。
異世界から悪魔転生してきたが、神様に言われたわけでもないし、親もいないのでそうする使命だと思うこともない。
『祝福』さんだって、そんな指令を言ってこないのだ。特に、使命だとは思えない。
親と言えば、ジョンだと前に冗談で言ったことあるけれど。
育ての親となると、こういう話を教えてくれるリスタかもしれない。
「リスタは私のパパだ」
「何を唐突に気色悪いことを言う!?」
「お父様♡」
「やめんか! そうやって『魅了』をかけてくる娘がいて……」
「?」
魅了がなんだろう。キョトンとしたら、リスタも言葉を途中で止めた。
「……何故『魅了』をかけてこない?」
「え? かけてほしいの……?」
「いや! そういうわけではない!!」
よくわからないやり取りをして首を傾げるが、リスタもリスタでわからなそうに顔をしかめて首を捻っている。
毎日通い詰めて、リスタと植物対談をしつつ、妖精や聖獣とじゃれていた。
悪魔に聖なる獣が懐いてもいいのかと思ったけれど、リスタが呆れ切ったげんなり顔をしても、親聖獣が子ども聖獣を好きにさせているので仕方ない。
可愛いな。私のテクで、ゴロゴロ鳴かせてやるわよ。
白虎に似た聖獣の子ども達は、上機嫌に喉を鳴らした。
妖精にも集られているので、最早ツッコミが間に合わないのかな。
そんな吸血鬼対策の武具を揃えて、精霊王の元に通うまったり日々を過ごしていたけれど、ふと、赤いテロップが表記された。
「んっ?」
赤いテロップなんて穏やかじゃないな。
【魔界へ帰還推奨】
タイマーまで表記されて、30時間が秒数から減り始める。
「どうした? また『召喚』か?」
「いや……なんか魔界に戻らないといけないみたい」
「なんだそれ? 『取り引き』で地上に滞在出来るんじゃなかったのか?」
「うん、そうなんだけど……なんでかな」
『祝福』さんは教えてくれない。
「一度帰るよ。『取り引き』してる人間に、何か負担がかかったら嫌だし」
「……帰るのか?」
リスタが面食らった顔をするのに、ニヤリ。
「寂しい?」
「なっ! そんなわけあるか! 顔を見なくて済むなら、清々するわ!」
「私は寂しいのにぃ~、リスタお父様はつれないねぇ?」
妖精達と頬擦りすり。
「誰がお父様だ!」と、プンスカするリスタ。
「いつかまた来るからね、また相談に乗ってね? じゃあね、リスタ。みんなもね」
ひらりと手を振って『転移』で、キンバリー伯爵邸に戻った。
「わっ。ルビィ様、おかえりなさいませ」
部屋には、掃除をしていたカリンがいた。
「お掃除ありがとう、カリン。ただいま。すぐ出るけどね」
サッと視線を走らせれば、ジョンが執務室にいることがわかったので、足を向かわせた。
「ジョン。ごめん、至急確認したいことがあるんだ」
「ルビィ! どうしたんだ?」
仕事の手を止めてくれたジョンは、すぐに人払いしてくれた。
「身体に異変はない?」
「身体……? 私は別に何ともないが……」
「そう……ごめんね、ちょっと一度魔界に戻らないといけないみたいだから、『取り引き』に支障が出たのかと思ったの。違うならいいんだ」
『取り引き』中なのは、二件。ジョンと先日の王女だ。
でもどちらも、特に対価の支払いが【未払い】と表記されているだけで、問題は表示されない。対価のケージも異変なし。
別の問題だろうか。
エラーだろうか。『祝福』さんに? 首を捻る。
しかし、赤の警告色は危機感を覚えるものがあるので、大人しく時間が来るより前に一時帰還しておこう。それが無難だ。
「念のために戻るわ。数日ぐらい空ける」
「大丈夫か? また吸血鬼とかに襲われるんじゃ……」
「フフン、吸血鬼対策も準備万端よ! 二匹まとめて、新武器の餌食にしてくれるわ!」
ジョンの心配はご無用と、すでに武器は手に入ったと胸を張っておく。
「そうだった、ジョン。ブルーライト公爵が結婚するとかいう情報は仕入れておいてくれるかな?」
「ん? ああ、例の王女様か? わかった。君がそう言うのなら」
守秘義務な感じで、王女様の嫁ぎ先については探る程度だけに留めて、詳細は言わないでおこう。
「リリンさんにも挨拶しておくね。ごめんね、全然リリンさんの暇潰しに付き合えてないや」
「謝ることない、気にかけてくれているだけでも十分なのに」
サロンにいることは『魔力感知』でもわかったので、そこへ向かう。
刺繡をしてまったり過ごしていたリリンさんを後ろからギュッとして、魔界に戻ることをサクッと説明。
心配された。過保護なキンバリー伯爵夫妻である。
「いってきまーす」
ひらりと手を振って、【魔界へ 帰還】した。





