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異世界の神子は、逆ハーを望まない  作者: 一花八華
第一部
20/32

16

個室ルームを抜け、ラウンジへと通される。

白で纏められた室内は、質素でいて上品で、落ち着くようで落ち着かない。こんな場所に慣れていない私は、借りてきた猫のようにギクシャクと前に進む。


白い皮のソファーに、深々と身を埋め優雅に寛ぐ人と目が合う。


「ヴォルフ。」

「…」

「ごめん。待たせたよね。」

「…」


あれ?返事がない。待たせ過ぎたのか、機嫌が悪い。


「ヴォルフ?」


近づいて、顔を覗き込む。目を見開いてこちらを凝視してる。えっ。もしかして、驚く程似合ってない?何時もなら【綺麗だお嬢さん。とても似合ってるよ。】とかなんとか、手放しで誉めてくるのに。


「…似合って…ない?」


うー。リタさん。お化粧までしてこの反応だと、私流石に凹みますよ。


「…お嬢…さん?」

「うん。」

「その、髪型と…姿は…」

「髪型は、洋服に合うようにって…リタさんが。」


姿は、貴方が選んだ服だけど?


「リタ?」

「店員の」

「ああ。そう。」


聞いてきといて、その生返事は無いんじゃない?

そんな風に、まじまじと見つめられるのも…居心地が悪いんだけど…。


「…参ったな…。」


口元を抑え、そう呟くと私から視線を外す。


「ヴォルフ?」

「ああ。いや、こっちの話。それじゃ行こうか。街を案内するよ。」


立ち上がると、歩き出してしまう。


ーそれだけ?

もっと何か言ってくれても…


いや、なんでそんな気持ちに。

別にヴォルフに、褒めて貰いたかったわけじゃないし。これは勝手にリタさんがやったわけで…。


でも…

思わず、服の裾をぎゅっと握りしめ俯く。


「お嬢さん?」


ヴォルフに声をかけられ、慌てて指の力を緩める。いけない。洋服に皺ができちゃう。

せっかく綺麗にしてもらったのに…。

リタさんやお店の方にお礼を告げ、外にでる。


どうしてだろう。

さっきまで、弾んでいた気持ちが、今はなんだか重くて…


「…お嬢さん。」


見上げると、ヴォルフが困った顔をしてこちらを見ていた。


「その。自分で選んでおいて…言うのもあれなんだけど。その格好…よく似合ってるよ。」


眉尻を下げ、口元に手をあてながら言葉を選ぶように喋るヴォルフ。


「…別に。お世辞なんていらない。」

「お世辞なんて。寧ろ、綺麗過ぎて言葉が見つからなかった。それに、髪やメイクまで…。」

「似合わないのは、わかってる。」


だから、何も言わなかったんでしょ?


「似合い過ぎてるから…困るんだ。」


私から視線を外し、髪をくしゃりとかきあげる。


「その格好、失敗したな…。セシル…いやルドルフの旦那にも見せたくない…。」


失敗したって…失礼な。思わずカチンとくる。


「そこまで変なら、メイクも落とすし、髪も戻す!一緒に歩くのが嫌なら、私ひとりで散策するから!ヴォルフは、宿にでも帰っててよ!」


ほんと失礼!確かに、私はちんちくりんかもしれないけど、綺麗にしてくれたリタさんにも失礼だ!


「いや、だからそういう意味じゃないって。参ったな。お嬢さんとだと調子狂う。」


「綺麗だから、他の奴に見せたくないって言ってるんだよ。って何言ってんだ俺…あー。」


俯き、頭をわしゃわしゃと崩し呻くヴォルフ。


「ヴォルフ?」


それは、褒めてくれてるの?覗き込もうとしたら、片手で制止される。


「あー。今、俺の顔見ないでくれる?」


「えっなんでよ。」


「今、見たら。さっきの続きする。お嬢さんが嫌がっても、止めないから。」


下を向いたまま、恐ろしい事を告げてくる。

さっきの続きって…あの…キスの…続き?


いやいやいや!

あれ、反省したんじゃなかったの!?

貴方、さらっとセクハラ宣言してんじゃないわよ!この変態!!!




◇◇◇




「なー。お嬢さん。機嫌をなおしてよ。」


後方で、変態が声をかけてくる。

無視だ無視!あれは、害虫!歩くセクハラ魔人!


「ひとりで歩くと危ないよ。お嬢さん。」


今は、貴方と居る事が危ないんです。

ほっといてください。って、うわっ!


「ごめんなさい!」


前方から歩いて来た人と、ぶつかりそうになり慌てる。


「ほら、危ないからさ。」


困ったように笑うヴォルフに、腕を掴まれ思わず叫ぶんでしまう。



「エッチ!チカン!ヘンタイ!触らないで!女の敵!」

「ちょっ。お嬢さん。」


うわっ。いけない。街中で叫ぶものだから、周りの視線が…。


更に人の目を引いてしまい、私はその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになってしまった。なんでこんな事に…


「ちょっと…何騒いでんのさ…みっともない。」


おろおろとしていたら、いきなり腕を掴まれた。ざわざわとどよめく人混みの中、ぐいっとひっぱられ、よろけそうになる。ーぽふん。

頭に、厚く弾力のよい感触。がっしりとした腕が私を包み込み、支える。


「危ない。セシル、神子殿の腕を引っ張るな。」

「…だって。」

「大丈夫か?神子殿。」


見上げるとルドルフさんが、苦笑しながら私を支えてくれていた。横には、私の腕を掴み、頬を膨らませたセシル君の姿が。


「あんた達が遅いからさ。迎えにきたわけ。」


つーんと剥れた顔で、セシル君が喋る。


「買い出しは?」

「目当ての物は無事買えたぞ。神子殿達は?」

「あー。ソレが色々あって…」


ルドルフさんの言葉に、ヴォルフが頭をかきながら言い淀む。


「そうね。ほんと…色々あったわよね。」


ギロリと睨み付け口にする。言葉に刺があるって?ふん。知った事じゃないわよ。


「何があったわけ?詳しく知りたいんだけど。」


私とヴォルフの様子を、じと目で見ていたセシル君が、ムスっとしたまま尋ねてきた。

セシル君…目が据わってるよ。機嫌まだ治ってなかったんだ。そんなに買い出し嫌だったんだね。無理に行かせてごめんね。


「それに…ミコト。なんで着替えてるの?お洒落までして…まるで…」

「む。デートでもしていたのか?」

「やっ。違う!違います!これは、川に落ちちゃってそれで!!」

「なんで、川に落ちたのさ。」


おおうっ。セシル君ったら。顔に似合わず低いお声。


「あー俺がちょっとばかし、ヘマをしちゃったからだよ。」

「ヘマ?ミコトにナニかしたわけ?エッチとか叫ばれてたけど、ヴォルフ…ミコトに変な事…してないよね?」

「セシルに言う必要ないだろ?」


目を細め笑うヴォルフを、セシル君が睨み付けてる。


「それとも何?お嬢さんにナニかする時は、セシルの許可がいるわけ?」

「ーっ!!」


「許可が合っても、何もするな。」


呆れたように言いながら、ルドルフさんが仲裁に入る。


「神子殿に危害を加える事は、私が許さん。」


ルドルフさんの言葉に渋々頷く、ヴォルフとセシル君。


いや、なんか私を巡って喧嘩はやめて!っという逆ハーテンプレヒロインの台詞が頭を過りかけた…。


いやいやいやいや、どんだけ自意識過剰なんですか!私!

逆ハーなんて望んでませんからね!?

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