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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

旅する狼よ、大志を抱け

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獅子は兎に全力を、蟹は不死鳥にピザカッター

「一体何をした……!?」

戦闘勝利のリザルトを終え、エントランスに戻ってきた俺に掴みかかるように迫るルスト。その傍らには呆然としたモルドが立ちすくんでおり、あまりに容易く敗北を刻まれたことをこの二人はまだ理解できていないようだ。

「それを今明かしてもいいけど、自分で解いた方が楽しいだろう?」

ヤカン頭を揺らし、心の底から湧き上がる優越の感情を隠すことなく俺はルスト&モルドへと再戦を告げる。
一勝一敗一分……これでようやくイーブンだ。さっきの戦いは要するに初見殺しの押し付け、勝ったというには少しばかり格好がつかない。

「モルドだったか、君ならさっき俺が何をした(・・・・)のか分かるだろう?」

「……なんとなく、は」

「モルド、どういうこと……!?」

モルドの方はなんとなく分かっているんだろうな、フィドラークラブが仕掛けた罠に本当に引っかかったのが誰なのかってことをな。











既に不死鳥は堕ちた。しかしながら再びのチャンスを与えられたルストは、勝者にのみ許された傲慢を自分が受ける立場になった屈辱をひとまず忘れて再び搭乗した緋翼連理で注意深く周囲を索敵しながらモルドに問う。

「教えて、一体何が起きたの?」

『……あの時、ルストが近接攻撃を仕掛けた瞬間。フィドラークラブは「ジャミングセンサー」を使ったんだ』

「ジャミングセンサー……自身の座標を誤魔化すだけの産廃」

成る程、視覚的に消える光学迷彩に加えてセンサーを欺くジャミングセンサーを組み合わせればこのゲームにおける認識力から逃れることはできるだろう。
だがそれにしたって理解が及ばない。あの瞬間、推進のエフェクトから先を読んで斬りつけた緋翼連理は突然その動きが縛られたように止められ、抵抗する間もなく四肢を切り落とされ、胸部を潰されて破壊されたのだ。
一体何が起きたのか、それを知るのは第三者視点からそれを観測していた他のプレイヤー達と、それを成した本人(サンラク)……そして戦闘中のフィールドにおいて限りなく第三者視点に近い立場のモルドのみ。

『……一言で言えば、ジャミングで敵の位置が分からなくなった一瞬でフィドラークラブは君の真後ろに回り込んだんだ』

「……ありえない、あの位置から緋翼連理の後ろに回り込んだのなら、必ずブースターのエフェクトが発生する。地面を歩いていった可能性もありえない」

噴脚は地上歩行能力を持たない。常にエネルギーを消費し続けることで空中に滞空するユニットであり、エネルギー残量を代償に常時空中という地の利を得ることができるのだ。
であれば後ろに回り込むためにはブースターを吹かすことは必須、そしてそれを見逃すルストではない。

(…………待って、エフェクトを(・・・・・・)出さずに移動する(・・・・・・・・)?)

バトルが開始され、緋翼連理で飛翔しながらルストは考える。
推進のエフェクトとは即ち炎であり熱をゲーム的に可視化したものである。という事は炎や熱に頼らない移動方法であればエフェクトによる場所特定の危険性はなくなるという事。

(まさか……)

「モルド、不可視の移動のネタがわかった」

『え?』

「私の予想が正しければ……」

縦に大きく開いたストリート跡地へと躍り出た緋翼連理は、その場で静かに佇むフィドラークラブに照準を合わせ、発砲。
先程のゲームを再現するかのようにフィドラークラブの姿が消え、噴脚から発せられるエフェクトが途切れる。

「このゲームで移動時にエフェクトの発生しない空中移動(・・・・)はただ一種類……!」

滞空する緋翼連理の下方、瓦礫がわずかに舞い上がるそこへとガトリングを斉射、そしてついに隠れていたフィドラークラブがその姿を露わにする。

『じ、重力浮脚!? なんで、噴脚の筈じゃ……ま、まさか!』

「二週間前にアップデートで実装された新ネフィリムタイプ……偽装双脚(ぎそうそうきゃく)、それがフィドラークラブが消えたカラクリ……っ!」














「あらま、バレちゃった」

まぁ二度同じ手が通用するとはハナから思っちゃいない、それにこのフィドラークラブの初見殺し性能はあくまでも氷山の一角に過ぎない。
それにしてもこの偽装双脚というタイプのネフィリムは実に面白い性能をしているな。

「ケンタウロスみたいな四つ脚人型上半身ではなく、文字通り脚を「切り替える」タイプ……」

下半身が縦軸で回転し、尻の部分に折り畳まれた二つの脚が第一脚と切り替わる事で、二タイプの脚と最大四つの脚部武装を装備可能というまさにぶっ壊れ性能……とはいかない辺りがちゃんと調整された良ゲーだ。
まず純粋に重さが増えることで機動力が死ぬ。大型ブースターを搭載すれば機動力はある程度まかなえるが、やはり重量が嵩むのでキングフィッシャーのような超高速機動は不可能だ。
次に燃費、これはもう分かりやすいというか分からない方がおかしいレベルで最悪だ。
何せ足二つ分に加えて切り替え機能にまでエネルギーを割り振るため、兎にも角にもエネルギーをバカ食いする。
そんなわけで実装されて日が浅いとは言え、あまり使われていない理由がそれだ。
なので、俺はその逆に振り切る事にした。エネルギー効率など最初から考えない、積みたい武装を全部積んで短期決戦のみを狙う。
このフィドラークラブ、全武装をフル稼働した場合なんと一分でエネルギーがすっからかんになる潔さだ。だがその分ひとたび射程圏内に入り込んできたなら、獲物は絶対に逃さない。

「さぁ、どうする緋翼連理?」

しばしの膠着の後、緋翼連理が選択した行動は……加速。どうやら距離を離しての様子見ではなくこちらに対応を誘発させる様子見を選んだらしい。
双剣を構え、肩に装備したガトリングを掃射してくる緋翼連理に対し、こちらもまた接近の一手を選択。
下半身が回転し、噴脚へとモードチェンジして雨あられの如く降り注ぐガトリングを最小の動きで回避、エネルギーをぶちまける勢いでブーストする。
地の利は向こうが有利、手の内はこちらが有利、ゲームの経験値は向こうが有利、であればこちらがルストを上回るために必要な要素は……

「確殺の状況に追い込む技量だ……!」

再度光学迷彩を起動、消える機衣人(ネフィリム)に対して緋翼連理は冷静な対処を行う。
あえてラグを入れてのジャミングセンサー、数秒間だけ俺は緋翼連理の、ルストの認識の世界から消失する。
脚部を浮脚へとチェンジ。静かに、そして大胆に俺は緋翼連理の真正面へと接近し、あえて自分から光学迷彩を解く。
ジャミングセンサーによるセンサーの妨害は攻撃を行う事で解除される。
向こうもそれは承知の上で、構えた双剣は先程の戦闘で食らったあの攻撃を警戒してのものだろう。
だからこそこちらから姿を現わす。注意を向けた草むらからではなく、ストレートに真正面に現れるのはホラーゲーにおける怪物の常道、そして常道ということは効果的ということだ。

「回避するにせよ、迎撃にするにせよ……そこは射程範囲外(・・・・・)であり射程範囲内(・・・・・)だ」

右腕に装備した【ブックメーカー】はメイン武装であると同時に左手を隠す盾でもある。
唐突なフィドラークラブの出現、自ら位置をバラすような行いに対して緋翼連理はその挙動を乱すことなく双剣を振りかぶり、どうやら気づいたらしい。
緋翼連理とフィドラークラブの位置関係は近距離武器を当てるには遠く、中距離武器が当たるには近すぎるという中途半端な距離。
二機の間に作られた空白を詰めるか詰めないべきか、フィドラークラブの全容を把握していない緋翼連理はそれが罠であるのかどうかを瞬間的に判断しなければならない。
その上で回避するのか、迎撃するのか、一目散に距離を離すのか、攻撃しつつ交代するべきか、あらゆる選択肢を叩きつけて機体ではなくそれを操るプレイヤー自身を攻撃(・・)する。
とはいえ、これだけでは向こうは容易く対処するだろう。であればこそ……ここからがフィドラークラブの狩りだ。

「このゲームの仕様は昨日のうちに検証済みなんだよ……!」

浮脚側の左脚に装備された、数秒間相手の動きを物理的に止めるキャプチャーネットを放つ。
射出された弾頭が開かれ、強化ワイヤー製のネットが花開くように展開して緋翼連理へと飛び掛る。
ネットの射出速度は比翼連理のブーストよりも速い、であれば選択肢は上下左右のいずれかに後退しながら避けるしかない。
そして緋翼連理の真骨頂たる不規則機動が回避に用いられた瞬間、時間で言えばキャプチャーネットを放ったのとほぼ同タイミングであらかじめ来るであろう場所に、敵自身が当たりに来るよう攻撃を放つ偏差攻撃……所謂「置き攻撃」を放つ。
キャプチャーネットの当たり判定はそれを放った機衣人(ネフィリム)による別の攻撃には反応しない。
即ち、キャプチャーネットを盾として放たれた左腕のスタンメーザーはワイヤーの網をすり抜けて、そのまま回避機動に入った緋翼連理に命中する。

「ぶっちゃけ「キングスギャンビット」みたいなセンサーガン積み遠距離機体に致命的に弱いんだが……その点、中近距離メインの機体にはめっぽう強いんだなこれが」

三秒あれば距離は詰められる。五秒あればフィドラークラブの「鋏」が敵を仕留める。
右腕の【ブックメーカー】が緋翼連理の首を掴んでギリギリと締め上げ、フィドラークラブの背中に搭載されたユニットを稼働させる。

「悪いな、望潮なんて名前をつけてるが……こいつの「鋏」は三つある(・・・・)

背部搭載式(リモデラー・サー)工業型丸ノコ(キュラーソー)【ピザカットウィング】。
ほとんどの攻撃手段が「対超巨大ネフィリム用武装」というフィドラークラブの火力は、重量級機体であっても五秒で耐久を0まで溶かす。

先程の試合と同様、八つ裂きにされた緋翼連理が爆散し、俺は勝ち越しの余韻に笑みを浮かべるのだった。
Q.要するに主人公は何をしたの?
A.ネフィリム・ホロウは神ゲーではなく良ゲーであるため、所々にゲーム的妥協があります。
攻撃と攻撃が同じ座標に重複する(自身の放ったミサイルにレーザーを打ち込んでもミサイルは破壊されないし両方とも当たればダメージが入る)為、キャプチャーネットを盾がわりに回避行動をとった緋翼連理の機動を読んでスタンメーザーを当て、オーバーキル火力で八つ裂きにするという戦法です。
厳密にはルストに情報を伝えるモルドに対して情報の奔流を叩きつけ、ルスト自身の判断で行動させる事で向こうの行動をある程度縛らせています。


実はフィドラークラブはキングスギャンビット相手だと七割不利です。
隠密が意味をなさない上に射程範囲外からイジメ倒されるので。
+注意+
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