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『悪魔転生』のちに『赤き悪魔女帝』  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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15/57

♰15 身重の妻が第一だからな。

   ●♰●♰●



 地上に逃げるのは最善ではあったが、だからといって安直にキンバリー伯爵邸に転移するのはマズいと思った。万が一に、地上までついて来れる悪魔があそこにいたら、キンバリー伯爵家に迷惑をかけることにある。

 先ずは、誰もいない『氷結の森』に来たが、傷口が凍りそうだ。


 こんなことになるなら、ポーションをもらっておけばよかったな。

 傷が痛いや。まぁ、怪我にしては痛みは小さいような気もするけども。痛いものは痛い。


 念には念を入れて、訪れたことのある街を点々と『転移』してから、キンバリー伯爵邸に行こう。



 横たわった身体をのっそりと起き上がらせると、こちらを見ている【千年狼】と目が合った。

 静かに水色の瞳で見据えている真っ白なもふもふの大きな狼。神々しい白さに見惚れた。


 名前の通り、千年生きている狼型の魔物だろうか。



 どのくらい見つめ合っていたかはわからないが、「ウモォオオ」と聞き覚えのある雄たけびに意識が戻される。

 食欲旺盛なマンモスじゃん。うわ。私の血を嗅ぎつけて、食べに来る気?

 ごめんこうむる、とすぐに『転移』で離脱した。


 無作為の順番で選んだ街へ次々と『転移』しては、一個前に戻って、またひょいひょいと移ってから、キンバリー伯爵邸の私の客室へ『転移』する。

 誰もいない。

 『索敵』と『鑑定眼』で探れば、リリンさんの護衛についているのか、そばにダロンテがいた。

 このボロボロの姿を身ごもったリリンさんに見せるのは、目に毒だ。

 だから、『転移』の応用で『逆転移』をして、ダロンテを目の前に召喚する形にした。


「なっ……!? ルビィ様! 一体どうしたんだ!」

「しっ。ポーションちょうだい」


 リリンさんが来る前にくれっと手を出す。ダロンテの動揺以上に、リリンさんにも衝撃的な怪我だろう。


「あ、は、はい。傷が深いようですので、直接かけますよ」


 直接かけた方が効果的なんだって、ポーション。ジャケットを捲って、風穴の空いた傷に注いでもらった。しみるぅ~。


「一体何が……?」

「んー、追手に連れてかれて、国王の前でリンチに遭った?」


 省略すると、こうかな。

 なんか初めから負けたみたいだな、違うぞ、不意打ちで連れていかれただけなんだ。まぁ、言い訳に過ぎないか。


「なんで疑問形……」


 そこで、扉が叩かれた。リリンさん達だ。


「ルビィ? 帰っているの? ダロンテもいる!?」


 ダロンテが急に消えたから、私が戻ったと疑って部屋に来たみたいだ。

 不審な行動に、不安を抱いている様子。マズいな。お腹の子に悪い。


「ありったけもらえる? ポーション。追手がこっちに来るとは限らないがくれぐれも気を付けてね。なんか忙しくしてるとだけ言っといて」

「そんな! オレに何かできることは」

「リリンさんを守って」


 略奪者の如く、ダロンテからありったけのポーションを受け取り、私が次に『転移』したのは、冒険者ギルドのある街だ。

 ここならボロボロの姿でも、特に文句も言われることなく宿をとれる。

 ちゃんとお金はあるのだ。魔物討伐の件から始まって、冒険者業で稼いだのである。


 シャワーで血を洗い流してスッキリしてから、『収納』にしまった予備の服に着替えた。


 ベッドにどっかり座って、『索敵』に『成長ポイント』を振り分けてグレードアップしておく。

 これで隠蔽された罠も、見抜けるだろう。あとは、魔法を感知する罠を掻い潜るために、必要な武器を適当に調達しようか。ちょっと奮発する方が、ちょうどいいのかも。


 さっさと問題を解決しないと。

 またうっかりしていると、あっという間に地上の時間が過ぎて、とっくに出産したという状況にもなりかねない。

 私には、安静にしているリリンさんの話し相手をするという目標があるのだ!


 とりあえず、寝よう。

 ポーションで傷は塞がっても、体力面が回復していないようで、『HP』は完全には回復していない。回復してからでも遅くはないだろう。食事もいらないし、ベッドに身体を沈めて眠った。


 それにしても、即席とはいえ、あの数を個々で『魔法無効化結界』を張ってやるなんて、私ってばすごいよねぇ。スリリングに気分がハイになっていたのは否めないが。

 自爆も覚悟の大爆発だったもんなぁ。いやぁ、派手に爆破出来て満足満足、すやぁー。



 待って? ダロンテの奴、ちゃんとリリンさんを宥められた?

 なまじ勘が鋭いリリンさんを、ダロンテが誤魔化しきれるかな……。

 ジョンも一緒になってあわあわと不安になっていそう。心配になってきた。



 真夜中であろう時間帯に起きた私は、一度キンバリー伯爵邸に戻ることにした。

 せめて、ジョンに伝えようと思って。

 誰もいない私の部屋。気配も姿と一緒に隠蔽しているので『魔力感知』でジョンの気配を辿る。


 執務室に一人でいるから、仕事か寝落ちかのどちらかだろう。窓から降りて、一階の執務室の窓を叩く。


 ギョッと目を剥いたジョンは、速足で窓に駆け寄って開いた。


「無事だったか!」

「しっ! リリンさんは大丈夫?」

「い、いや、大丈夫だが……。君の方が怪我をしていたと聞いたぞ」

「ええー。ダロンテ、話したの?」

「血の匂いをリリンが嗅ぎ取ったから、ダロンテは白状するしかなかったんだ」


 あのあと、部屋にリリンさんが入って、血の残り香が妊婦の鼻を刺激してしまったということか。それなら白状するしかない。変に隠しても、不安だろうしね。いやどっちもどっちかな。


「まぁ、しょうがない。私はなんとか魔界の問題を片付けるから、ジョンはくれぐれもリリンさん第一にね」

「君は……! 自分よりリリンの心配なのか」

「当たり前じゃない! 身ごもってるのよ!? 何身ごもらせた分際で何言っちゃってんの!?」


 髪引っこ抜くぞ!? 目をつり上げたら、手を振って宥めてきた。


「い、いや! 身重のリリンを軽視しているわけではなく! 君だって王国の手の者に追われたりしてるじゃないか! 怪我も負ったと聞くし、名持ちの君が……」

「しょうがないじゃない。うっかり足を掴まれて、そのまま強制的に転移された先が、王の謁見の間よ? あなたなら、この国王の前に引きずり出されて、近衛騎士達の剣先を向けられておいて、無傷で帰れる自信あるの?」

「な、ない……」


 想像しやすい例えを出せば、青ざめた顔で答えたジョン。まんまだけどね。


「それで生き延びた方が驚きなんだが……」

「ふふふーん。謁見の間を大爆破してやったわ!」


 ドドーンと胸を張っておく。


「火に油! 完全に敵認定じゃないか!」


 頭を抱えるジョンだった。

 いや、やる前から手遅れだったんだよ。


「とりあえず、なんとか片付けるよ。それまで離れておくから。リリンさんは安静にしてね? 忙しいからって放置するんじゃないぞ」

「待ってくれ、ルビィ。まだ地上にはいられるはずだろ? 私との『取り引き』が終わっていないおかげで。なら、ほとぼりが冷めるまでここにいればいい」


 引き留めるジョン。

 ちなみに、リリンさんとダロンテとの『取り引き』は無事終了表記された。

 二人の方は、対価を支払えたと言うこと。あとは、知識を対価にもらうジョンだけ。


「わざと対価を渡さないのは、『取り引き』違反になりかねない。ジョンが何らかの罰を受けては、リリンさん達も悔やみきれないでしょ」


 『取り引き』を反故にすれば、罰が下るらしい。地獄の不幸が訪れるとか。身内に子が出来たなら、余計避けたいものだ。

 ジョンは納得いかない顔をするも、青ざめて引き下がる。


「ちゃんとジョンの対価をもらいに戻って来るから」

「……本当だよな? 今生の別れにはならないよな?」


 フラグだからやめて。


「当たり前でしょ。出産には立ち会えずとも、子どもに悪魔の祝福をしてやるんだから」

「あははっ。ルビィの祝福か。とんでもない大物になりそうだ」


 悪魔の祝福だなんて不吉なことを笑顔で言ってやれば、ジョンは明るい顔になった。


「遅くても半年後までにはもう一度顔出したいわ」

「半年以内か、わかった。くれぐれも気を付けてくれ。私に出来ることは何でも言ってくれよ」

「うん。そっちもくれぐれも奥さん第一ね?」

「ははは、君は妻第一だな。私の妻だからな?」

「身ごもった妻を大事にしない夫は地獄に堕とすからね?」

「悪魔に言われると恐ろしすぎるが、肝に銘じるよ……」


 冗談交じりに言い合っては、握手した。

 長い別れの予感に、心細そうな表情を一瞬出したジョンだったが、微笑んで私を見送った。



 


いいね、ありがとうございます!

2023/12/15

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