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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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未踏の金鉱山に人は集る

なんか怖いのでSNSは見ていない。
あれからどれくらい経ったか、大歓声と共にGGCの二日目は終了し、ある者は熱狂冷めやらぬまま帰路につき、またある者は翌日の三日目に備えてホテルへと戻った。

そして我々爆薬小隊(ニトロスクワッド)withジョン(ジェーン)・ドゥはと言えば、GGC二日目に行われた様々な大会の参加者による打ち上げパーティに誘われていた……とはいえまだ時間に余裕があるので自室待機ではあるが。

「……つかれた」

ここまで消耗したのはいつぶりだったか……九州の左端までクソゲーの在庫を探しに行った時くらいかな。
限界まで精神を尖らせたシルヴィア・ゴールドバーグとの戦いも理由ではあるが、なにより大量の注目がキツかった。顔を隠していたとは言え通常運転なペンシルゴンがおかしいんだよ。

「いっそこのまま寝てしまおうか……」

いや、ライオットブラッドの多段摂取で眠気は完全にトンでしまっている、寝るのは少々難しいだろう。
俺のプライバシーを守ってくれていたヘルメットを脱ぎ、ベッドの上でゴロンゴロンと転がる。

打ち上げ、打ち上げかぁ……確かこのホテルのパーティフロアを貸し切るだとかなんとか、という話らしいがやべーなプロゲーマー。カッツォが時々ポロっとブルジョワジーを匂わせる事はあったが、ステータス「資金」のパラメータが高い。

「うーむ、この明らかにたかそうなベッドともお別れかー……」

なによりもコイツとお別れなのがつらいところだ、俺はルームの一角に鎮座するVRシステムユニットを撫でる。
愛着が湧いた……というわけではないが、コイツを使ってのゲームプレイは中々に快適であった。伊達にデカイ図体と業務用なお値段はしていない、と言うべきか。

帰宅したら操作性のズレをリハビリしないといけないなぁ……流石にシャンフロ内で試すのもあれだし、帰りになんか別ゲーでも買おうかな。

「なんかいい感じのゲームあったかなぁ……」

最近はプレイする前から邪気を発するクラスの劇毒(クソゲー)は稀だからなぁ、その代わりに一見すると面白そうに見える地雷タイプが増えたのだが。
その手のクソゲーは俺の場合、初動で遅れてしまう。少なくとも誰かが踏み抜いて爆発しないと気づけないのだから。

「……調べるか」

お、これとかいい感じにクソっぷりが……いやこれどちらかというと只のバカゲーだな。なんでプレイヤーがケーキを作るとモンスターがダメージを受けるんだ? 食べさせているわけでもないのに。
PVとかを見る限りプレイヤーはモンスターに一切触れてないように見えるが……超能力?

「そろそろ本格的に洋ゲーを開拓してもいいけど、あっちはあっちでクソゲーの定義が違ってくるからなぁ……」

なんというか、洋ゲーにおける「クソ」というのは……凄いのだ。フルプライス分の金でひたすら消しゴムだけを買ってもまだそちらの方がまだ有意義に思えるような、それはそもそもゲームとして成立しているのかと聞きたくなるようなものが割と発掘される。
お前これ20世紀の技術縛りで作ったんじゃないかと詰問したくなるようなゲームとかがあるのだ、色々な意味で魔境すぎる……のだが、たしかにそういうゲームにはレビュアーがいるんだよなぁ。

ちゃんとクリアまでやりこんだ理解度で書き込まれたレビューを見ると、心を強く保つことができる。なんというか、世の中には俺と同じ志を持ち、俺より強いメンタルを持つクソゲーハンターがいるんだ、と。

「そうだ、一応ルルイアス攻略が進んだか見ないといけないのか…………って」

あ。

「サンラクくーん、麗しいお姉様が迎えに来てあげたよー……って、なんか死にそうな雰囲気出してるけどどしたの? カフェインで寿命削りすぎた?」

「人という生き物は……忘却に笑い、忘却に泣くのだと、悟ってしまった……」

「あぁ、カフェインの摂りすぎで頭が……」

カフェインは用法用量を守って正しく使用しましょう。いやカフェインにそんな脳のシワが減るような危険性はねーよ。












「つーかそれどうやって飯食うの?」

「正直外したいんだよねぇ」

「カッツォは?」

「先に行ってるってさ、私らと一緒に行くと延々と煽られるから逃げたんじゃない?」

「どちらにせよ半世紀は馬鹿にできそうだったからなぁ……くくく」

シルヴィア・ゴールドバーグの輝かしい無敗記録、遂に終わる。
そのニュースはズタボロのシルバージャンパーがケイオースキューブを掴み取った瞬間、全世界に発信された。
伝説を終わらせた者の名は魚臣 慧……そして、その十数分後にラウンド2タテされてあっさり黒マッチョに負けた男の名も、奇遇なことに魚臣 慧であったのだ。

いやホント、末代まで笑い話に出来るね。シルヴィア・ゴールドバーグに勝ったのがそれだけ嬉しかったのか、黒マッチョ……確か既婚者(ジョンソン)相手にイキりにイキってストレート負けである。

「ログアウトした時のカッツォ君の顔すごかったねぇ」

「ハニワみたいな顔してたな」

「んぶっふ!」

顔を背けてプルプル震えるペンシルゴンにバッシバッシと背中をぶっ叩かれる。痛いからやめーや。
でもまぁ、結果的にあいつが満足ならそれでいいか。

「それはそれとしてなんて弄ってやろうか」

「そりゃあもう、満面の笑みで「初勝利おめでとうございます」でしょ」

「むしろジョンソン戦でのイキってる所をそのままモノマネしてやるとか……」

常に共食いと生贄の駆け引きを繰り返している我々は気を抜けばいつ自分が標的にされるか分かったものではない、それはそれとして俺とペンシルゴン……もとい顔隠し(ノーフェイス)名前隠し(ノーネーム)は道すがら雇い主殿を如何に煽るかで話に花を咲かせるのだった。







「……なんか冷静に考えると俺らだけ仮装パーティなんだよな」

「ほら、私は時代を先取りする女だから」

「先取った結果が二ヶ月後、ってそれ先取りというより先走りじゃねえかな」

さらに飛んで白髪白髭に赤い衣装でも着れば四ヶ月後を先取りできるぜ。炎天下にサンタクロースとかオーストラリアか何かか。

パーティ会場の扉にはボディガード的なスーツが立っている、なんというか物々しすぎて帰りたくなってきた。
ああほら、帰りの新幹線を降りて、ロックロールでクソゲーを漁って……おいペンシルゴン人が感傷に浸っているのに躊躇いなく扉を開けるんじゃない。ドレスコードがあったら即死だったんだぞ?

どうも俺とペンシルゴンは遅刻していたようで、既に会場が賑やかと呼べるくらいには人がいる部屋の中からいくつもの視線が俺とペンシルゴンに注がれる。
うーわなんだこれ、この場にいるのがプロゲーマーばかりだからこそ、なのかは分からないが視線の圧がヤバい。プロゲーマーになると目力のステータスに補正が入るのか?

「……なに冬真っ只中に目が覚めた冬眠中のリスみたいな雰囲気出してるのさ」

「無理に例えんでもいいだろそれ……あ、そうだ。「今の俺は、誰にも負ける気がしない(キリッ)」……負けたな、くくく」

「やぁやぁ雇い主殿(マイボス)、この度は悲願達成おめでとうございまーす。その後すぐ負けたけど」

「君らは本当にケンカを売るのが上手な商人だねぇ!」

これは極めて友好的なキャッチボールだよ、友好に比例した豪速球が友好で滑って顔面に飛んで行っただけだよ。
世の中には相手チーム全員をデッドボールでノックアウトすればラスボスチームも五分で片付けられる野球ゲームだってあるんだ、だからこれは友好的なキャッチボールだ。

「焼き肉は?」

「お寿司はー?」

「良かったね、ちゃんとあるから腹に他のものが入らなくなるまで食べるといい。ただ……」

ただ?
スッと横にスライドするカッツォ。はて、何か見せたいものでも……

「なんかいろーんな人が話しかけたそうにしてるねぇ」

「謀ったなカッツォァ!」

「喉が干からびるまでお話しするといいよ、バーカ」

「ええい外道ガード!」

「外道フラッシュカウンター!」

瞬間的に立ち位置を逆転させただと! 畜生、リアルは身体能力パラメータが平等じゃないから……グワーッ!!










Q. あなたプロゲーマーなの?
A. それ言ったら顔隠してる意味ないじゃん?

Q. 凄かった!
A. あ、どうも

Q. どうして今まで公式大会とかに出なかったの?
A. 一身上の都合

Q. 魚臣との関係は?
A. プライベートな友人

Q. どうやったらあんな動きが?
A. 常日頃から理不尽に晒され続けること、ですかね

Q. 魚臣相手に勝率三割ってマジ?
A. マジ、よくボコられてるけど時々勝ってます

Q. なんで顔隠すの?
A. 一身上の都合

Q. ジャックが好きなの?
A. ジャック……? あ、あーこのヘルメットのキャラか、えーと嫌いではないですよ?

Q. FPSやるの?
A. 基本的になんでもやります

Q. 年齢は?
A. それ言ったら声変えてる意味ないじゃん?

Q. お酒どうぞ
A. あ、自分未成年なので……はっ! カッ、魚臣貴様っ!

Q. 申し遅れましたガトリングドラム社の者ですが此度は顔隠し(ノーフェイス)様と一度是非お話がしたいと……
A. え、あ、はい? はぁ……え、インタビュー?










「……ちかれた」

なんであの状況でイキイキできるんだペンシルゴン……精神構造が一般的な人間のそれと別物すぎるだろあいつ。

「肉……肉……」

ぶっちゃけそこまで食いたいわけじゃないが、食事という行為に集中することで癒しを得たい。
ノロノロとビュッフェ方式の肉料理が並ぶコーナーへと向かっていると、ふと所在なさげに立ち竦む夏目氏を発見する。

何故あんなところで……とバカッツォの姿を探してみれば、例のシルヴィア・ゴールドバーグにわちゃわちゃと絡まれていた。
成る程、ジャパニーズ的奥ゆかしさが悪い方向に傾いて話しかけられない、と。

「どう思うかねエージェント名前隠し(ノーネーム)

「君の意見を聞こうエージェント顔隠し(ノーフェイス)

「カッツォ殴りてえ」

「わかるぅー」

理屈じゃない、魂がとりあえずあの野郎殴りたいと叫んでいるんだ。はて、何故俺はフォークを握りしめて?

「しかたない、ここは素敵なおねーさんが一肌脱いであげようじゃないの」

「何か策が?」

「あっはっは……スケープゴートって知ってる?」

「緊急()だ……あっ、ヘルメットに手をかけるなやめろ俺のプライバシーを生贄に捧げるなァーっ!」

「いやぁーそれにしても凄かったね顔隠し(ノーフェイス)君! いやホントまさかプロゲーマーですらないアマチュアなのに(・・・・・・・・)ねーっ!!」

ざわりと、外道仮面によって暴露された言葉にこの場にいる何人か……具体的に言うとプロゲーマーとは違うマネジメントとかしてそうな方々の目がギラリと光った。
彼らは懐に手を突っ込むと、己の主武装たる名刺(チャカ)を構え、こちらへと迫ってくる。成る程これがプレイヤーに群がられるレイドボス視点か……くそ、逃走経路は!?

「お前ーっ!」

「あはははは! 頑張れー」

あいつ〆る、ぜってー〆る!
ああおい待て待て待て、シルヴィア・ゴールドバーグお前何マッチョ共をモンスターテイマーのようにけしかけて……あぁ、筋肉が! めっちゃ笑顔の筋肉が!!


「さて、恋のキューピッドAの尊い犠牲を無駄にしないために恋のキューピッドBが一肌脱ぎますか」








「何やってるんだあいつら……」

色々言いたいことは山積みだが、シルヴィア・ゴールドバーグに勝利したという成果と、スペシャルエキシビションの大成功という事実は爆薬分隊(ニトロスクワッド)の発言力を大きく高めることができるだろう。
少なくともスポンサーからの無茶な命令を拒否できるくらいの発言力が必要なことは今回でよくよく身に沁みた。

「ケ、ケイ」

「ん? どうしたのメグ」

電脳大隊(サイバーバタリオン)のみならず、様々なプロゲーミングチームのスカウトマンに群がられたカボチャを尻目に、慧は呼びかけられた声に応える。

「その、まずはシルヴィアに勝ったの、おめでとう」

「まぁ、その後ストレート負けして結果的には爆薬分隊は負けたんだけどね……」

「試合には負けても勝負に勝ったじゃない、それはきっとすごいこと、前人未到ってやつでしょ?」

「まぁそうなんだけどねぇ……あいつらのお膳立ての上で勝ったようなものだからね、いつかは個人の力だけで勝ちたいよね」

別に複数人による打倒が悪いとは言わない、チーム戦である以上相手を複数回の戦いで消耗させることは当たり前の戦術だ。
だがそれはそれ、これはこれというものだ。かつては仲間達のお膳立てがあっても届かなかった勝利に、今は届く。であれば次は己一人で手を届かせるのだ。

「そういえば気になっていたのだけれど」

「何が?」

「その……天音、じゃなくて名前隠し(ノーネーム)はともかく、顔隠し(ノーフェイス)の方は、アマチュア……なんでしょ?」

「そうだね、本人が時々口を滑らせる情報的に多分高校生だね」

「高校生でアレをやれるの……じゃなくて、スカウトとかしないの?」

なぜか少し離れた場所で奇妙な踊り(ゼスチャー)をしている名前隠し……もといペンシルゴンから目を逸らしつつ、慧はかつて持ちかけた誘いに対してサンラクが返した答えをそのまま口に出す。

「大学を卒業するのが親御さんとの約束、なんだって」

曰く、己の家は一家全員が趣味人故に個人の趣味に対してたいそう大らかであるらしい。だが好き勝手に趣味を満喫する資金などを与えられる代わりにただ一つだけ条件があると言う。

「それが大学卒業?」

「らしいよ、言い方は悪いけどまさかそんな理由で断られるとは思わなかったよ」

二十一世紀初頭ならともかく、今のご時世ではプロゲーマーとは立派な職業だ。例えば賞金の絡んだ大会、例えば今回のようなゲームの公開テスター、例えばゲームのレビュー。
ピンキリこそあるが、最上位の……それこそスターレインの不動のエースであったりするなら、下手なスポーツ選手に匹敵する収入を得ることができる。

そんなビッグドリームのチケットをまさか「期末あるし別にいいや」とキャンセルする奴がいようとは。
とはいえ、現在進行形で捕獲されたエイリアンのような姿でマッチョに捕まったカボチャ頭の姿は、慧にとっては若干の小気味の良さを感じるのも事実。

TASじみた動きを「ね、簡単でしょう?」と言わんばかりにやらかし、あまつさえどうやるのか、という問いに対して「頑張れば誰でもできるだろ」とのたまう馬鹿野郎は、一度自分の価値を知るべきなのだ。











謎の匿名プレイヤー達による好き勝手、シルヴィア・ゴールドバーグの敗北、己の発言。
これら全てが新たな波となって慧に襲い掛かるのは、まだもう少し先のことである。
キューピッドA「名刺でトレーディングカードゲームできそう」
キューピッドB「なんでそこでアプローチしないのかなぁ!? 夏目ちゃんそこはもっとグイグイ押そうよ!」



ここまでヘタレなヒロインが夏目ちゃん以外にいるなんて、いやまさかそんなねぇ
+注意+
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