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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

旅する狼よ、大志を抱け

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大志の灯火を抱いて 其の十一

純白の神剣が振るわれ、絶大な破壊力を秘めた刃が黒狼の脇腹を抉る。だが幾度とない攻撃を受けて尚、リュカオーンは倒れない。大きく抉れた傷口も瞬く間に塞がり、見た目の上では一切のダメージを受けていないようにも見える。
だがずっと戦ってきたからこそ分かる、確かに俺達の攻撃はリュカオーンのリソースを削っている。現にリュカオーンが出現させる分身の数は一体にまで減ったし、地面から影の槍を発生させる全体攻撃も露骨に数が減っている。一度の出現で使える影の量には上限があるのか、それとも別の理由があるのか。それを推し量るにはそれこそ攻略書が必要になるだろうが、生憎そんなものは今この場には存在しない。

「残り回数!」

「あと一回です……!」

リュカオーンの振るう爪が丸太を砕き、背後から放たれたマナ・シェイカーがリュカオーンの後脚を崩す。忌々しげに俺の頭に載っかったエムルを睨むリュカオーンだが、こちらを見る程にレイ氏がフリーになる。
ワイヤー渡りから綱引き用のものを使った綱渡りくらいには安定してきたが、それでもいくつかの問題が発生していた。

「すいませんっ! 【空蝉】はもう使えないです!」

「オッケー下がって!」

秋津茜が扱う「刃隠心得」はその性質上「変わり身丸太」というアイテムの数が魔法の発動回数となるらしく、まさかリュカオーンと戦うことになるとは思っていなかった秋津茜のインベントリに収められた丸太が底をついたということ。
視界の端に表示された文字列……『稼働限界時間、残リ一分』というタイムリミット。規格外エーテルリアクターは悲しい事に充電式なのだ、つまり朱雀の稼働には制限時間があり、それが差し迫っているということ。
そしてレイ氏のみならず、俺自身の集中もそろそろ限界だということ。

(レイ氏の切り札の条件達成まであと一回……こちらの手札はいつ切る、先か? 後か?)

残り二分。朱雀はよく頑張ってくれたが、よりにもよって後数分で巨大な雲が月の軌道に重なる。不可視の分身が解禁されれば、対処しきれるかどうかは微妙なラインだ。
焦りが身体を急かす、もはやリュカオーンの動きは完全に見切ったと言ってもいい。だが蛇が糞を飛ばしてくるようなゲームだ、何がフラグになって特殊行動を起こすか分かったものではないが為に、攻勢に転じる後一歩が踏み出せない。

「レイ氏! 次の攻撃は!」

「一分下さい!」

朱雀のリミットが迫る。頭の中で複数展開されたタイマーがこんがらがって、どのスキルがリキャスト中でどのスキルを発動しなければならないのかを見失いそうになる。
生意気にも俺の動きを読んで先読みで俺が数秒後に着地する位置に噛み付きを放つリュカオーンに対し、空中を踏む事で無理矢理軌道を変えて待ち受ける顎門から逃れる。よし、フリットフロートのリキャストは今からだな。

「どうする……聞いた話じゃレイ氏の切り札は動きを止めないと当てるのが難しいらしいし……」

動きを止めるための拘束系スキルは生憎持ち合わせていないし、エムルのマジックチェーンも拘束と言うには少々出力が足りない。であれば狙うは怯みモーション、Mobの全アクションを強制中断させる絶対の摂理でリュカオーンを止めるしかない。であればやはりそのタイミングで俺の切り札を切るのが最適解、ではあるのだが……実を言うと、俺の握る隠し球も相手の動きが停止していないと当てるのが難しいのだ。不可能ではないが、難しい。

「どう当てる……全体攻撃か、通常攻撃か、分身発動中か……」

ただ当てればいいわけではない。レイ氏の切り札の射程圏内まで追い込んだ上で怯みを誘発しなければならない、つまり怯み値の制御と位置取りの立ち回りを両立させた上で攻撃を当てなければならない。なんたる高難易度、流石の俺も乾いた笑いが口から漏れる。

「ヘイトを集めて、あえて全員一箇所に固まる……いや、分身を出されたら失敗する。向こうの攻撃の発生と同時でなければ当たらない、どうやって行動を絞らせる。確実に本体が殺しにくる行動誘発……くそっ」

全く可愛らしくもなければ破壊力はもっと可愛らしくない前脚パンチの連続を、地面に叩きつけられた前脚による衝撃波に影響されないギリギリの位置を保ちながらステップを刻んで回避する。もはやバックステップというよりバック走に近い勢いで足を動かし、リュカオーンの攻撃終了時点で至近距離を確保する。
俺自身も攻撃を何度か当ててはいるが、やはりエムルによる「有効打」でなければ目まぐるしく移り変わるリュカオーンのヘイトを奪えない。ダメージの多寡ではなく、それがリュカオーン自身に通じるかどうか、が奴の優先度の基本なのだろう。そう考えればSF-Zooが奴と戦った時、タンクを無視して後衛を襲った事にも納得がいく。奴からすれば多少硬い程度のタンクよりも、どうとでもなるとはいえ自身を拘束してみせた後衛の方がウザかった、そういうことだ。

「ナメくさった理由だが、絶望的に有効なのが腹立つ」

的確に本命のエースを刈り取りに来る、プレイヤーの狡猾さをモンスターが行う。言葉にすれば容易く実行されればクソボス、ユニークモンスターというエンドコンテンツじみた要素でなければバランス崩壊も良いところだ。
朱雀に残された時間は一分半、そこで試合が終わるわけではないが、少なくとも透明分身の解禁で事態が好転することはないだろう。

「えーと、これ命令は普通に喋ればいいのか……」

「誰と話してるんですわ?」

「お空の鳥さん」

「サンラクサン……そんな、頭が……」

振り落とすぞこの野郎。
ナチュラルに毒を吐くようになりやがって、一体誰に似たんだが…………オイカッツォやペンシルゴンから悪い菌でも貰ったかな、うん。

「いいか朱雀、就寝前に一仕事頼む。俺が合図したタイミングで…………」











ここが正念場だ。
朱雀にオーダーを飛ばし、手短に他メンバーとの作戦会議を終えた俺は、武器を兎月から煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)に変更する。

「エムル、タイミングを合わせろよ!」

「はいなっ!」

「サンラクさん、いけます!」

「オッケー……よっしゃ来いリュカオーン!」

しくじれない、細心の注意を……三、二、一、今。
腰の捻りから生じるエネルギーを遠心力に乗せて、脱力と力みを混ぜたフレーム調整による裏拳がリュカオーンの前脚へと叩きつけられる。
人間の首程度なら力づくで刎ね飛ばしてしまう恐るべき前脚に力が充填される寸前、一瞬の「ゆるみ」を衝いたパリィ。五秒にも満たないほんの数秒の空白、そこへと漆黒の騎士が身体と剣をねじ込んでいく。

「カタストロフィ……っ!!」

顎に叩きつけられた大剣が、リュカオーンの右目を切り裂く。堪らず怯むリュカオーンではあるが、真上へと仰け反った顔、傷つけられた一瞬塗装されていない泥人形のような無機質さを帯びた右目は瞬く間に回復し、血の一滴すら垂らすことなく再び黄金の眼光を宿す。

「条件達成です……!」

「即ブッパ!」

「はいっ!」

ここからが本番だ。俺と、エムルと、そして朱雀でこいつをこの場に完全に縛り付ける……!

「今だ朱雀!」

『了解シマシタ、|焼却対魔刃《インシレート:スラッシャー》起動。』

機械仕掛けの朱雀が灼熱の流星となって急降下する。残る全出力を掻き集め、腹部に格納されていた長大な物理ブレードを展開し、翼の推進をただ一直線に、紅蓮の尾羽が轟音を立てて大気を焼き払う。
重力の後押しを受けた加速する朱雀が狙うはリュカオーンの後脚、生物としての形を持つ限り機動力の大半を依存する「足」を穿つ。当然リュカオーンが爆音と共に落ちてくる朱雀に気づかないはずもなく、狙われた後脚で蹴り上げることで迎撃せんと力を込め……

「悪いなリュカオーン」

例えるならトランプじゃなくてTCGなんでな、切り札の連打(・・)で押し切らせてもらう。

「【超過機構(イクシードチャージ)】!」

「マナ・シェイカー!」

「我は混沌を手繰る者……!」

ヘイトの基準さえ分かってしまえば攻略方法はどうとでも立てられる。AIが判断する脅威度の更新(・・・・・・)、突発的な危険の発生が怯みと同じ隙を生む。
第一に真正面に立つ俺が切り札を切った。
第二に斜め後方で待機していたエムルが脚に攻撃を仕掛けた。
第三に俺の背後に陣取ったレイ氏が切り札の発動に入った。
四つの危険、分かっていてもどうしようもないから「詰み」と言うのだ。お前の持つ全体攻撃が今からでは間に合わないことは分かっている、どれかを封じても残った切り札がお前に当たる。だからお前が今この瞬間に選べる選択肢はただ一つ。

「やっぱ乱数はクソだな」

こんな時に限って、月光が翳る。即ち分身は闇夜に溶け、その姿を不可視のものとする。四枚の手札は既に切られた、分身への対処は不可能であり、あいつ(・・・)がなんとかしてくれなければ総崩れだ。

「頼むぞ……秋津茜!」
其の十まででまとめるつもりだったのに……

・そもそも遺機装って何がすごいの?
通常の鍛治では作れない武器カテゴリが存在する、銃とか銃とか銃とか。
さらに「機装」共通の機能(スキル)を持っており、控えめに言ってクソ強い。ただしデメリット有り
+注意+
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