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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

此岸より愛を込めて花束を

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クソゲーマニア、神ゲーに挑まんとす

 クソゲーをクリアしてから暫くは大抵のことは許せる気分になる。
今の俺にとっては「夏休み中に羽目を外し過ぎるな」の一言で終わる言葉を数十倍に希釈して語る担任の言葉も笑顔で流せる程に寛容だ。少なくとも担任の言葉は数分前の言葉と矛盾していないし、長いだけでいちいちカンに触る訳でもない。世界のためなら一分ほど前まで殺す事に反対していたモブキャラを殺す事を厭わないフェアリア(アバズレ)の超理論に比べればなんと真っ当な言葉だろうか。

「……という訳で、俺の目の黒いうちは夏休みデビューなんてしようものなら問答無用で三者面談だからな、覚悟しとけよ。はい解散!!」

 その言葉に、ゾンビの集団の方がまだ活力があるも言える程に無気力オーラが漂っていたクラスに俄かに活気が取り戻される。

夏休みどこかに出かけよう。
今年の夏はこれが流行る。
彼氏と旅行に行く。
今年こそは彼女を作る。

そんなリアルが充実しきった者たちの話題が聞こえると同時に、そうではない人種の話題も聞こえてくる。

(………今年の夏はどうしようかな。)

 去年……高校一年の夏休みはぶっ通しで大作クソゲーを三本やり込むという、自分でも頭のおかしい夏休みの過ごし方を敢行した訳だが、フェアクソという極大のクソゲーをクリアした今の俺では並のクソゲーでは満足できない、そんな確信があった。

(……まぁ今日寄るつもりだったし見てから決めるか。)

フェアクソの攻略で暫く寄っていなかったゲームショップに向かう事を決意し、俺は荷物を纏めて下校するのだった。

「……………」

俺をじっと見つめる視線に気づく事なく。











 クソゲーとはなんぞや。数多のクソゲーを制覇してきた俺から言わせて貰えば、クソゲーとは「理不尽」である。
プレイスキルでどうしようもできない要素、例えばストーリー、例えばバグ、例えばゲームシステム……そう言った悪しき点をどれだけ積み重ねられるかがクソゲーの指標であると俺は答える。
その点で言えば難易度がバカみたいに高いゲームは俺の定義するクソゲーとは異なると言える。
……まぁフェアクソのようなバカ難易度+理不尽要素という王水クラスの劇毒も世の中には存在するのだが。

その点で言えば、このゲームはクソゲーの対極、文句無しの神ゲーと言えるだろう。

「シャンフロ、か……」

「おいおい、クソゲーハンター君が大作神ゲーに手を出すとか明日は戦車でも降るんじゃないか?」

 槍ですらないのか、とパッケージを持ったまま半目で振り向けば、この店の主人たる女性が愉快そうに俺を見ていた。俺が購入するゲームはことごとくこの店が持て余す在庫余り(クソゲー)ばかりのため、いつしか雑談を交わす程度には顔を知られたのだ。

「まぁそうっすね……フェアクソをクリアしたから暫くクソゲーはお腹いっぱいというか……せっかくの夏休みだしたまには大衆に絶賛されるゲームをやろうかな、と。」

「え、マジでフェアクソクリアしたの?あれソロプレイだとラスボス戦で最低二時間かかるって聞いたけど。」

「素手で顎を殴ったら三十分で倒せましたよ。」

「貫禄のレジェンドだなぁ。それをクリアしちゃう陽務ひづとめ君も大概だと思うけど。」

 個人経営のゲームショップであるここ「SHOP ロックロール」には数多くのクソゲーが眠っている。
フルダイブのVRゲームが主流となり、ディスプレイを使用するゲームがレトロと言われる昨今であるが、VRゲームがまだ発売されて間もない頃は玉石混交という言葉が生ぬるい程に混沌とした綺羅星の如くゲームがリリースされていた。神ゲーが一割とすれば四割が普通ゲー、五割がクソゲーという泥のスープに石と僅かな宝石が沈んでいるかのような当時の環境は俺のような異端者クソゲーマニアからすればある種の神話時代だ。

「にしてもシャンフロも凄いよねぇ。未だに売り切れるし、多分明日あたりからまた売れるだろうねぇ。」

「岩巻さんは今年の夏はどうするんスか?確か今年は豊作だー!とか言ってましたけど。」

「うん、今月末から一週間この店は臨時休業するから。」

「あっ……」

察した。
俺、陽務ひづとめ 楽郎らくろうがクソゲーを主食とする偏食主義ならばこの店の女主人たる岩巻いわまき 真奈まなは乙女ゲーを主食とする偏食主義者である。
ロックロールが不定期(ある種の規則性はあるが)に休業する理由は、常連は大体知っている。

「まぁいいや、これ買います。」

「はい毎度ー、ゲームの前はトイレを済ませてしっかり栄養補給だぞー。」

「二時間ごとに休憩も忘れずに、ですよ。」

 互いに重度のやり込みゲーマーであるが故に、VRにおける注意を互いに言い合って俺はロックロールを出る。
帰り道の途中、俺の通う高校の制服を着た女子とすれ違ったが、ビニールの中のゲームに心奪われていた俺はそれが誰なのかを気にすることはなかった。








「いらっしゃーい……おっ、やぁやぁ君かぁ。」

「朗報だよ、あの悪食ゲーマーがついにメジャーゲーをやるってさ。」

「そうそう、前に君に勧めたシャンフロだよ。」

「ふふふ、陽務君はプレイヤーネームは統一する派だからね、探せば見つかるんじゃないかな?」


「……いやぁ、恋する乙女は強いねぇ。」
前提として作中世界では「外でサッカーしてくる!」と「家でゲームやるよ!」はほぼ同じ意味で受け入れられています。
Eスポーツとしてゲームが定着した、「とりあえずアマチュアゲーマー」と名乗っておけば名義上は無職を免れられるニートに優しい世界です。
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